【トランプショック】(02) 反グローバル、解なき拡散

20161114 01
アメリカとイギリスという世界を代表する2つの民主主義国が、半年で次々と既存秩序をぶち壊した。“再び偉大なアメリカを(Make America great again)”――。ドナルド・トランプ次期大統領の合言葉は、今年6月のイギリスの国民投票で『ヨーロッパ連合(EU)』離脱派が使った“再び偉大なイギリスを”と瓜二つ。どちらも、世論調査機関や市場は、有権者の変革への意思を全く読み誤っていた。写し絵のような米英の展開は、アングロサクソンの両国が導くグローバル化やエリート(支配層)主義に、庶民が募らせる不満の表れだ。国家や市場を分ける壁を取り、貿易や人の流れを自由にしても、繁栄の果実は届いていない。寧ろ、激しい競争で職や生活に不安が増し、アメリカ人の8割は所得水準が金融危機前を下回るとされる。活発な競争を通じた新自由主義や、多国間で自由貿易の枠組みを築く従来の路線を否定することが、有権者の心を掴む。トランプ氏の下、日本を含む『環太平洋経済連携協定(TPP)』や、アメリカ・EUの『環大西洋貿易投資協定(TTIP)』の実現は極めて難しくなった。“反グローバルを唱えて票を稼ぐ”という模範例ができ、大衆迎合主義(ポピュリズム)を武器とする政党が勢いづく。

フランスの極右政党『国民戦線』のマリーヌ・ル・ペン党首は、「アメリカ大統領選は自由の勝利。我々も、自由を阻むシステムを打ち壊そう」と、来春のフランス大統領選に向けて、既存政党との対抗姿勢を剥き出しにした。イギリスに続く離反を避けたいヨーロッパの周辺国は、気が気でない。「人々を扇動するポピュリズムは、アメリカだけでなく、西側の至る所で憂慮すべき事態になった」と、ドイツ連邦財務省のヴォルフガング・ショイブレ大臣は指摘する。来年のヨーロッパは、フランス大統領選と、オランダやドイツの総選挙が重なる選挙の当たり年だ。トランプ氏が大統領として剛腕を発揮するほど、“反EU”の機運は高まりかねない。世界経済を支える貿易の停滞に、『国際通貨基金(IMF)』等の危機感も強い。反グローバル化を叫ぶ勢力の伸長は止まりそうにないが、それを唱え、保護主義を強引に進めていくだけでは、経済の繁栄や生活の充実への解になり得ないのは明らかだ。「偏狭なナショナリズム(国家主義)の乱立になりかねない」。『中前国際経済研究所』の中前忠代表は危惧する。グローバル化や市場主義に背を向けるのでなく、生じた歪みをどう直していくのか。「グローバル化に代わる選択肢は無い。もっと人間的な形に変えていく努力こそが必要だ」。『モンテーニュ研究所』(フランス)のドミニク・モイジ首席顧問は、過剰な不平等の解消等、具体的な政策の明示を呼びかける。有権者の怒りを踏み台にのし上がったトランプ氏も、これから彼らを納得させる答えを示さねばならない。日本やヨーロッパ、そして新興国の首脳にも、反グローバル化のうねりを抑える賢明で繊細な政策選択が問われている。“トランプショック”を生んだ背景を正視すべき時だ。 (編集委員 菅野幹雄)

アメリカの次期大統領に、共和党のドナルド・トランプ氏の就任が決まった。“アメリカ第一主義”を掲げ、孤立主義や保護主義に傾く超大国の新たな指導者に、世界はどう向き合えばいいのか。政治学者でコンサルティング会社『ユーラシアグループ』社長のイアン・ブレマー氏に聞いた。

――トランプ新大統領は、世界情勢にどんな影響を及ぼすのでしょう?
「彼の当選は、アメリカの指導力や自由・市場主義といった価値観を考える上で、旧ソビエト連邦崩壊時に匹敵する重要な出来事だ。嘗て、東側諸国がアメリカを見習おうとしていた時期もあったが、最近ではアメリカの指導力に衰えが目立っている。今回の大統領選挙は、“パックスアメリカーナ”(アメリカ主導の平和)に終止符を打つものだ。世界は、本当に指導的な国が存在しない“Gゼロ”時代に入った」

――どんな外交を展開するのでしょう?
「“ユニラテラリズム”(単独行動主義)色が濃くなる。外交は1対1で交渉し、互いに利益があると判断すれば話を纏める。また、役に立つと考えた国とだけ関係を強化する。人権や独裁といった価値にも無関心だろう。自身がビジネスマンだった経験が大きい」

――日米関係はどうなるのでしょうか?
「在日アメリカ軍の駐留費負担の問題は燻るが、テロやサイバー攻撃との戦い等、安全保障面での基本原則は大きく変わらない。ただ、トランプ氏が同盟に利用価値を見い出せず、安保協力が冷え込めば、防衛力の強化に向けた安倍政権の主張に説得力が出てくるだろう」
「日本にとっての問題は、寧ろ経済関係だ。トランプ氏は未だに、日本を(貿易摩擦が激しかった)1970年代や1980年代の印象で見ている。『日本にはやられっ放しだから、高関税をかけるべきだ』といった主張に傾き易い。“環太平洋経済連携協定(TPP)”は最早、死んだに等しい。オバマ政権が掲げたアジア回帰にも、トランプ氏は価値を見い出していない」

――オバマ政権と険悪だったロシアとの関係はどうなりますか?
「劇的に改善するだろう。(ウクライナ問題を巡り発動した)経済制裁も、解除する可能性が高い。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、アメリカ的価値に拘らないトランプ氏の登場を喜んでいる。プーチン氏は来月訪日し、安倍政権が進展に意欲を示す北方領土問題を話し合う予定だが、トランプ氏は気にかけないだろう」

――次期政権のキーパーソンは誰でしょう?
「トランプ氏の長女のイバンカ氏の夫であるジャレッド・クシュナー氏だ。実質的に今回の選挙戦を取り仕切り、トランプ氏がイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相やメキシコのエンリケ・ペーニャ・ニエト大統領ら首脳と会った際には、必ず傍らにいた。トランプ氏にはアドバイザーが多くいるが、本当は直接会っていない。共和党の外交専門家たちも、トランプ氏とは一緒に仕事をしようとはしないだろう。一族で、しかも有能なクシュナー氏こそが、カギを握る人物だ」 (聞き手/ニューヨーク支局 稲井創一)


⦿日本経済新聞 2016年11月11日付掲載⦿

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