オムニチャネルで奮闘、『丸井』・『パルコ』・『MUJI』の挑戦――7年前に早くも“顧客・在庫”を一本化、場所と時間を超えて魅力伝える

実店舗・ウェブサイト・スマートフォンのアプリ…。インターネット時代の消費者は、あらゆる販路をふらふらと行き来し、気紛れで買う。デジタルを駆使して事業モデルを変革すれば、“個人”との関わりを深めていける。それがオムニチャネルだ。しかし、道程は険しい。本当のオムニチャネルとは何か。奮闘する小売業の最前線を追った。 (取材・文/本誌 藤村広平・井上理)

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①丸井グループ…“在庫レス店舗”で売り場を広げる
今月19日、『丸井』静岡店が全館リニューアルを終え、新装オープンを迎えた(右画像)。ごった返す店内。正面入り口を入り、エスカレーターで2階に上がった目の前の一等地に、婦人靴がずらりと並んでいる。2010年のデビュー以来、都心部の働く女性に絶大な人気を誇り、累計300万足以上を販売したPB(プライベートブランド)商品『ラクチンきれいシューズ』の売り場だ。その隣には、同じく丸井グループのPBブランド『ru』の女性向けパンツ売り場がある。一見、既存店の売り場と変わらないが、決定的に違う点がある。シューズ売り場・パンツ売り場共に、店舗には一切、在庫が無いのだ。あらゆるサイズ・色が店頭に並んでおり、客は自由に試着のみを“体験”する。買うと決めればタブレットが待っている。その場で注文・決済を済ませると、最短2日で自宅に商品が届く。送料無料で、靴は返品可能。インターネット通販の巨大な在庫から届けるので、客が欠品で諦めることはほぼない。大きな靴の箱を持つこともなく、手ぶらで買い物を続けられる。履き潰して、また同じ靴が欲しい時は、インターネット通販で直接、注文すればよい。実店舗(リアル)とインターネット通販が一体となって、消費者にメリットを与え、結果として収益拡大に繋げる…。体験ストアは、その一例に過ぎない。会員基盤は、自社発行のクレジットカード『エポスカード』で統一。カード毎に付与されるIDで、丸井のインターネット通販『マルイウェブチャネル』も利用できる為、客は店舗でもインターネットでも共通でポイントを溜められる。一方、丸井側はリアルとインターネット、双方で顧客の動きを捕捉できる為、様々な提案が可能になる。例えば、ある客が店頭でエポスカードを提示して購入した際、そのIDがインターネット通販を未利用であればレシートクーポンを発行。インターネット通販で5000円以上購入した際に、500円分のポイントが付くようにする。これが、年間5万人のインターネット通販の新規利用に繋がっているという。

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インターネットからリアルへの送客も進む。PB商品を中心に、インターネットからリアル店舗の在庫が確認でき、靴等といったサイズが気になる商品を店頭で試してから受け取れる。返品は無料だ。PB商品全体の売り上げの内、インターネット経由で購買に繋がった額、所謂“EC化率”は22%。小売業全体の平均が約8%と言われる中で、突出した数字と言える。本当のオムニチャネルの姿を逸早く実現させている丸井グループ。それが可能なのは、未だオムニチャネルという言葉が無い頃から、顧客・在庫管理をリアルとインターネットで共有するシステム整備を続けてきたからだ。在庫管理の一元化は2008年に済ませ、翌年には顧客IDも統合させている。「顧客の利便性を追求してきた結果、何年か経ったら、世の中が“オムニチャネル”と言っているものに限りなく近付いていた。接点が多いほど、顧客との関係性は濃くなる」。同社の佐藤元彦専務執行役員は、こう話す。インターネット通販の売上高は200億円を超え、リアルの売り上げも押し上げている。最新のデータでは、店頭受け取りを選択した顧客の約30%が店舗で“序で買い”をし、店でキャンセルした顧客でも、約40%が別の商品を店舗で購入しているという。インターネットからリアルへの送客で一定の成果を収めた丸井は今、次のフェーズとして逆方向の取り組みを本格化させている。それが、冒頭の体験ストアだ。靴の体験ストアは今年3月から、丸井が出店していない地域で始まった。『イオン』等のショッピングモールや地下街等のスペースを利用し、1週間から10日ほど、実験的に体験ストアを出店。在庫や決済用のPOSレジを必要としない身軽な“キャラバン売り場”は、今年9月までに22ヵ所を数えた。体験ストアでわかったことは、売り場をインターネットの空間へと事実上、拡張できるというメリットに加え、接客効率が高いということだ。接客スタッフは在庫確認・出し入れ・レジ精算等をする必要がなく、時間の100%を接客応対に使える。結果、坪当たりの売り上げは、既存店の靴売り場より20%以上も上回ったという。この成果を踏まえ、体験ストアを丸井の店舗網にも広げていくことにした。動きは速い。靴とパンツ、両方を扱う冒頭の静岡店の他に、吉祥寺店には靴の、柏店にはパンツの体験ストアを出店している。キャラバン出店も着々と増やしており、丸井は来年3月までに計60ヵ所とする計画だ。インターネット通販と組み合わせることで、リアルの売り場と在庫を拡張していく丸井。オムニチャネルによる小売業の“進化形”は、これに止まらない。

