【仁義なきメディア戦争】(02) 動き出した改革議論…NHKを悩ます受信料制度の限界

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「NHKが申込書を送れば、視聴者が拒否しても契約が成立するのか」「アパート据え置きのテレビの受信料を払う必要があるのか」「ワンセグ携帯の保有者は、NHKと契約しなければならないのか」――。NHK受信料の訴訟を巡り、様々な記事が溢れている。これらは近い将来、大幅に減っていくかもしれない。受信料の支払いを義務化する動きが持ち上がりつつあるからだ。インターネットやスマートフォンが普及し、視聴者は様々な端末で動画を視聴するようになった。こうした変化によって、NHKの在り方や受信料制度も変革期を迎えている。NHKを所管する総務省の高市早苗大臣は、「受信料・業務・ガバナンス(企業統治)を三位一体で改革することが重要」と強調する。NHKの受信料は、地上波のテレビ放送を受信する地上契約が月額1260円(口座振り替え・クレジット払いの場合)で、地上波と衛星放送が一緒になった衛星契約は同2230円。NHKによると、昨年度は契約対象世帯の内、77%が支払っており、年間収入は6625億円。広告収入が柱となるフジテレビの昨年度の売上高(2897億円)や日本テレビ(3070億円)と比較しても、巨額の収入源となっている。現在、NHKとの“契約”は放送法で定められているが、“支払い”の義務については明文化されておらず、罰則規定も無い。そこで、『放送法』の改正を含め、支払いの義務化に向けた議論が始まろうとしている。きっかけは昨年9月、自民党の『放送法の改正に関する小委員会』が、総務省とNHKに対して提言を行ったことだった。自民党は明確に受信料の義務化を要請した。その内容は、強制徴収・不払いに対する罰則・マイナンバー活用等の検討に加え、インターネット配信のみの視聴者からの徴収方法を検討すること等が盛り込まれていた。更に、インターネット配信を視野に入れつつ、海外の例を基に制度設計を行うことや、義務化によって可能になる値下げ額のシミュレーション策定を求める等、多岐に亘っていた。

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近年、支払率そのものは上昇基調にあり、受信料収入は6000億円台半ばで安定している。NHKには、受信料を積み立てた建設積立資産が約1600億円あり、2020~2036年にかけて東京都渋谷区にある放送センターの建て替え計画も発表している(左上図)。グループ全体で3100億円の剰余金を保有しており、財務は盤石だが、何故こうした案が浮上するのか。背景には、現状の受信料制度の限界がある。NHKは受信料の支払率を上げる為、“地域スタッフ”に業務委託している。地域スタッフは『ナビタン』と呼ばれる専用端末を携帯し、1軒1軒訪問しながら未契約者の契約手続きを行う。しかし、単身世帯やオートロック付きマンションの場合、訪問先と面会すること自体が抑々困難だ。NHKは民間の営業会社への委託を増やしたり、公的情報の利用について研究を進めたりしているが、短期で支払率を大幅に引き上げることは難しい。一方で、こうした営業にかかる経費は、年間734億円(昨年度)と巨額だ。これ以上、コストを投じるのは難しいだろう。根源的な問題も浮上している。どれだけテレビが視聴されているかを示す“総世帯視聴率”は、緩やかに低下を続けている。右図のように、1日当たりのテレビの視聴時間も、70歳以上を除く全ての年代で減少している。特に、インターネット動画を利用することが多い10代・20代を中心に、減少が目立つ。民放も同様だが、若者世代のテレビ離れは着実に進んでいる。NHKの現役職員は、「番組作りに際して兎に角、視聴率を重視している。若い世代から見られなくなり、『将来的にNHKが必要とされなくなるのではないか』といった危機感は強く持っている」と明かす。こうした状況から、NHKも、放送と同時にインターネットでも番組を配信する為の準備を進めている。放送法によって24時間、常時配信できないといった制限は付いているが、NHKは昨年からインターネット配信実験を開始。災害等、緊急報道以外のものについても配信を始めている。今年もリオデジャネイロオリンピックの一部を配信した。配信実験に関する費用はテレビの受信料で賄われていることから、NHKは受信料収入の2.5%以内(昨年度は113億円、1.7%)に抑えながら、配信を進めている。今月から来月にかけては、1万人規模の実験を行う予定だ。

