【ヘンな食べ物】(14) 究極の粗食・モイック

1990年代の半ば、ミャンマーの奥地・ワ州に住むワ族の村で半年ほど暮らしていたことがある。そこでの食生活は凄かった。基本的に、毎日3食、『モイック』という雑炊しか食べないのだ。直径1m近い巨大な中華鍋みたいな鉄鍋に大量の米と水を入れ、只管グツグツ煮る。具材は菜っ葉か韮の類いのどちらか、味つけは塩と唐辛子のみ。出汁は無い。雑炊だから、別に凄く不味いという訳じゃない。辺境の村では燃料(薪)と時間の節約の為に、大鍋で雑炊を作るのは理にも適っている。ご飯とおかずなら、少なくとも2回は煮炊きしなければならない。が、明けても暮れてもモイック。しかも、他の具材は無い。肉は冠婚葬祭の時しか口にできないし、ワ族の人たちは何故か他の野菜を食べないのだ。知らない訳ではない。近隣の他の民族は色々と栽培して食べている。大体、村でも人によっては裏庭で馬鈴薯・トマト・茄子を作っているのだ。でも、それはどうやら“趣味の園芸”みたいなものらしく、非常に小規模で、殆ど食用になっていない。全く理解に苦しむ。もっと驚きなのは、卵も食べないこと。どうも、雌鶏が卵をどんどん産むことを知らないらしい。卵さえあれば、雑炊がおじやになるのに…。死ぬほど飽きていた当時の私は、「モイックじゃないものを食べる」が最大の夢と化していたほどだったが、村の人たちは心底好きらしい。何らかの事情で村から1ヵ月ほど離れていた人が帰ってくると、煮えたぎる雑炊を貪るように食い、「あぁ、これが一番!」と幸福に満ちた笑顔を浮かべていた。そんなことを思い出すと、モイックが食べたくなる。もう一度食べてみたいものだ。本当に一度だけでいいから。


高野秀行(たかの・ひでゆき) ノンフィクション作家。1966年、東京都生まれ。早稲田大学第1文学部仏文科卒。『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)・『アジア未知動物紀行』(講談社文庫)・『世界のシワに夢を見ろ!』(小学館文庫)等著書多数。


キャプチャ  2016年11月24日号掲載
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