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②パルコ…店員の接客力、リアル店舗を超える
「カラーのラインが入ったチェックのスカートです♪ フレアなので広がり具合がとってもかわいいです◎」――。アプリを開くと、そんなコメントが付いたファッション・小物の写真が時系列で縦に続く。“クリップ(お気に入り)”された数が各投稿に表示され、まるで若い世代に人気のSNS『インスタグラム』のようだ。これは、『パルコ』が配信するスマートフォン向けアプリ『POCKET PARCO(ポケットパルコ)』。投稿をクリップしたり、パルコの各店舗でチェックインしたりすると、ポイントが貰える。記事を投稿しているのは、パルコに入居する各ショップのスタッフ。パルコのテナント全国3000店舗の内、半数の約1500店舗が情報を発信している。インターネットが“拡張”するのは、売り場や在庫だけではない。全国18ヵ所に展開するパルコは、店舗スタッフの“接客”を拡張することで、その店舗の売り上げを伸ばしている。起点となっているのが、冒頭の投稿だ。

パルコは丸井とは違い、ほぼ全館をテナントで埋めるショッピングセンター。デベロッパーとしてのオムニチャネルの姿を切り開いてきた存在だ。入居する各ブランドは自前でインターネット通販を持っている為、当初はパルコ自身がインターネット通販のプラットフォームを用意する考えは無かった。だが、2013年から始めた“ショップブログ”を機に流れが変わった。ショップのスタッフが趣向を凝らし、新入荷や人気商品の紹介記事等を投稿し始めると、在庫確認や取り置きのお願いといったショップへの問い合わせが増えた。中には、「現金書留を送るので配送してもらえないか?」という依頼も。「各ショップの為のインターネット通販の仕組みが必要だ」。そう考えたパルコは、2014年から段階的にインターネット通販の『カエルパルコ』を開始した。但し、インターネット通販といっても、パルコが在庫を預かり、発送する訳ではない。注文は各ショップに送られ、取り置きの場合は7日間キープ。宅配の場合でも、各ショップのスタッフが梱包・発送作業を行う。つまり、インターネットであっても、消費者が情報に触れ、購入し、入手するまでの体験を、同一店舗のスタッフが“お供”するという訳だ。「飽く迄も主役は各ショップのスタッフ。パルコは、スタッフの接客をテクノロジーで拡張する道を選んだ」。同社の林直孝執行役は、こう言う。今では、15年から本格展開したアプリのポケットパルコとカエルパルコが一体で、店と客を繋いでいる。ブログはアプリの一機能となり、カエルパルコを活用するショップは200店を超えた。カエルパルコ経由で入る注文の約4割が、パルコが閉まる21時から翌朝10時にあった。「全国的なブランドでも、ご当地ならではの商品を紹介したり、魅力的な投稿であれば、地方のショップの商圏は広がる」(林執行役)。実際、ショップがある場所の県外からの注文は、平均で7割という。インターネット空間に飛び出したショップのスタッフ。その接客が売り上げを着実に伸ばしている。これも、オムニチャネル時代の新たな形と言える。

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③良品計画…買わない顧客とも繋がりたい
試着ができる。次世代の“接客”を受けられる。リアルとインターネットの融合が進めば、小売りの可能性は大きく広がる。とはいっても、お客が毎回のように商品を買ってくれる訳ではない。お客の求めるものを知りたいと思うのなら、寧ろ購入するまでの迷いや、購入してからの反応を把握することに大きな意味があるのではないか──。こうした考え方をスマートフォンのアプリに落とし込み、活用を探っているのが、『無印良品』を運営する『良品計画』だ。2013年に配信を始めた会員向けアプリの『MUJIパスポート』。お店で溜まるポイントを、無印良品のインターネット通販で溜まるポイントと統合した。更に、商品を購入しなくてもポイントが溜まる仕組みを逸早く導入した。インターネット通販で気になる商品を見つけ、“ほしい”ボタンを押す。これは、ポイントの溜まる動作の一例だ。クリック1つでポイントが獲得できる為、お客は気軽にブランドに参加し、良品計画に“顔を見せる”ことになる。自分が過去にお気に入りに登録した商品のセールが始まった場合には、無印良品からお客にその旨の通知が届く。アプリを開けば、現在地に近い店舗までの地図や、その店舗の在庫状況もそのまま確認できる。自分と無関係な広告が配信されるのではなく、「欲しい」と思っていた商品に関する割引情報が届く為、お客にとっても利用価値が高い。MUJIパスポートの国内累計ダウンロード数は、今年8月までに730万件を突破した。無印良品の店舗で買い物するお客の内、28%がMUJIパスポートの会員。売り上げベースでは44%が会員というから、アプリの貢献により単価が上がっていることが窺える。日本版の成功を受け、既に中国・台湾・香港・韓国の4ヵ国・地域でもMUJIパスポートの配信をスタートさせた。「IDを活用した顧客管理というと、これまでは買ったか買わなかったかばかり注目されてきた」。同社WEB事業部の川名常海部長は指摘する。無印良品では“ほしい”ボタンの他にも、使用後にインターネット通販でレビューを書いたり、新しい商品開発のアイデアを投稿したりすることでもポイントが溜まる。「お客との接点が増えれば、無印良品の世界観を理解したお客さんに商品を買ってもらえる」(川名部長)。今後は、購買履歴等に応じた情報配信といった販促策も検討していく考えだ。


キャプチャ  2016年11月28日号掲載

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