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【令和時代の人生百年計画】(24) 日本人は性に対して保守的なのか?



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前回は、中国で行なわれた大規模調査に基づいて、女は金持ちの男とのセックスでオーガズムに達し易いとの研究を紹介した。これに対しては、恐らく「それは中国人女性だからで、他の国にはあてはまらない」との反論があるだろう。その背後には、「貧しい(※或いは強欲な)中国人だからそんな結果になるんだ」という偏見が隠されている。こうしたステレオタイプは、知能や性格への生物学的(遺伝的)な影響を否定し、「全ては環境(※社会的関係性)で決まる」という(自称)リベラルな主張から生まれる。「オーガズムはカネがものをいう」という不都合な結果を環境決定論で説明しようとすれば、「あそこは遅れている(=自分たちは違う)」という話になる他ないのだ。とはいえ、「差別的だ」との理由で、このステレオタイプを否定することはできない。これまで述べてきたように、私たちが広く受け入れている常識(※「男と女は生まれつき違っている」等)の多くにはエビデンスがあるからだ。そこで今回は、人種(=民族集団)と性についてのステレオタイプがどの程度正しいのかをみてみよう。「1960年代の“性革命”以降、欧米の白人女性が開放的になる一方で、未だに封建的な因習が根強く残る日本、中国、韓国等東アジアの女性は、性に対して保守的だ」。この文章に、殆どの人は何の違和感も覚えないだろう。実際、環境(=文化)が性意識に影響しているという研究は沢山ある。アメリカやカナダで行なわれた人種別の性意識調査では、東アジア系の女性はヨーロッパ系の白人女性と比べて、性についての知識が乏しく、性的経験が少なく(=処女率が高く)、不感症やセックスへの忌避感を訴える割合が高かった。

だとしたら、性に対して進んだ白人女性は良いセックスを手に入れ易く、遅れた東アジアの女性は性的満足を得ることが難しいだろう――。研究者たちは当然のようにこう考え、次のような通説を唱えた。①保守的な東アジアの女性は性的な経験が少ないのだから、進歩的な白人女性に比べてポルノ等の性的刺激に敏感に違いない。②しかしながら、保守的な東アジアの女性は性に対して罪悪感を持っているのだから、身体的な興奮を無意識に抑圧して、性的満足はあまり感じないだろう。③同じ東アジア系でも、北米で生まれ、文明化された女性は、伝統的なコミュニティーで育った移民一世等、文明化されていない女性に比べて、性的満足を得易い筈だ――。何れも尤もらしいが、どことなく胡散臭くもある。そこで、ブリティッシュコロンビア大学のモーラ・ユールらは、実験によってこのステレオタイプを検証してみることにした。被験者は19歳から35歳までの38人の白人女性と37人の東アジア系女性で、大学の告知(※1単位の取得)と地域広告(※10ドルの報酬)で募集された。東アジア系女性の内、43%がカナダ生まれで、51%がアジアの国で生まれた(※残りはそれ以外の出生国)。被験者の64%に現在つき合っている男性パートナーがおり、交際期間の平均は24.2ヵ月だった。被験者は性意識や性格についての様々な質問に答えた後、個室に案内されて、ヴァギナにプレチスモグラフを挿入した。これはタンポン型の器機で、膣内の毛細血管の充血度(※身体的な性的興奮度)を測定することができる。個室での10分間のリラックスタイムの後、被験者の前のモニターに3分間のニュートラルな動画と、8分間のエロティックな動画が映された。エロティックな動画は、白人の男女が全裸でキス、愛撫、オーラルセックス、性交をするものだ。このポルノ映像を観た後、被験者は主観的な性的興奮度や性的満足度を報告した。性生活についての質問では、白人女性は東アジア系女性よりも男性パートナーとオーラルセックス等積極的な性体験をしていた。また東アジア系女性は、白人女性よりも性についての知識が乏しかった。ここまでは先行研究の通りだ。だがそれ以外では、これまでの通説とかなり異なる結果になった。図①は、ニュートラルな動画とエロティックな動画のプレチスモグラフの変化を示したもので、一見、東アジア系女性のほうが興奮しているように見えるが、これはニュートラルな動画の時の興奮していない膣の充血度が、白人女性よりも高いからだ。重要なのはエロティックな動画を観た時の変化の度合いで、それは白人でも東アジア系でも変わらない。文化的抑圧仮説が正しいのなら、性的な刺激にあまり触れたことのない東アジア系女性は、性情報も性的体験も豊富な白人女性よりポルノに強く反応し、膣が充血する筈だが、実際にはそのようなことは起こっていない。

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図②は、ポルノを観た後に自己報告した性的興奮度で、こちらは白人女性も東アジア系女性も全く同じだ。それ以外の指標でも人種の差は殆ど観察されず、文化的抑圧仮説が予測するような、ポルノを観た東アジア系女性の不安感が高まったり、性的興奮を抑えるような徴候もなかった(※主観的な性的満足度のみ、白人女性のほうが東アジア系女性より若干高かった)。より興味深いのは、東アジア系の中ですら、西欧文化に馴染んだカナダ生まれの女性と、伝統的なコミュニティーで育った女性との間に何の違いも見られなかったことだ。これらの結果は、“文化は性意識に影響する”という通説の殆どが、実際には妥当しないことを示唆している。育った文化が異なっても、性的刺激に接した女性 は同じような身体的な反応をするし、主観的にも同じように感じる。それが人種(=民族集団)で異なっているように見えるのは、まさに文化的抑圧によって、性的体験の表現の仕方が異なるからだろう。この興味深い研究によれば、“白人だから”とか“日本人だから”とかのステレオタイプで性を語ることは不適切だ。全ての女性は、文化や宗教等の社会的関係性の違いを超えて、とてもよく似た性的体験をしている。しかしこれは、考えてみれば当たり前の話でもある。これまでどんな研究者も、「人種によって男の性欲や性意識が異なる」等という主張をしたことはないのだから。「男は皆同じで、女は生まれ育った文化に支配されている」――。これは、アカデミズムにも根深い“男性中心主義”そのものだろう。男も女も、突き詰めれば同じ動物として生きているのだ。


橘玲(たちばな・あきら) 作家。1959年生まれ。早稲田大学第一文学部卒。『宝島社』の元編集者で雑誌『宝島30』2代目編集長。2006年、『永遠の旅行者』(幻冬舎)が第19回山本周五郎賞候補となる。『言ってはいけない 残酷すぎる真実』(新潮新書)・『専業主婦は2億円損をする』(マガジンハウス)・『朝日ぎらい よりよい世界のためのリベラル進化論』(朝日新書)等著書多数。


キャプチャ  2019年10月24日号掲載




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