【変見自在】 民族派ですか

「吉田清治の『済州島で朝鮮人女を狩り出し、慰安婦にした』という話は真っ赤な嘘でした」と朝日新聞が認めたのは、30年も経ってからだった。その間、松井やよりが済洲島を釜山に変えて、「日本人巡査が朝鮮女を捜った」と書いた。吉田清治スピンオフ作品第1号だった。植村隆はソウルを舞台に、妓生と日本軍人の話を書いた。スピンオフ第2弾だ。そういう嘘の積み重ねを指摘したのが、実は新聞でもテレビでもなかった。首相就任直前の安倍晋三が、「吉田清治というペテン師の話を朝日新聞が広めている」と記者が居並ぶ前で語った。メディアが政治を壟断してきた。田原総一朗は「首相の首を何人も取った」と言った。朝日も「安倍の葬式はうちが出す」と言った。挑戦状を叩き付けられた朝日は、しゃかりきに安倍潰しに掛かったがダメだった。社長の木村伊量は結局、自分の首を差し出した。後を継いだ渡辺雅隆は、慰安婦の嘘を産んだ大阪社会部の出身だった。吉田清治を掘り出した清田治史は先輩で、植村は同輩だった。それで編集が嫌になったか、労務担当になった。朝日を称して、“アカが書き、ヤクザが売って、バカが読む”という。そのヤクザを統括する役目だった。新社長になった時、嘘も気にしない“意識”と、裏も取らない“手法”を改めて、“偏らない公正さ”“多様な意見を入れる謙虚さ”を約束した。しかし、書くほうのアカはその約束をどうしたか。例えば、編集委員の大野博人は、マッカーサー憲法が公布された今月3日の紙面で、あの憲法を「アメリカからの押しつけだから嫌だ」という見方を嘲笑った。将来への不安がある。日本人が書いた憲法にすればいい時代が来るなんて「幻想だ」と。「人は色々な意見を持つ。それを受け止めるのが、これからの朝日だ」と言ったヤクザの統括者の約束など、気にもしていない。

「押しつけ憲法でいいじゃないか」という主張に、朝日お抱えの憲法学者・長谷部恭男も座興を添える。「アメリカが押しつけたのが嫌というなら、明治憲法も押しつけではないか」と。「ペリーが押しつけたのか?」とびっくりするが、そうじゃない。「憲法を作る権力を持つ主権者の国民に明治政府が押しつけたじゃないか」。網野善彦じゃあるまいし、日本の歴史に“主権者”なんて表現は馴染まない。百歩譲って押しつけだとしても、明治政府は日本人が仕切っている。マッカーサーの押しつけとは次元が違う。長谷部にはその違いが難し過ぎるから、今年3月、那覇市のビジネスホテルで起きた泥酔婦女暴行事件を例に取ってみる。以下は朝日の記事だ。「知人らと観光で沖縄を訪れていた40代の女性会社員が前夜、飲酒した後、宿泊先のホテルの廊下で寝込んでしまった。目が覚めたら見知らぬ男のベッドにいた。抜け出して警察に通報し、見知らぬ男は準強姦の容疑で緊急逮捕された」。沖縄では、年間60件の強姦が起きている。ただ、警察は発表もしない。今回も犯人が日本人だったら、警察が動いたかどうか。状況も曖昧で、現に犯人も部屋で寝ていて捕まっている。それを上記のように大きな記事にしたのは、犯人がアメリカ人だったからだ。朝日は日本人では騒がないが、アメリカ人だから騒いだ。「アメリカ人が日本人を犯した」と、民族感情に訴えた。吉田清治の嘘を朝日新聞がでっかく書いたのは、慰安婦にされたのが“朝鮮人”という設定だったからだ。日本人ではネタにもならなかっただろう。「日本人が朝鮮人女を拉致した。慰安婦にして、戦場で強姦した」と創ったからこそ、慰安婦問題が大騒ぎする材料になった。朝日新聞は、ずっと民族ネタを大切にして、それで飯の種にしてきた。ただ、憲法に限っては「アメリカ人が書いても問題ない」と言う。この辺が、“民族派新聞”になり切れない朝日の頭の悪さなのかもしれない。


高山正之(たかやま・まさゆき) ジャーナリスト・コラムニスト・元産経新聞記者・元帝京大学教授。1942年、東京都生まれ。東京都立大学法経学部法学科卒業後、産経新聞社に入社。警視庁クラブ・羽田クラブ詰・夕刊フジ記者を経て、産経新聞社会部次長(デスク)。1985~1987年までテヘラン支局長。1992~1996年までロサンゼルス支局長。産経新聞社を定年退職後、2001~2007年3月まで帝京大学教授を務める。『高山正之が米国・支那・韓国・朝日を斬る 日本人をますます元気にする本』(テーミス)・『アジアの解放、本当は日本軍のお陰だった!』(ワック)等著書多数。


キャプチャ  2016年12月1日号掲載
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