デフレ再来、今こそ値上げ――成功する企業の秘密、戦略を見誤ると客離れも

20161115 07
「『アベノミクスは愈々クライマックス。地方に遍く政策の効果が行き渡るよう、特段の努力を』と(安倍晋三)総理から指示を受けている。デフレを脱する為、取引先から過度に安く仕入れて安売りすることは控えてもらいたい」――。先月中旬、『日本百貨店協会』や『新日本スーパーマーケット協会』等流通9団体のトップとの会合で、経済産業省の世耕弘成大臣は釘を刺した。政府高官が民間企業の価格政策に言及し、注意を促すのは異例のことだ。それだけ、現在の日本でデフレ圧力が再び高まっていることを示している。総務省によると、全国の消費者物価指数の前年同月比の伸び率は、“食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合”の場合、ここ1年、1%に満たない。今年9月には遂にゼロ(横這い)になった。“生鮮食品を除く総合”に至っては昨夏以降、マイナス圏での推移が目立つ。指数の伸び率は、2014年4月には大きく跳ね上がったが、これは消費税率が5%から8%に上昇し、税込価格が上がったことによるもの。消費税の影響を除くと、この20年余り、一貫して大きな上昇は無い。『日本銀行』の黒田東彦総裁は今月1日、“物価上昇率2%”とする目標の達成時期を「2018年度頃になる可能性が高い」と話し、従来の“来年度中”から先送りした。バブル崩壊後、20年以上のデフレの中で、日本の消費者は低価格の商品を買うことにすっかり慣れてしまった。全体の消費額が中々伸びない状況が続き、ものを売ろうとメーカーや小売りが値下げを繰り返す悪循環を招いた。値下げを繰り返すのは、同業他社が乱立する中で、少しでもシェアを高めようとする目的も大きい。特に、企業毎で商品の差別化が難しい業界で顕著に見られる。

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一例が清涼飲料で、国内首位の『コカコーラグループ』でもシェアは3割に満たない。3~5位の『アサヒ飲料』・『キリンビバレッジ』・『伊藤園』のシェアは何れも1割強で、団子状態だ。各社は少しでもシェアを高めようと、膨大な販促費を投じ、2リットルのペットボトル等大容量の飲料を中心に、値下げ販売も許容する動きが続いた。結果として、営業利益率は1割に満たない。こうした状況を変えるには、安易な値下げ競争に背を向けて、単価が高い商品・サービスを積極的に提供する。或いは価格を引き上げ、消費者の支持を得ていく努力が必要だ。現在、国内では幾つか成功事例がある。その共通点は“強いブランド力”、そして“満足度の高さ”だ。『花王』が、日用品でヒットを連発している。その中心を担うのは、機能や付加価値が高く、価格も高めの商品群だ。先月1日に発売したスプレータイプの食器用洗剤『キュキュットCLEAR泡スプレー』。店頭価格は、同シリーズの従来品である液体洗剤の2倍はするが、「弁当箱の隅やティーポットの注ぎ口等、これまで洗い難かった溝や隙間が洗い易い」と消費者に好評。これまでの出荷数量は、会社計画の約2倍だ。『キュキュット』シリーズの液体洗剤と泡スプレーを一緒に買う消費者も多く、購入額は液体洗剤のみを買っていた従来の3倍になる計算だ。今年4月に売り出した『フレアフレグランスIROKA』も、『フレアフレグランス』シリーズのプレミアム柔軟剤だ。拡大するプレミアム柔軟剤市場の約4割を占める人気商品に育った。先月からは、粉末タイプの入浴剤『バブ エピュール』や『ディープクリーン撰 濃密クリーム薬用ハミガキ』も売り出し、共に好評を得ている。花王は、日用品で約3割のシェアを持つ最大手。定番ブランドを多く抱え、認知度は高い。多様化するニーズに対応し、機能や付加価値を高めた商品を巧みに開発・販売している。今春以降に発売した上記4商品は、何れも定番ブランドの派生商品だ。高機能品の販売好調を追い風に、今年12月期の連結営業利益は前期比10%増の1840億円と、過去最高の更新を見込んでいる。食品では、『味の素』が今年4月、『クノールカップスープ』シリーズ29品目の出荷価格を4~8%上げた。原料調達コストの増加に対応したもので、価格改定は実に33年ぶりだ。

