【トランプショック】(03) 世界を揺さぶる孤立主義

20161115 04
「米露関係の改善に、共に取り組めることを期待しています」――。今月8日のアメリカ大統領選で勝利したドナルド・トランプ氏に、外国首脳で最も早く祝電を送ったのは、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領だった。ウクライナ危機で『主要7ヵ国(G7)』はロシアに経済制裁を科し、米露関係は険悪になった。トランプ氏は、プーチン氏を選挙戦から称え、プーチン氏もトランプ氏を持ち上げた。百戦錬磨のプーチン氏の祝電が映し出すのは、「公職や軍の経験が無い“トランプ大統領”与し易し」という心象風景だ。米露の接近は、世界の勢力図の劇的な変化に繋がる。“偉大なアメリカの復活”・“アメリカ第一主義”。トランプ氏が選挙戦で掲げた外交・安保政策には、他国との協調を避ける孤立主義が透ける。メキシコとの国境沿いで壁を造り、イスラム教徒の入国を禁止する。日韓や『北大西洋条約機構(NATO)』の加盟諸国等、同盟国への負担増を求め、関係の変化も示唆する。国連の温暖化対策への資金拠出を止める。孤立主義はアメリカの伝統的な外交政策で、第2次世界大戦当初もあった。その後は否定されたが、「世界の混乱に巻き込まれたくない」という当時の空気は、現在にも通じる。

トランプ氏を支持した中低所得者が求める政策は、外国への関与ではなく、身近な生活の改善だからだ。来年1月に大統領に就任するトランプ氏は、先ず任期中の優先課題を明確にする“政治カレンダー”を作る。4年の任期で最も重視するのは、2年後の中間選挙だ。2008年の大統領選で圧勝したバラク・オバマ大統領は、2010年の中間選挙で敗北し、与党の民主党が下院で少数派に転落した。議会を野党に押さえられると政権運営は難しくなるだけに、選挙で勝てるわかり易い政策が優先され易い。トランプ氏の“100日行動計画”は、内向きな政策が並ぶ。戦後、党派を問わず、アメリカの指導者は世界の秩序作りを主導した。アメリカの指導者がその責任を放棄すれば、影響は計り知れない。ロシアはウクライナ侵攻を再開し、中国は東シナ海や南シナ海で国際法を無視した海洋進出を激しくするかもしれない。中東では、過激派組織『IS(イスラミックステート)』の根絶が遠退く恐れもある。ヨーロッパでは、“トランプ大統領”を歓迎した極右等の急進政党が、反グローバルの動きを強める展開もあり得る。その1つひとつが、世界の秩序を揺さぶる。一方、「トランプ氏が外交・安保を極端に転換するのは難しい」との見方もある。「現実主義で純粋な孤立主義ではない」。『ジョンズホプキンス大学ライシャワー東アジア研究所』のケント・カルダー所長は、“トランプ氏=孤立主義”に懐疑的だ。オバマ氏は同10日、トランプ氏と初めて会った。多国間の国際協調主義を推進したオバマ氏は、1時間半の会談後に「外交政策について話し合った」と認めたが、その内容は明かさなかった。 (ワシントン支局 吉野直也)

トランプ氏は、今後の国際秩序をどのように担うつもりなのか。東京大学大学院法学政治学研究科の久保文明教授に聞いた。

――ドナルド・トランプ氏の勝利の要因を、どう分析していますか?
「“成功した実業家”というイメージを生かし、生活に不安を抱く有権者から支持された。ある世論調査によると、60~70%のアメリカ国民は『国が悪い方向に向かっている』と感じていた。オバマ政権下で経済指標は改善傾向だったが、実質的な家計所得は低いままだ。人々は、既存の政治の延長線上のヒラリー・クリントン氏ではなく、明確な変化を求めた」

――大統領の資質について批判がありました。
「選挙戦中、『国境の壁の建設費をメキシコに払わせる』といった実現不可能な大風呂敷を広げ、何度も平気で嘘を吐いた。そんな人物が法律と憲法に従い国を統治できるのか、不安なのは確かだ」

――アメリカの外交戦略はどうなりますか?
「率先して孤立主義と保護主義に向かう可能性が高い。これまでの発言から、北大西洋条約機構(NATO)や日米同盟を必ずしも評価していない。ロシア・中国・北朝鮮に対し、抑止力を発揮できるか不透明だ」
「対中政策も大きく変わる可能性がある。トランプ氏は、中国を為替操作国と非難していた。『中国の対米輸出を抑える』という妥協を引き出す代わり、アメリカが南シナ海や東シナ海から手を引くシナリオすら考えられる」

――日米関係には、どんな影響がありますか?
「在日アメリカ軍の駐留経費の負担増を要求していたが、アメリカの日本防衛義務と、日本のアメリカへの基地提供は同盟の基礎だ。在日アメリカ軍は日本のみならず、朝鮮半島・台湾・南シナ海を睨む上で必要不可欠で、アメリカの国益にも合致している。日本政府は今後、日米関係の基礎中の基礎から理解してもらう必要があるが、大変な労力がかかりそうだ」
「抑々、トランプ氏が日本を重要な同盟国と認識しているのかも不明だ。『日本はアメリカから雇用を奪っている』という、1980年代までの対日観で止まっているのではないか。第2次世界大戦後、国際的な秩序を担おうとしない大統領は初めてだ。“アメリカ第一主義”に立脚する安全保障は、同盟国にとっては心許無い。これまでのように、一定の犠牲を払って国際的な秩序を担う意欲が無いというのであれば、国際社会に与える衝撃は大きい」

――現実路線への転換の可能性は?
「選挙戦が終わり、可能性はある。注目点は、国務長官や国防長官の人事だ。外交政策を全てトランプ氏自身が統括しようとするのか、専門家にある程度任せるのか。誰を任命するかで、今後の方向性が見えてくる」 (聞き手/国際アジア部 外山尚之)


⦿日本経済新聞 2016年11月12日付掲載⦿

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