【迷走する所得税改革】(01) “夫婦控除”財務省の誤算

年末に向けて本格化する政府・与党の税制論議は、焦点の所得税改革が出だしから混乱している。「専業主婦を優遇する配偶者控除に代わって、結婚世帯を広く支援する仕組みを作る」という財務省の提案が、早々に退けられたからだ。財務省は、国民の利害が縺れる所得税改革を入念に準備してきたつもりだが、世論を意識する政府・与党内の視線は冷めていた。

20161130 08
「シャウプ勧告以来の抜本的な見直しを目指す」――。財務省の佐藤慎一次官は、大戦直後の税制を引き合いに出し、所得税改革の陣頭指揮を執ってきた。35年ぶりに主税局長から次官に就いた佐藤氏は、“所得税の専門家”として知られ、思い入れも強い。同氏が描いた所得税改革の青写真は、政府税制調査会が昨年11月に纏めた報告書にほぼ網羅されている。「女性の社会進出を阻害している」と批判される配偶者控除は、見直し対象の筆頭格だ。結婚を条件に所得税を減らす“夫婦控除”は、配偶者控除に代わる3つの選択肢の1つで、事実上の財務省提案と見做された。「この四半世紀の我が国経済社会の構造変化の“実像”を把握する」。報告書はそう謳い、年収と結婚から結婚・出産前後の女性の就業、世界のインターネット人口まで幅広いデータを示した。幾つもの社会現象から、帰納法的に改革を訴えるやり方だ。佐藤次官が課長時代の2004年に纏めた報告書で、消費増税の必要性を滲ませたのを想起させた。審議会の報告書で世間の関心を呼び起こし、機が熟したところで政府・与党の議論に入る。そんな財務省の作戦は、どこで躓いたのか。最初の誤算は、政府税調の影響力の低下だ。政府税調が1年前に示した所得税改革の青写真は、「世間に届かなかったばかりか、政府・与党内にも浸透していなかった」(他の官庁幹部)。財務省が数年がかりで導いた提案だが、省外の関係者は「唐突だ」と感じた。認識のズレは埋め難かった。

タイミングの悪さも重なった。昨秋、財務省は消費税率10%引き上げ時の軽減税率で“還付案”を示し、首相官邸や与党の批判から撤回に追い込まれた。更に、軽減税率の対象範囲で昨年末まで与党が纏まらず、今年の通常国会は同省の麻生太郎大臣や、当時は主税局長だった佐藤氏が答弁に奔走。軽減税率の混乱が落ち着くまでは、所得税どころでなかった面がある。同じ税制とはいえ、安倍晋三首相が6月に先送りを決めた消費税率引き上げと今回とでは、省内のムードや足並みの違いも歴然だ。数兆円の税収アップが見込める消費増税の判断では、主税局幹部だけでなく、主計局の福田淳一局長らが矢面に立った。所得税改革は増税にも減税にもせず、改正後も税収を変えない、所謂“増減税中立”の想定だ。この前提ならば、実現してもしなくても財政収支には影響ない。主計局は所得税と距離を置き、社会保障予算等といった歳出抑制に力を集中する。膨大な政府債務と財政規律を考えると減税は難しく、増税で個人消費を冷え込ませるのは避けたい。マクロ経済から見れば、所得税改革でトータルの増減税中立は自然な流れのように映る。しかし、「実は単純な増税よりも、増減税中立のほうが難しい制度変更になるかもしれない」との懸念を漏らす政府関係者もいる。増減税中立ということは、個人や家計というミクロの単位では増税と減税が混在する。つまり、“他の誰かの減税を埋め合わせる為”に増税を負う世帯が現れる。トータルで増税する時の「社会保障財源に回す」「財政再建する」という大義に比べ、「隣人の為の増税は納得感が広がり難い」という見立てだ。見立てが的中したとも言えるのが、夫婦控除への反対論だ。専業主婦世帯の負担増を嫌う声は、与党内に根強い。財務省は夫婦控除を諦め、“配偶者特別控除”拡充でパート主婦への減税枠を広げる案を検討する。ただ、「高所得の専業主婦世帯への増税で減税を埋め合わせよう」という考えは夫婦控除と変わらず、賛否両論が飛び交うだろう。政府の看板政策である働き方改革の要に所得税を位置付けた以上、ゼロ回答は許されない。来年度税制改正を固める年末が近付き、財務省に焦りも漂うが、着地点は未だ見えてこない。


⦿日本経済新聞 2016年11月8日付掲載⦿
スポンサーサイト

テーマ : 経済・社会
ジャンル : ニュース

轮廓

George Clooney

Author:George Clooney

最新文章
档案
分类
计数器
排名

FC2Blog Ranking

广告
搜索
RSS链接
链接
QR码
QR