【「佳く生きる」為の処方箋】(27) 未来の医師へ

昨年から、医師志望の高校生に心臓の手術を見せています。『読売教育ネットワーク』参加校の高校生を対象にした『早期医療体験プログラム』で、今年の夏も9人の高校生が参加。手術・ICU(集中治療室)・術前カンファレンスの見学・患者さんとの面会等、生の医療現場を3日間、身を以て体験しました。勿論、患者さんには事前に了解を得てから進めています。抑々、このようなプログラムを始めようと思い立ったのは、彼らに将来、どんな医師になりたいか、医師として何をしたいか――それを明確な目標として思い描いてほしかったからです。最近は医学部の志望熱が高まっていますが、単に「勉強ができるから」とか「医師は収入がいいから」といった安易な動機で医学部に進むべきではありません。ゴールは入学試験に合格することでも、医師国家試験に受かることでもなく、患者さんの命を救うこと。それを早い時期から肝に銘じておいてほしいのです。また、「私が現役のうちに、リアルな外科医像を見せておきたい」という思いもありました。高校生たちは朝7時半から病棟の回診に合流し、15時頃まで医師に密着します。病院には診療を受ける人たちの“動線”と、診療する側の動線がありますが、スタッフ以外の人が診療側の動線に入ってくることは先ずありません。彼らはそこに初めて足を踏み入れる訳ですから、興味津々、驚きの連続です。 実は私も、この未知の領域に初めて入り込んだ日のことは、今でも忘れられません。父方の伯父がとある病院の院長をしていたので、子供の頃、熱を出したり、お腹を壊したりすると、よく母に連れられて受診しました。

診察が終わって母が会計を済ませている間、院長室で待っていたのですが、そこには聴診器や医学書等が置いてあり、「お医者さんは、こんなものを使って患者さんを治すのか」とワクワクするような気持ちで見つめたものです。あれは私にとって、医師という職業を初めて意識した原体験だったと思います。彼らにとっても、このプログラムがそんな原体験になると信じています。心臓の病気が悪化して、呼吸をするのも話すのも辛そうだった患者さんが、手術を受けて3日後には普通に話したり、自分たちと一緒に廊下を歩いたりしている。その姿を目の当たりにして、「心臓手術はここまで進んでいるのか」「医学って凄い!」と、彼らは只々驚愕します。そして、それを実践している医師の仕事が如何に厳しいものであるかも、身に沁みて感じることになるのです。私は彼らに、こんなことを話します。「患者さんは、自らの命を医師に預けて手術を受ける。手術をする医師は、自分の命と引き換えにしても、この患者さんが1日でも永く佳く生きられるように努力しなければならない。最後の最後の仕上げまで、絶対に妥協してはいけない。『このくらいでいい』と思ったら、そこから命の綻びが生じる。そういう覚悟で手術に臨むのが、本当の外科医だ」と。3日間のプログラムが終了すると、彼らはもう半分くらい医師になったつもりで帰って行きます。それでいい。その熱い思いが今後、どう花開くか、或いは時の熱で終わるのかは誰にもわかりません。しかし私には、それを見届ける義務があると思っています。彼らが一人前の医師になるまで、あと15~20年。それまでは頑張って元気でいたいと思うのです。これは、「自分が手術をした患者さんのその後を見届けたい」という気持ちとも重なるものがあります。将来に向けて種を蒔く。その成長を見守り、実りを見届ける。それは次世代に対する義務であり、また大いなる楽しみでもあります。


天野篤(あまの・あつし) 心臓外科医・『順天堂医院』院長。1955年、埼玉県生まれ。日本大学医学部卒。『亀田総合病院』『新東京病院』等を経て、2002年に順天堂大学医学部心臓血管外科教授に就任。2012年2月18日に天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀。2016年4月より現職。著書に『一途一心、命をつなぐ』(飛鳥新社)・『この道を生きる、心臓外科ひとすじ』(NHK出版新書)等。


キャプチャ  2016年11月17日号掲載
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