【オトナの形を語ろう】(01) 仕事とは人間が生きる為の行動である

今週から少し、「大人とはどういうものなのか?」について、私なりに書いていこう。大人とは、一体何だろうか? 大人の男・大人の女とは、どういう人のことを言うのだろうか? 子供(ガキでもいいが)と大人の違いは、どこにあるのだろうか? 「アイツは、あの人は、イイ大人の男だろう」と見ていても、話を聞いていても、実際、逢ってみたら、つくづくそう感じられる人たちとはどんな人なのだろうか? 私は、これまで幸いにも、そういう人に何人か逢うことができたし、逢って話さずとも、その風貌(顔や形)を遠くからでも見たことがある。その人たちが何気無く呟いた言葉、事が起こった時に取った行動を思い返しながら、私の見た“オトナの形”を語ろう。貴方が今、何歳かはわからぬが、先ず1回目は、大人にとっての“仕事”について話そう。大人にとって、仕事とは何か? それを話す前に、抑々“仕事”とは何なのかを考えてみよう。この地球上で、仕事をしている生き物は一見、私たちだけに思えるが、果たしてそうだろうか? 私も若い時に、こう考えた。「抑々、人類はいつから仕事をしなくちゃいけなくなったんだ? 原始時代に人類は仕事なんてしていなかったし、仕事というものさえ知らなかったんじゃないのか? 動物も、馬も、鳥も、野原を走り回ったり、空を自由に飛んでいるぜ。原始人も腹が空いたらマンモスを倒し、洞窟で肉を食べ、後はセックスして寝て暮らしていたんだろう。余程、原始人のほうが、現代人よりまマシじゃないか」。

若い時、私がそんな屁理屈を言い出したのは、1つは私がギャンブル好きで、その頃、時々、纏まった金を得るほど勝ったりした経験があったからである。「若しかして、こういう風に金が底をつき始めたら、ギャンブルをして暮らしていけばいいんじゃないのか?」と、大胆なことを本気で考えたりしていたからである。2つ目は、世の中をよくよく見ると、何の仕事もせず生きている奴が結構いるのを知っていたからである。私のギャンブルの結末と、プータローたちの末期は後で書くとして、野生の馬が、鳥が、走ったり飛んだりしているのが、彼らの本能に刷り込まれている“生きる為の行動”だと、軈てわかったことがある。鷹も隼も、獲物を捕獲する為に飛んでいるのが彼らの飛翔の大半であり、野生馬も同じである。野生馬のほうは、外敵から身を守る為に走り続けてはならないのである。――何? 馬・鳥と人間は違うでしょう? そりゃそうだ。しかし社会、つまり人間が集団で行動し始めたのは、人間という生き物が、単独、若しくは家族で行動すれば、いとも簡単に外敵に襲われ、飢餓に直面し、死んでしまう生き物だったからである。人間が集団で行動するのは、生き続ける能力が極めて脆弱だからである。集団で動けば、当然の如く何かの役割をさせられるか、することになる。そうしない者は集団から弾き出され、書いた風に死ぬしかない。食い物も与えられないし、女も、家族も手に入らない。“働かざる者喰うべからず”という言葉は、この辺りから生まれたのだろう。

――仕事は、集団の中の役割から始まった。その役割、得手・不得手もあるし、損な役割も当然あったろう。――軈て、役割は数千年の時間と共にスペシャリスト化され、“職業”となる。つまり、仕事とは生きる為の人間の行動なのである。些か理屈が重なっているように思われようが、“仕事は人間が生き続ける為の行動”なのである。「生き続ける為って、結局、仕事でお金を得るからでしょう?」。それは表面であって、お金を得る目的だけで仕事があるのなら、それははっきり言って二流・三流の仕事の考えである。これは断言する(“金と人間”・“金と生きること”については、『金、この厄介なもの』の章で詳しく書く)。“仕事は人が生きる為の行動”と言われても、貴方たちには直ぐに理解できないだろう。どうしてわからないか? それは、仕事を失った人生を経験していないからである。定年退職した人が痛切に感じるのは、仕事が無いことの喪失感である。その年齢になれば初めてわかる。今、それがわからないのは、現代人が想像力・予見力を著しく低下させているからである。現代人は、その能力に関してはバカそのものである。若い時の私のギャンブルは、家を何軒分も無くし、借金が残った。プータローたちは跡形も無く行方がわからなくなった。仕事は生きる為に、そこにあるのだ。それがオトナの形だ。


伊集院静(いじゅういん・しずか) 本名は西山忠来。作家・作詞家・在日コリアン2世。1950年、山口県生まれ。立教大学文学部日本文学科卒業後、『電通』に入社。CMディレクター等を経て、1981年に作家デビュー。『愚者よ、お前がいなくなって淋しくてたまらない』(集英社)・『大人の男の遊び方』(双葉社)・『無頼のススメ』(新潮新書)等著書多数。


キャプチャ  2016年11月21日号掲載

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