【トランプ大統領とアメリカ】(01) 「こんなはずじゃない」

ドナルド・トランプ(70)がアメリカ大統領選で勝ったことは、世界に衝撃を与えた。アメリカで募った経済格差への不満と、反グローバルのうねり、そしてヨーロッパで広がる極端なナショナリズムとの共鳴――。冷戦崩壊後、超大国の米国が築いてきた世界の秩序は、大きな転換点を迎えた。

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今月10日、ワシントンにあるホワイトハウス。大統領のバラク・オバマ(55)は、次期大統領に決まったトランプを出迎えた際、お互いが笑顔で握手する恒例の写真撮影をしなかった。8年前、同じホワイトハウスで前大統領のジョージ・W・ブッシュから迎えられたオバマが、その慣例を知らない筈はない。「貴男の成功がアメリカの成功」。トランプにこう繰り返したオバマの心の奥底に潜む「こんな筈じゃなかった」という本音が垣間見えた。写真撮影の無いことを意に介さないトランプは会談後、オバマを「いい男だ」と上から目線で持ち上げた。権力闘争の結末が示した象徴的な場面だ。その前日のニューヨーク。選挙結果が判明した後、支持者の前に初めて姿を現した民主党候補のヒラリー・クリントン(69)は、「勝てずに申し訳ない」と陳謝した。女性大統領という「最も高くて硬いガラスの天井は未だ打ち破れていないが、いつか誰かが、私たちが考えているより早く達成してくれる筈」。演説での締め括りのこの台詞は、8年前にオバマと争った予備選で敗北した際と似通っていた。その時と決定的に違うのは、「クリントンには大統領になる芽がほぼ潰えてしまった」という現実だ。そのことを最もよく知る筈のクリントンの淡々とした口調が、逆に支持者の涙を誘った。今回の大統領選は、史上稀に見る大接戦となった。当落を決める選挙人数はトランプが上回ったが、総得票数はクリントンが僅かに勝った。大統領としての“資質”を巡る非難合戦に発展した選挙戦と同じく、結果もアメリカの分断を印象付けた。勝敗を分けたのは、大統領が“黒人”から“女性”に引き継がれ、リベラル政権が3期続くことへの保守的な白人の危機意識だ。

アメリカの分断は、選挙後も続いている。「Not My President(私の大統領じゃない)!」――。ニューヨークやカリフォルニア州オークランドの中心街では、同9日早朝から“トランプ大統領”に抗議するデモが起きた。店舗の窓ガラスを割ったり、ごみ箱に火をつけたり、怒りを爆発させた。デモは翌10日、シアトル、ダラス、フィラデルフィアにも広がった。『ツイッター』上では、“#notmypresident”という(情報を拡散できる)ハッシュタグが数十万の単位で使われている。「トランプが負ければ暴動に発展する」という事前の観測は裏切られ、トランプが勝っても暴動は起きた。デモの参加者は、“Not My President(私の大統領じゃない)”と書いたカードを掲げた。“トランプ大統領”への戸惑いは、教育関係者にも広がっている。トランプは国籍・人種・性別を問わず、差別的な暴言を繰り返した。民主主義を軽んじ、選挙結果の受け入れを保証することも拒否した。民主主義の最高のお手本と称される大統領選は、“子供には見せられない低俗番組”の如く扱われた。“トランプ大統領”を、子供にどう説明するか。メリーランド州の公立校は同11日、選挙結果に衝撃を受けた生徒らを対象に「カウンセリングを実施する」と発表した。「忙しい日だ」。トランプは同11日、住居があるニューヨークの『トランプタワー』に籠り、新政権の人事を練った。自身のツイッターに、「政権運営を担う人材に関する非常に重要な決定を間もなくする」と投稿した。全米で拡大するデモにも、「我々の偉大な国への情熱だ」と追うように構えた。同13日放映の『CBSテレビ』のインタビューでは、クリントンが敗北を認めた同9日未明の電話について、「気持ちの良い電話だった。彼女にとっては辛かっただろう」と慮った。夫で元大統領のビル・クリントンからも同10日に電話を受け、「これ以上無いほど丁寧だった」と振り返った。“1つのアメリカ”を訴えてオバマが大統領になってから8年。今回の大統領選で浮き彫りになったのは、皮肉にも、人種・理念・経済格差で分断された“2つのアメリカ”だった。この分断は更に深く、広がる兆しだ。来年1月20日に大統領に就任するトランプが描くアメリカの未来像は、未だ見えない。 《敬称略》


⦿日本経済新聞 2016年11月15日付掲載⦿
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