【トランプショック】(05) 日米の絆、進化か退化か

20161117 04
「アメリカは、日本・韓国・サウジアラビア等を防衛する為に、膨大な負担をしている。適切な対価を受けるべきだ」――。トランプ次期大統領は選挙期間中、こう叫んで、アメリカ国民の喝采を浴びた。日米同盟が大きな試練を迎えるのは避け難い。昨年亡くなった元財務次官の香川俊介氏は、防衛費の査定を担当する主計官を務めたことがあった。“聖域”とされた“思いやり予算”(在日アメリカ軍で働く日本人従業員の人件費等)に切り込んだ。1978年度に62億円で始まった同予算は、1999年度には過去最大の2756億円に膨らんでいた。アメリカ軍司令部を訪れ、「先送りできるものは先送りしたい」と説得した。アメリカ側は「そんなことを言いに来た日本人はいなかった」と戸惑ったが、最後は減額に同意した。頭越しの直談判を嫌った外務省や防衛庁は、「同盟に罅が入る」と巻き返しに出た。自民党の国防族が動き、2000年度の思いやり予算は1億円減に止めることで決着した。「初の減額という事実は残った」。香川氏は満足気だった。これを契機に翌年度以降、思いやり予算は減っていく。昨年度は1899億円だ。

アメリカ側が「日本からもっと取れる」と踏んでもおかしくはない。日本側だって、「幾らか上乗せしてトランプ政権が納得すれば安いものだ」というのが大方の反応だろう。問題は、「何の為に払うのか?」という議論が、日本国内に殆ど無いことだ。外交・安保は選挙の票に繋がらないこともあり、日本の国会議員は、「日米が外交の基軸」以上の説明を有権者にせずにきた。『日米安保条約』を結んだ吉田茂は、在日アメリカ軍を“番犬”と呼んだ。カール・フォン・クラウゼヴィッツの『戦争論』は、同盟関係をこう評する。「ある国が他国の危機を救う為に立ち上がるにしても、恰も自国の危急を見るが如くというほどの熱意は見られない」。カネで買った同盟で、日本の安全は保てるだろうか? “自由主義と市場経済という価値観を共有する同盟国”――アメリカ・日本・韓国・オーストラリア等を束ねてきた“美辞麗句”に、トランプ氏は関心を示さない。フランスの新聞『ルモンド』は、「同盟国の為にアメリカを犠牲にしないだろう」と分析する。その結果、世界中で自主防衛論が勢いづいている。防衛省の稲田朋美大臣も、日米同盟の強化や関係諸国との連携に加え、「自分の国は自分で守る」を検討課題に挙げた。安倍晋三首相の周辺には自主防衛論者が多いだけに、「どうせカネを使うならば、思いやり予算よりも自衛隊増強を」との声が増す可能性は十分ある。だが、てんでに自主防衛した群雄割拠の世界が長続きするだろうか? 恐らく、トランプ氏に通用する唯一の理屈は、「戦争は結局、高くつく」というものだろう。果たして、それが日米の絆の進化なのか、退化なのか――。トランプショックは、新たな“黒船”である。 (編集委員 大石格)


⦿日本経済新聞 2016年11月15日付掲載⦿
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