【トランプショック】(04) 劇薬頼みの“脱・低温経済”

20161116 04
「トランプ氏は埋もれた声に耳を傾け、政治をひっくり返した」――。共和党のポール・ライアン下院議長は今月9日、困惑気味に勝利宣言した。トランプ氏が掬い上げたのは、ワシントンで主流をなす重鎮政治家の理解を大きく超えた有権者の不満だ。アメリカの景気は、リーマンショック後の2009年から7年を超える回復局面が続くが、収入が増えたのは2割の家計だけだ。上位1%の層が全米所得の2割弱を独占し、格差は第2次世界大戦前の水準に逆戻りした。経済格差への怒りは、ワシントン政治に“NO”を突き付けた。埋もれていた声はそれだけではない。アメリカのメディアの調査では、年収20万ドル以上の高所得者は、民主党のクリントン氏よりもトランプ氏に票を投じた。「戦後50年の平均成長率は3.5%。2002年からは1.9%に急減速した」(トランプ氏の経済顧問を務めるカリフォルニア大学のピーター・ナバロ教授)。高所得者は、成長鈍化に苛立っていた。アメリカ経済は金融危機後、安全運転を強めた。バラク・オバマ政権は、昨年だけで行政規制を2000超も増やした。規制で余計にかかるコストは、年2兆ドルともされる。企業収益は落ち、アメリカは成長率も物価も金利も上がらない“低温経済”に突入した。

トランプ氏の経済再生策は、確かに歯切れが良い。金融・環境規制をばっさりと取り除き、30年も手つかずだった法人税率を大幅に下げて、成長率を4%に高める。10年で1兆ドルという史上最大のインフラ投資案も用意した。高所得層は、同氏の“大成長戦略”に票を投じ、市場はその勝利に株価の高値更新で応えた。その処方箋は劇薬でもある。トランプ氏は、自らの事業が急成長した1980年代に成功体験があり、減税策は当時のレーガン政権をなぞる。今は政府債務が20兆ドル弱と、当時の20倍に膨張。『ムーディーズアナリティクス』は、「公約通りなら、財政悪化で長期金利が8%に急騰する」と警告した。保護貿易主義はもっと劇薬だ。トランプ氏は、「中国に45%の報復関税を課す」と脅した。発動すれば、中国の国内総生産(GDP)は「年率3%弱も下振れする」(『大和キャピタルマーケッツ』)。アメリカ自身も、輸入物価高によるインフレで「3年で景気後退に転落する」とも予測される。世界経済は、米中という2大エンジンが出力を失う未曽有の危機に陥りかねない。成長の起爆剤と期待された『環太平洋経済連携協定(TPP)』は、実現が難しくなった。中国は米通商政策の“空白”を突いて、独自経済圏を広げそうだ。自由貿易と基軸通貨ドルを武器に、世界経済に君臨したアメリカ。孤立主義に向かえば、日本も通商戦略の転換が必要になる。アメリカの成長鈍化は、起業率の低下等、経済の“老い”が一因だ。日欧も同じ問題を抱えながら、解決が遅れた。低成長や所得格差を放置すれば、世界は更に不安定になる。トランプ氏を抱き込んで、経済再生の処方箋を共に探す必要がある。 (ワシントン支局 河浪武史)

自由貿易に逆風が吹きかねないトランプショックは、世界経済にどんな影響を齎すのか。『ステートストリートグローバルアドバイザーズ』で投資運用業務を統括するリチャード・ラカイエ氏に聞いた。

――ドナルド・トランプ氏の大統領就任は、世界の金融市場にどんな影響を齎すでしょうか?
「新しい大統領となるトランプ氏は、財政支出を拡大する見通しだ。その結果、アメリカの政府債務は増加するだろう。ただ、財政政策以外の貿易や外交面の政策は、不確実性が高い。投資家にとって特に深刻なのは、貿易政策だ」

――何故、貿易政策が重要なのですか?
「過去20~30年、グローバル貿易の拡大は、世界経済に大きなメリットがあった。“供給網(サプライチェーン)”が広がり、(効率化が)企業の利益を押し上げた。世界の需要も高まった。だがトランプ氏は、“環太平洋経済連携協定(TPP)”からの撤退等、貿易の自由化に逆行する発言をしてきた。反グローバリゼーションは、企業の利益や世界の需要にマイナスの影響を及ぼしかねない。投資家として警戒している」

――特に影響が大きいのは、どの業種ですか?
「影響を受けるのは、自動車等一部の企業だけではない。現代はグローバル化が進み、あらゆる企業が影響を受ける。経済全体のリスクとなる。これまでの大統領選では、鉄鋼やタイヤ等、特定の業種が争点となることが多かった。今回は違う」

――トランプ氏勝利は、投資配分の見直しに繋がりますか?
「トランプ氏が実際にどんな政策を打ち出すのか。その結果、世界経済にどんな変化が生じるのかは、未だ不透明だ。現段階では、運用資産の投資配分を変更することは考えていない」

――金融市場は不安定な状況が続きそうです。現在の投資配分は?
「世界的に資産価格の変動が大きくなってきた。4月には、安全資産である金の投資配分を多めにした。投資家のリスク回避姿勢が急激に強まった時に、資産全体の値下がりを相殺する為だ。一方、価格変動リスクが大きい株式は、昨年後半から投資配分を少なめにしている。新興国は経済成長に不安があり、慎重に考えている」

――『連邦準備理事会(FRB)』の金融政策に変化はあるでしょうか?
「アメリカの雇用は改善しているが、物価は明確には上昇していない。(FRBの)ジャネット・イエレン議長は、年内は利上げに動く可能性が高いとみているが、その後の利上げペースは相当緩やかだろう」

――2017年の最大のリスクは?
「中国経済だ。債務が拡大しており、不確実性が高い。新興国に対する投資評価が慎重なのは、新興国に大きな影響を与える中国経済に不安を感じているからだ」 (聞き手/証券部 土居倫之)


⦿日本経済新聞 2016年11月13日付掲載⦿

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