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【クスリの大罪】(13) 気付いたら“薬漬け”に…精神医療の深過ぎる闇



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「あの時、しっかり休暇を取っていれば、こんなことには」――。悔やんでも、もう遅い。失った時間や被った経済損失は取り戻せない。医療機関での不適切な向精神薬処方によって、患者たちが人生を棒に振る悲劇が長年繰り返されてきた。被害者には共通点がある。仕事等の無理が祟って心身が悲鳴を上げた時、精神科や心療内科に救いを求め、無責任な医師が安易に処方する過剰な薬を長期間飲み続けてしまったのだ。被害者の不調の原因は、元はといえば心労や睡眠不足だった。有給休暇を消化して、心身を休めればよかったのだ。仕事がきつ過ぎるのなら、上司や会社に申し出ればいい。それでも駄目なら転職という選択肢もある。だが、被害者たちは“休む”という当たり前の行動を取れなかった。このような人たちが精神科や心療内科を受診すると、直ぐに鬱病・睡眠障害・不安障害等と診断されて、複数の薬を処方されるケースが極めて多い。薬物治療が全て悪いわけではないが、働き過ぎという根本原因を改めないまま薬を飲んでも、問題は解決しない。そればかりか、漫然処方は患者を副作用で苦しめ、自然回復力を奪い、単に疲れているだけの人を“慢性疾患患者”に変えていく。睡眠薬や抗不安薬の服用が長期化すると、患者は処方薬依存に陥る。薬を減らすと体調不良が起こるので、薬を益々止められなくなる。その先には、薬の影響により作業能力が低下、失業し生活保護の受給を余儀なくされる等、負の連鎖が待ち受けている。処方薬依存の被害者は、日本では少なくとも数十万人規模で存在するとみられる。だが、国も医療界も実態調査をしようとしない。そればかりか、「断薬後の体調不良は薬のせいではない」等と主張し、被害を矮小化しようとしている。

被害者が声を上げても無視され、裁判を起こしても現状では先ず勝てない。その為、深刻な医療被害に歯止めがかからず、社会的損失が拡大し続けている。被害者探しに苦労は要らない。私たちの周りにいくらでもいるからだ。東京都内に住む福島宏さん(※仮名、56)は、心療内科クリニックの漫然処方で10年間を棒に振り、仕事を続けていれば得られた筈の収入約2億円をふいにした。優秀な商社マンだった福島さんが長期間働けなかったことによる社会的損失は、無駄に費やされた医療費まで含めると、その数倍、数十倍にも上るだろう。福島さんは東京大学法学部を卒業し、大手総合商社に入社した。仕事は順調で、やり甲斐を感じていた。海外赴任を何度も経験して、結果を出していった。若い頃はそれほど眠らなくても仕事に打ち込めた。だが、40代になると体が悲鳴を上げた。新規事業の立ち上げと不採算部門の切り捨てに同時に関わる等、精神的にも過酷な場面が増えて、心までも悲鳴を上げ始めた。45歳の時、疲れているのに目が冴えて眠れなくなった。朝の満員電車内で激しい動悸に見舞われるようになり、出社後も集中できずに仕事を停滞させた。次第に「自分は社内の笑いものになっている」との思いに駆られるようになり、同僚の視線に恐怖を感じ始めた。会社には内緒で近所の心療内科を受診した。医師は10分程話を聞いただけで、鬱病・パニック障害と2つの病名をつけた。治療の見通しや服薬期間等は示さず、抗鬱薬・抗不安薬・睡眠薬を計4種類処方した。福島さんはこう振り返る。「『薬を飲めば直ぐに回復して、また仕事に打ち込める』と思い込んでいました。苦しくて何かに縋りたかったとはいえ、縋るものが間違っていたのです。愚かでした」。そして、こう指摘する。「精神科や心療内科が出す向精神薬は、効いたとしても症状の一部を一時的に改善するだけで、不調の根本原因を治すことはできません。そればかりか、飲み続けると深刻な副作用に見舞われる可能性が高い。私の症状の原因は過労だったのです。周囲の目など気にせず、長期休暇を取ってゆっくりしたり、仕事内容を変えてもらったりしていれば、間違いなく治っていました。でも、罪悪感からそのような行動に出られず、医者と薬に頼り切ってしまった」。睡眠薬の効果で少し眠れるようになった。だが、4種類の薬を飲み続けて1ヵ月程すると異変が起こった。万能感に満ち満ちた躁状態に陥ったのだ。「弁護士になる」と妻に宣言して、司法試験の勉強を始めた。同時に「プロゴルファーになる」とも宣言して、ゴルフの打ちっ放し練習場に通った。性格は著しく攻撃的になり、貯金の殆どを株式投機に費やしてしまった。長年勤務した大手総合商社に対しては、言い知れぬ怒りがこみ上げてきた。いきなり退職願を出して、畑違いの会社に転職した。服薬開始から半年後のことだった。転職した会社の採用面接では、「自信満々な態度で、できもしないことを平気で語っていました。でも、当時は本当にできると思い込んでいた」という。