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洋風粉末スープの素市場で、『クノール』のシェアは約75%と高い。値上げ後の4~7月は、『冷たい牛乳でつくるカップスープ』シリーズが好調。8~9月は残暑が厳しく、主力のホット商品が低迷したが、4~10月の累計では前年並みの販売量を維持した。最盛期の秋~冬を睨み、8月にはクノールシリーズをリニューアル。原料の野菜パウダーを増量、パッケージデザインも刷新して、販売増を見込む。サービス業では、『東京ディズニーリゾート』を運営する『オリエンタルランド』の集客力が際立つ。今年4月から、施設に入場し、丸1日遊べる“1デーパスポート”を、大人で7400円と7%値上げした。4~9月の入園者数は1432万人と、前年同期から4万人減ったが、これは8~9月に台風が続けて上陸する等、天候の影響が大きい。『東京ディズニーシー』開業15周年のイベントを積極的に企画。関連商品も売り出し、リピーターや新規客の取り込みに成功している。「来場者の満足度や、再来園の意向を聞いた調査を見る限り、価格改定の影響が出ている感じは無い」(横田明宜取締役)。来年3月期の連結純利益は前期比4%増の768億円と、6期連続で最高を更新する見通しだ。ウイスキーは製造に時間がかかる為、需要の拡大に素早く対応できず、原酒不足が深刻だ。『サントリースピリッツ』は、ウイスキー9ブランド33品目で価格を9~25%引き上げた。買収したアメリカのブランド『ジムビーム』は、ハイボールをジョッキで飲むスタイルを提案したことが奏功し、7月の値上げ後も販売を伸ばしている。『アサヒビール』も『ジャックダニエル』等の価格を上げたが、販売は好調だ。

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勿論、全ての企業が、値上げや、高価格帯商品の販売に成功している訳ではない。商品・価格戦略の転換が裏目に出るケースも多い。一例が『ファーストリテイリング』だ。為替変動等で、『ユニクロ』の原材料や製造コストが膨らんだことに対応し、柳井正会長兼社長は昨春に2年連続の値上げの実施を宣言した。だが、昨年後半からは暖冬の影響も加わって、客数の減少が大きかった。このため今春以降、定番商品を中心に価格引き下げへと動いたが、客足の戻りは鈍く、今年8月期の国内ユニクロ事業の既存店客数は、前の期から5%減少した。同事業の営業利益は13%減だった。アサヒビールはプレミアムビールへの需要の高まりに対応し、2013年に高価格帯の『ドライプレミアム』を発売した。通常のビールでシェアトップを誇る『スーパードライ』のブランド力を生かし、浸透を図った。『サントリービール』の『ザプレミアムモルツ』、『サッポロビール』の『ヱビス』が既に強固なブランドを築いていたプレミアムビール市場で、広告宣伝を強化して食い込もうとしたが、消費者の支持を集め続けることができなかった。現在は厳しい販売状況が続いているという。デフレが再び深刻化しつつある最近の経済情勢を考えると、何も手を打たなければ、企業は更に値下げの動きに巻き込まれてしまうだろう。収益力を高めるには、ライバルとの消耗戦を避け、独自の商品やサービスに磨きをかけて差別化を図るしかない。現在は“モノ”から“コト”へ、また“ハレの日”の消費意欲が高まっている。それに即した高単価の商品・サービスの開発や提案は、1つの有効な方法だ。だが、市場動向を見誤ると、デフレにすっかり慣れてしまった消費者が容易に離れてしまう恐れもある。賃金の伸び悩み等から、消費マインド自体は弱いままだ。企業には、自社が持つ商品やサービスのブランド力を的確に見極め、その上で適正な価格・機能を共に消費者に提供することが求められる。消費税率の10%への再引き上げは2019年に延期になったものの、消費意欲を下押しする材料として引き続き意識されるだろう。今後の価格戦略をどう進めるか。各社には、一段と難しい局面が待ち受けている。 (取材・文/本誌 須永太一朗)


キャプチャ  2016年11月14日号掲載

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