【「佳く生きる」為の処方箋】(28) 心臓の“借金”と“貯金”

国債等の国の借金は年々増加の一途ですが、心臓の“借金”は返済が可能な上に“貯金”までできることをご存知でしょうか? 心臓の借金とは、例えば大動脈二尖弁のように、生まれつき心臓に異常がある場合が挙げられます。大動脈弁には本来、開閉する弁尖が3枚ありますが、これが先天的に2枚しかないのが二尖弁。発生頻度は80人に1人ですから、かなり多い異常です。若い頃は症状が無く、異常の存在にも気付きませんが、中高年になると大動脈弁が狭くなったり、閉まらなくなったりして、心臓弁膜症と診断される方が出てきます。謂わば、ここに来て初めて背負っていた借金の返済を迫られるわけです。では、どうやって返すのか? その返済法が、『大動脈弁置換術』という手術です。大動脈弁を人工弁に取り替えることで、長年の借金を一気に完済し、再び普通の生活ができるようになるのです。この手術で二尖弁を治した著名人には、ターミネーターを演じたアーノルド・シュワルツェネッガー氏もいます。一方、脂質異常症・糖尿病・高血圧等の生活習慣病によって、動脈硬化という借金が膨らんだ末に発症するのが、狭心症や心筋梗塞です。生活習慣病はその名前の通り、偏った食事・運動不足・喫煙・過度なストレス等が原因になりますから、心当たりのある方は「借金がかなり貯まっている」と考えたほうがいいでしょう。尚、家族性高コレステロール血症や家族性の糖尿病等、生活習慣とは関係なく、遺伝的に動脈硬化が進み易い方も勿論、借金を抱えることになります。

狭心症や心筋梗塞に対しては、『冠動脈バイパス術』で借金を完済します。これは、動脈硬化で狭くなったり、詰まったりした冠動脈に、患者さん自身の別の血管を繋ぎ、心筋への血流を確保する治療法。この際、バイパス用の血管として用いられるのが、心臓の直ぐ傍にある内胸動脈です。これは、胸板の裏側に左右1本ずつ縦に張り付くように伸びている血管で、体の中で最も動脈硬化が起こり難いという特長があります。日本の冠動脈バイパス術では、この内胸動脈を2本用いることが多いのですが、国際的には内胸動脈と脚の静脈を1本ずつ使用するのが標準です。例えば、アメリカのビル・クリントン元大統領もその方法で冠動脈バイパス術を受けました。但し、手術から6年後にはカテーテル治療を受けています。内胸動脈が10年以内に問題を起こすことは考え難いので、静脈に問題が起きたか、別の冠動脈の狭窄が進行したのでしょう。一般に、静脈は10年、内胸動脈なら20年以上は持つことがわかっています。つまり、2本の内胸動脈をバイパスに用いるということは、狭心症や心筋梗塞という借金を返済すると同時に、将来の再治療のリスクを減らす為の貯金にもなっている訳です。また、心房細動という不整脈のある方には、冠動脈バイパス術と同時に、血栓を防ぐ目的で『左心耳縫縮術』も実施します。将来、起こるかもしれない脳梗塞の予防になりますから、これもまた大きな貯金です。更にもう1つ、特筆すべき貯金があります。これまで健康に無頓着だった人が、手術で借金を清算した途端、食事に気をつけたり、定期的に運動をしたり、薬をきちんと飲んだりして健康志向へとシフトするのです。この貯金は間違いなく、その後の健康寿命を左右する大きな財産になります。しかしその一方で、残念ながら“借金生活”に戻る人も…。借金か貯金かは、その人次第。扨て、貴方ならどちらに進むでしょうか?


天野篤(あまの・あつし) 心臓外科医・『順天堂医院』院長。1955年、埼玉県生まれ。日本大学医学部卒。『亀田総合病院』『新東京病院』等を経て、2002年に順天堂大学医学部心臓血管外科教授に就任。2012年2月18日に天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀。2016年4月より現職。著書に『一途一心、命をつなぐ』(飛鳥新社)・『この道を生きる、心臓外科ひとすじ』(NHK出版新書)等。


キャプチャ  2016年11月24日号掲載
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