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転職先では役員待遇で迎えられたが、収入は激減した。ハイテンションのまま4年勤めた。「社員に無理難題ばかり押し付けて、大変な思いをさせてしまった」と悔やんでいる。薬の影響で福島さんの生活が激変しても、心療内科医は5分程の診察を繰り返すだけで、同じ薬を処方し続けた。「どうですか?」「だいぶ元気になりました」「そうですか」。その繰り返しだった。福島さんは、薬に頼る気持ちが益々強まった。「元気になったのは薬のおかげ。飲まなければ大変なことになる」と思い込んだ。その頃の心境を福島さんは、「合法・非合法の違いはあるにせよ、覚醒剤に頼る人の気持ちと同じです。薬なしにはいられなかった」と分析する。精神科や心療内科が処方する薬の中には、身体的な依存を招くものも多い。『麻薬及び向精神薬取締法』の対象となる抗不安薬や睡眠薬(※左上表)がその代表で、長く飲み続けると減薬や断薬が困難になる。服用量を減らすと苦しい身体症状(※離脱症状)が表れる為、止められなくなるのだ。このような薬は、飲み続けると効果が落ちる“耐性”も生じ易い。服用量を増やさないと減薬と同様の状態に陥り、飲んでいても離脱症状に苦しむことになる。福島さんもこの状態に陥った。決められた時間に薬を飲んでも、発汗・悪心・動悸・不安・筋肉痛・関節痛等に見舞われるようになった。苦しさを紛らわせる為、飲酒量が爆発的に増えた。50歳の時、寝床から起き上がれなくなった。薬を飲んでも酒を飲んでも、活力は戻ってこなかった。転職した会社を辞め、家に引きこもった。病弱な妻と、未だ学生だった子供を抱えていて、どうにかしなければいけないのに、何もできない。

「死にたい」という衝動が津波のように押し寄せてきた。「何故こんなことに」。布団の上で死の衝動と闘いながら、スマホを握り締めて答えを探した。飲んでいた薬品名等を検索すると、筆者が本や新聞に書いた処方薬依存の記事等が次々と現れた。「全く同じ症状じゃないか。全て薬のせいだったんだ」。その日から減薬を始めた。離脱症状が一気に押し寄せたが、耐えるしかなかった。減薬について相談できる医師など、当時も今も殆どいない。減薬法をインターネットで調べて、独自に少しずつ減らしていった。2年半かけて、やっと断薬できた。だが、試練は未だ続いた。体が常にだるく、筋肉のあちこちが痛み続けた。眩しさ等の目の不調にも苦しみ、日中の外出が苦痛でたまらなかった。認知能力の低下が著しく、簡単な足し算すらできなくなっていた。これでは復職できない。焦った福島さんは、役所に生活保護の相談に行った。不適切な漫然処方の影響で何もできなくなった経緯を担当職員に話すと、「そういう例は沢山あります。生活保護を受けられます。お子さんを高校に行かせるくらいはできます」と慰められた。結局、貯金の取り崩しで乗り切り、生活保護を受けることはなかったが、認知能力と体調がある程度戻るまでには、断薬から3年を要した。今年4月、福島さんは復職を果たした。福祉関係の仕事で、月給は約20万円。「体調も頭の回転も60~70%。この先、未だ不安はある」という。断薬後も心身の不調に長く苦しめられる被害者は多い。福島さんにも表れた、目の眩しさを主症状とする眼瞼痙攣は、睡眠薬や抗不安薬の長期服用で発症し易く、服薬を止めても回復は困難なことが、神経眼科医らの調査でわかってきた。だが、断薬後も続く体調不良を「漫然処方のせいだ」と認める医師は殆どいない。逆に「気のせいだ」「以前からあった症状だ」等と、患者をバカにした発言を繰り返して、責任を逃れていく。東京でマスコミ関係の会社に勤める川田明さん(※仮名、54)も、断薬後の体調不良に苦しんでいる。10年程前、過労による倦怠感で心療内科を受診したことをきっかけに、抗鬱薬や抗不安薬等を飲むようになった。軈て、服薬していても離脱症状が表れるようになり、特に筋肉の激痛や硬直に苦しんだ。離脱症状と気付かず、複数の大学病院を受診した。「線維筋痛症・多発性硬化症・パーキンソン病等の疑いがある」と言われた。5年前、処方薬依存の記事を偶々読んで、「あっ、やられた!」と思った。直ぐに減薬に取り組み、もう何年も薬を飲んでいない。それでも毎日、脚の筋肉等に引きつりが起こり、杖がないと歩けなくなることもある。「断薬後も頭や体がついていかず、満足のいく仕事ができていない。本当に悔しい」と語る。厚生労働省は2014年度以降、睡眠薬・抗不安薬・抗鬱薬等の1回の処方剤数が基準を超えた場合、診療報酬を引き下げる対策等を進めて、多剤処方や漫然処方に緩いブレーキをかけてきた(※右上表)。だが、数え切れないほど存在する向精神薬被害者への救済策は、今も何ら示していない。 (取材・文/医療ジャーナリスト 佐藤光展)


キャプチャ  2019年6月1日号掲載
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