【中外時評】 日ロ経済協力何のため――ビジネス環境の整備促せ

ロシアのプーチン大統領の来日を来月に控え、日露間の経済協力を巡る準備協議が加速してきた。先日も、東京都内で政府間の貿易経済委員会が開かれたばかりだ。協議の柱となっているのは、安倍晋三首相が提案した“8項目の対露協力プラン”。エネルギーや極東開発に加え、医療・健康・都市づくり・産業の多様化・生産性向上・先端技術協力等も盛り込んでいる。日露の経済は「見事に補完する間柄」(安倍首相)であり、その協力を深めて共に成長を目指すという。大統領は、これを高く評価し、「両国間の経済の課題を解決するだけでなく、政治を含めた他の問題解決に向けた条件作りの為にも重要だ」と言明。「北方領土問題を含めた平和条約締結交渉にもプラスに働く」と示唆している。ロシア経済はエネルギー依存度が高く、政権にとっては、製造業を中心とした産業の構造改革が喫緊の課題だ。大統領が8項目プランに関心を示すのは、「国内産業の構造改革に寄与する」との期待もあるからだろう。先に来日したマトビエンコ上院議長も、「自動車・医薬・医療・ハイテク・インフラ分野の共同事業に関心がある」と表明している。実現性はどうか。ロシアに既に現地進出している日本企業の動向は、将来を占う参考になるかもしれない。モスクワの北東に位置するヤロスラブリ。人口凡そ60万人の地方都市だ。郊外には広大な工業用地が造成され、その一角に、道路を挟んで向かいあうように『コマツ』・『武田薬品工業』の工場が建つ。「最初はロシア製だろうと嫌がられ、工場出荷の製品をロシアのお客さんに買ってもらうのが一苦労だった」。『コマツCIS』の高橋明裕上級副社長は苦笑する。日本と同じ新鋭の製造設備で作っている工場現場を見せると、漸く納得したという。同工場で、コマツは2009年から中型の油圧ショベル、2011年からダンプトラックの生産を始めた。トップを含め、本社派遣の日本人が5人常駐する他、約220人のロシア人従業員が働く。現在は5社程度のロシア企業から部品等を調達し、現地調達比率は20%前後。通貨・ルーブルの急落で数字上の比率は下がったが、通貨が安定していたころは30~40%だったそうだ。

課題も多い。「我々はしっかりとした部品を安定供給してほしいが、ロシアは特定分野に秀でた中小企業が育っていないので、難しい面もある」という。また、「地方間の流通網の未整備の他、法律・制度・税率がコロコロと変わる点等も悩みの種だ」としている。一方の武田。スイスの製薬大手『ナイコメッド』を買収後、同社が進めていたヤロスラブリ工場建設を引き継ぎ、2013年から商業生産を始めた。心血管の関連薬や骨粗鬆症の治療薬等を生産している。約200人の従業員は、ポーランド人の工場長を除けば、ほぼ全員がロシア人だ。「ロシアの医薬品市場は巨大で、不況下でも急成長している。当工場も、設備の増強や、平日の2交代制を3交代制にして生産量を増やし、新たな製品も生産していきたい」。マチェイ・ファビャンチク工場長は豪語する。医薬品の国内生産を推進するロシア政府の戦略も追い風という。地元の行政府との関係も良好で、運営上のトラブルや、ロシアの悪しき風習とされる賄賂の要求等も無いそうだ。コンプライアンス部門の責任者は、「日本等国際企業の進出は、行政府の対応を改善させる効果もある」と語る。現地調達はどうか。原材料は、“世界共通の品質を保つ”必要性から殆ど輸入している。ロシアで調達するのは、アンプル製剤用の容器や包装箱等、一部だけだという。コマツ・武田共に、雇用や地元大学との産学協力を通じた人材育成等に貢献しているものの、現地進出がロシア企業の再生と直結する訳ではない。ロシアが外資との協業を進めるには、一芸に秀でた中小企業の育成・物流網の拡充・法制度を含めて、安心して投資できるビジネス環境の整備等、自ら取り組まなければならない懸案も多い。日露経済協力の窓口だったアレクセイ・ウリュカエフ経済発展大臣が収賄容疑で拘束され、解任された事件は、まさにビジネス環境の不透明さを露呈した。日露の絆を強める経済協力は確かに、平和条約交渉にもプラスになるかもしれない。だが、ビジネスは一過性のものではない。何の為の協力か。共に成長を目指すなら、日本側は投資案件や額の積み上げだけでなく、ロシアに環境整備の自助努力を促す取り組みも怠るべきではない。 (論説副委員長 池田元博)


⦿日本経済新聞 2016年11月20日付掲載⦿
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テーマ : 国際政治
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