【トランプ新政権の課題】(06) 貿易戦争仕掛けるか――保護主義、『NAFTA』に影

20161124 01
「北米自由貿易協定(NAFTA)については、いつでもドナルド・トランプ次期大統領と話し合う準備はできている」――。メキシコ経済省のイルデフォンソ・グアハルド大臣は、こう語る。1994年に発効したNAFTAは、北米圏の関税を撤廃し、その後の自由貿易協定のモデルとなった。メキシコはNAFTAで成長してきた。協定発効前の1993年の自動車生産台数は105万台だったが、昨年には340万台に増えた。8割がアメリカ等に輸出される。トランプ氏は、「人件費の安いメキシコにアメリカの製造業が流出し、NAFTAで雇用を奪われた」と協定再交渉を主張してきた。1994年以降、アメリカの製造業の就業者は400万人も減った。製造業の雇用減は「生産過程の自動化が主因」(アメリカ通商代表部のマイケル・フロマン代表)だが、トランプ氏の過激な保護主義は、雇用不安に悩む白人労働者の支持を掴んだ。トランプ次期政権がNAFTAの見直しに動けば、メキシコ経済への打撃は大きい。関税がトランプ氏の主張通り35%になれば、「メキシコの自動車生産台数が41%減る」(地元大手紙の『レフォルマ』)。アメリカの株高やドル高を尻目に、メキシコは経済不安で通貨のペソが1ドル=21ペソ台まで急落。史上最安値圏のまま、回復のきっかけを見い出せない。

NAFTA加盟国のカナダへの影響も大きい。アメリカとカナダの貿易は、1日当たり18億ドルと巨額。両国は農産物や鉱工業製品を中心に、互いに最大の輸出相手国だ。カナダのジャスティン・トルドー首相は今月10日、「貿易協定を議論するのは歓迎だ」と述べたが、その条件は「カナダの労働者に恩恵があるかどうか」と釘を刺した。“アメリカ第一主義”のトランプ氏との対決姿勢も滲ませた。トランプ氏は同9日の勝利宣言で、保護貿易には触れなかった。その後も、通商政策では過激発言を控えている。商務長官候補に挙がる投資家のウィルバー・ロス氏は、「貿易戦争にはならない」と言う。「トランプ氏の関税引き上げ発言は、メキシコ等との駆け引きに過ぎない」とし、沈静化を急ぐ。トランプ氏は、「中国製品にも45%の関税を課す」とも言及してきた。特定の国に高率の関税を課せば、『世界貿易機関(WTO)』協定違反となるのは明白だ。アメリカも相手国の報復関税を招いて、対外輸出が困難になる。「実業家のトランプ氏は、そんな過激策は取らない」(日本政府の通商政策担当者)との楽観論も根強い。ただ、トランプ氏が最優先と掲げる巨額減税やインフラ投資は、ドルの一段高を招く。ドル高はアメリカの輸出競争力を弱め、アメリカの製造業の海外移転に拍車がかかりかねない。トランプ氏は保護主義を掲げて政権を勝ち取っただけに、輸出不振となれば無策は許されない。トランプ氏の巨額減税策は、1980年代のロナルド・レーガン政権を模している。その1980年代は“レーガノミクス”で貿易赤字と財政赤字が膨らんで、ドル相場が急騰。自動車やハイテク製品等の日米貿易摩擦を招いた。アメリカの大統領は、通商政策の権限が強い。関税引き上げや貿易協定脱退を独断で決められる。1971年には、当時のリチャード・ニクソン大統領が10%の輸入課徴金を突然ぶち上げ、世界貿易を混乱させた。2年後に中間選挙を控えるトランプ氏が、貿易戦争を仕掛ける不安は拭えない。 (河浪武史・丸山修一) =おわり


⦿日本経済新聞 2016年11月19日付掲載⦿
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