【トランプUSA・識者に聞く】(02) 親露・反中の実利外交も――エマニュエル・トッド氏(歴史人口学者)

20161116 06
ドナルド・トランプ氏のアメリカ大統領選勝利は、驚きではない。理に適っている。アメリカは、自由貿易を柱とする新自由主義の経済政策を長年取り続けてきた。21世紀に入り、国民の生活水準は落ち、経済格差は広がり、白人の中高年層の死亡率は増えた。有権者の7割を占める白人は怒る。トランプ氏は自由貿易体制を非難して、国民の生活水準を下げた元凶を告発した。だから勝った。有権者は、自分の利益に即して投票した。大富豪のトランプ氏が大衆の代弁者になった。一見矛盾しているが、史上、古代アテネ以来、特に寡頭制の国で支配層の人間が自身の階級を離れ、大衆を代弁する例は多い。アメリカ大統領選の予兆となったイギリスの『ヨーロッパ連合(EU)』離脱では、支配層のボリス・ジョンソン氏が大衆を代弁し、離脱の旗を振った。先進諸国は今、経済のグローバル化に疲弊しているように見える。その為、アメリカとイギリスだけでなく、フランスや日本でも国や民族を拠り所にする現象が起きている。トランプ氏を選んだアメリカは、通商上の実験に乗り出すのだろう。幾つかの分野を選んで、保護主義的な政策を打ち出すだろう。同氏の“アメリカ最優先”の主張に不安を抱く向きは多い。同氏は実利的であり、破滅的にはならないと思う。

外交政策も実利的になろう。同氏は、アメリカに“世界の警察官”たる実力が無いことを承知している。帝国のような振る舞いはしまい。同氏は、バラク・オバマ政権の抱くロシアに対する強迫観念とは無縁だ。私は数年来、「世界の安定には米露協調が必要だ」と主張してきた。米露関係は目下冷え切っているが、トランプ新政権の登場で改善する可能性はある。一方、最大の貿易赤字の対象国・中国には厳しく出るのではないか。保護主義的な政策は、先ず中国が標的だろう。アメリカの従来の対中姿勢は曖昧だった。中国は戦略上の敵だが、アメリカの富裕層は対中ビジネスで富を手にする。この両義性の為に、対中政策は信頼が置けなかった。今後、曖昧でなくなるかもしれない。トランプ氏の勝利は、世界を変えるのか。アメリカは依然、世界で指導的な立場にある。我々をグローバル化に引き入れたアメリカで、グローバル化を告発する大統領が誕生する。この歴史的大転換の思想的な影響を、私は理解しようと努めている。答えは未だ無い。ただ、トランプ氏のアメリカとEU離脱のイギリスは、フランスの極右政党『国民戦線』を含め、世界各地でグローバル化に抗議する人々を束ねる象徴になってしまう懸念はある。米英を国民戦線は称賛し、フランスのフランソワ・オランド政権は批判する。奇妙な捻れが起きている。国民戦線は更に伸長するかもしれないが、来年の大統領選に勝利できまい。フランスは米英ほどに民主的ではないから。 (聞き手/編集委員 鶴原徹也)


⦿読売新聞 2016年11月12日付掲載⦿
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