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一方で今年8月には、テレビ放送を受信できるワンセグ携帯の保有者が受信契約の対象となるかが争われたさいたま地方裁判所の裁判で、NHKは敗訴している(その後、東京高裁に控訴)。インターネット時代に移行する中、現状の制度では対応できない様々な課題が浮上している。支払いの義務化を含む受信料制度については、総務省が有識者を招いて昨年11月に設置した『放送を巡る諸課題に関する検討会』で今後、集中的に検討される見通しだ。NHKも資料として提出しているが、参考になるのは海外の公共放送だろう。イギリス・フランス・ドイツ・韓国の支払率は9割を超えており、極めて高い。これらは、不払い者に対して罰金や刑務所への収監(イギリス)といった罰則がある国だ。ドイツは、受信機の有無に関わらず、住居毎に徴収する。また、フランスやイタリアは、住民が「受信機は未設置」と申告しない場合、“設置されているもの”と推定して徴収する仕組みだ。韓国では、電力公社へ委託して徴収している。仮に義務化が実現すれば、不払い対する不公平感の解消のみならず、訪問費用等のコスト削減が見込めそうだ。しかし、立教大学社会学部の砂川浩慶教授は、「支払いを義務化しなくても受信料は伸ばせる」と指摘する。現在、衛星契約の比率は全体の48.9%(昨年度末)。衛星放送を受信できる世帯に対し、地上契約より月額970円高い衛星契約に切り替えるよう要請していくことで、収入を伸ばせる余地がある。NHKが受信料収入で運営する以上、国民や視聴者から信頼を得ることが不可欠だ。ガバナンスも重要になるが、前出の検討会の委員からは、第三者による番組制作費等支出面のチェック体制の構築や、同じく「第三者が業績評価を行い、その結果を経営に反映する仕組みを作るべき」といった指摘が相次いだ。現在、NHKでガバナンスの中心となるのが、12人の委員で構成される経営委員会。経営や業務運営に関する重要事項の審議・議決を行う。会長の指名も仕事の1つだ。これが、業務執行を審議する理事会や会長を監督する仕組みになっている。ただ、仕組み自体の欠陥を指摘する声もある。2012年3月から昨年2月まで、経営委員会で委員長代行を務めた早稲田大学法学部の上村達男教授は、「会長の権限が絶大で、理事会は単なる審議機関に過ぎない。経営委員会は決定機関だが、業務プロセスを見ていない。その機能に本質的な限界がある」と指摘する。経営委員の選任についても、「政府の意向に左右されないよう、与野党一致で決めてきたが、安倍晋三政権になってからは、“政府からの独立性”という視点は消えてきている」(上村教授)。

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「政権との距離が接近している」との指摘は、複数の専門家やNHK関係者からも聞かれる。その意味で注目されるのが、次期会長の動向だろう。籾井勝人現会長の任期は3年で、来年1月に満了を迎える。経営委員会は先月11日、次期会長を選ぶ指名部会を開き、「公共放送の使命を十分に理解している」「政治的に中立である」等5項目の資格要件を決めた。今後、籾井氏も含めた候補者を選び、年内を目途に候補を絞り込む考えだ。以前から候補として浮上していたのが、東京都知事選に出馬した増田寛也氏だが、選挙で自民・公明両党が支援した経緯もあり、可能性は低い。また、元専務理事で現在は『NHKエンタープライズ』社長を務める板野裕爾氏も下馬評に上る。経済人からも候補者を探している最中だろう。会長交代を控えて、NHK内では“変調”も現れている。今年8月26日深夜に放送した討論番組『解説スタジアム』では、解説委員7人が『どこに向かう日本の原子力政策』をテーマに議論した。その内容は、原発再稼働と原子力政策を徹底的に批判するもので、擁護する意見は一切出てこなかった。「原発を全否定する発言は、政府にとって都合が悪い。籾井会長に全面反旗を翻す行動になるが、『再任は無い』と見切ったからでは」(NHK関係者)。次期会長の資格要件には、“政治的中立”が定められている。安倍政権と適切な距離を保つことができるのか。ガバナンスにおいて重要な論点となりそうだ。様々な課題を抱えるNHKだが、最優先で取り組むべき課題は、高品質の番組を提供し続けることだ。ここに寄せられる期待は、非常に大きいものがある。長年、TBSテレビの報道記者やキャスターを務めた民進党の杉尾秀哉議員は、「震災復興予算の実態に迫った調査報道等は、人的資源・物的資源があるNHKしかできないものだった。民放に身を置いていた人間からすると、NHKはリスペクトされる存在であり続けてほしい。インターネット配信の時代でも、その役割は変わらない」と語る。近年、『NETFLIX』や『Amazon』等、海外の有料動画配信サービスが続々と日本に上陸している。携帯電話会社や民放各局の動画配信も本格化する等、有料のインターネット動画サービスは嘗てないほど充実している。しかも、多くのサービスは月額500~1000円程度と安く利用できる。NHKは有料メディアという点で、これまで以上に視聴者からシビアな視線が注がれている。変革を迫られるNHKが自らの存在意義を証明するには、他のメディアを圧倒するような有益な番組を供給し続けるしかない。視聴者や国民は、この先も納得した上で受信料を払い続けるのか。支払いの義務化が、必ずしも“皆様”のNHKを救うとは限らない。


キャプチャ  2016年11月19日号掲載

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