【衝撃トランポノミクス】(中) 光と影、まるでレーガン

20161206 04
『キャタピラー』・『ゼネラルエレクトリック(GE)』・『コマツ』・『大平洋セメント』――。株式市場で“トランプ銘柄”が活況だ。ドナルド・トランプ次期大統領が掲げる大規模なインフラ(社会基盤)の工事が実施されれば、売り上げが増えることが期待されているからである。アメリカ大統領選後から直近までの値上がり率は、重機を作るキャタピラーが約9%、鉄道車両等を製造するGEが約5%だった。建設機械メーカーのコマツは約15%、太平洋セメントは22%、今月9日と比べて上昇した。トランプ氏は大統領選の勝利演説で、「社会資本の再整備を最優先でやる」と訴えた。今後10年間に約1兆ドル(約110兆円)を投資する。工事を増やし、雇用の創出や景気の底上げを図る中核政策だ。「今日も遅刻よ。ここで生まれてずっと乗っているけど、全然ダメね」。マンハッタンの地下鉄駅。10分以上待っていた会社員のゲービー・ペレスさん(29)はうんざりしていた。ニューヨーク州交通局が運営する地下鉄の利用者は、1日に約560万人。しかし、財源不足で補修が追いつかず、信号機の故障等が頻発している。運行の遅延や休止は日常茶飯事だ。アメリカは、道路・鉄道・橋等の老朽化が深刻だ。トランプ氏周辺は、「交通の遅れで、アメリカ経済に年間500億ドル(約5.5兆円)の損失が出ている」と分析する。『全米土木学会』は、「インフラの改修に、2020年までに約3.6兆ドル(約390兆円)の投資が必要」と試算した。アメリカ国民にも、インフラ整備を歓迎する声が多い。

トランプ氏のもう1つの目玉は大減税だ。法人税率を35%から15%へ引き下げ、所得税も減税する。企業や個人が使えるお金を増やし、投資や消費を刺激することで景気回復を加速するのが狙いだ。アメリカの独立系調査機関『タックスポリシーセンター』の推計によると、減税規模は今後10年間で約6.2兆ドル(約680兆円)だ。市場には、大型減税を柱とするトランプ氏の経済政策を、“レーガノミクス”に擬える向きもある。ロナルド・レーガン氏が就任した1981年、アメリカの失業率は7%を超えていたが、退任した1989年に5%台に下がり、計約1600万人の雇用を創出したとされる。しかし、高失業率に加えて高インフレだったレーガン時代と比べ、現在のアメリカは低インフレに低失業率と、経済環境は異なる。「公共事業で雇用を増やす余地が低い」との指摘もある。また、減税は消費や投資の拡大を支えるが、長続きするかはわからない。大型減税と歳出拡大は、財政悪化とも隣り合わせだ。超党派の非営利組織『責任ある連邦予算委員会』は、「トランプ氏の財政政策で、政府の借金残高が10年後に約5.3兆ドル(約580兆円)増え、アメリカの国内総生産(GDP)を上回る」と予想する。レーガン政権に関する著書のあるプリンストン大学のメグ・ジェイコブス客員研究員は、「レーガン政権は財政赤字を増やし、減税や規制緩和に期待したほどの効果は無かった」と話し、トランプ氏の政策にも懐疑的だ。政府の歳出や減税等の税制改正を決めるのは議会だ。トランプ新政権を支える議会多数派の共和党は、伝統的に“小さな政府”を掲げる。歳出削減や財政収支の均衡を求める意見が多く、下院のポール・ライアン議長は財政再建派だ。トランプ氏の財政政策が、議会との調整に左右される可能性は小さくない。

■自由貿易、国民に不評  ピエトラ・リボリ氏(ジョージタウン大学教授)
トランプ次期大統領が主張する保護主義的な政策に、アメリカ国民が共感するようになる転換点として位置付けられるのは、2001年に中国が『世界貿易機関(WTO)』に加盟したことだ。それほど高い技術を必要とせず、賃金が低い労働者を集めていた工場は中国に移った。低価格の日用品が輸入され、アメリカ国内の物価は下がったが、“ラストベルト(錆び付いた工業地帯)”と呼ばれる中西部は深刻な経済の打撃を受け、中国に対する貿易赤字は拡大した。アメリカの製造業は第2次世界大戦以降、成長軌道を辿っている。労働者1人当たりの生産額は、史上最も高い水準にある。絶え間なく生産性を向上させてきた証拠だ。アメリカの製造現場は今、巨額の設備投資を行い、最先端の技術を備える傾向を強めている。それでも、アメリカで「製造業が衰退した」と受け止められるのは、雇用者数が減って、労働者全体に占める割合が下がった為だ。アメリカは貿易で利益を受けているが、否定的な印象を持つ人が少なくない。多くの先進国は、競争で仕事を失っても、失業者の復職を支える安全網がしっかりしている。しかし、アメリカの対応は遅れている。2008年に起きた世界的な金融危機による深刻な景気悪化の記憶も根強い。有権者の不安は強く、今回、トランプ氏の支持に向かったのだろう。 (聞き手/ニューヨーク支局 有光裕)

■“対等な大国”諦めない  金燦栄氏(中国人民大学国際関係学院副院長)
中国の習近平国家主席は、トランプ氏への祝電や電話会談の中で、“新しいタイプの大国関係”というフレーズを使わなかった。バラク・オバマ大統領が受け入れなかった中国との対等な“新型大国関係”を、当選したばかりのトランプ氏に押し付けることは控えたが、中国がアメリカとの“衝突・対抗しない”・“相互尊重”・“双方に利益を齎す”関係作りを諦めることはあり得ない。習氏とトランプ氏は、強くてしきたりに囚われない考え方を持つ点でよく似ている。オバマ氏の時より上手くいく可能性がある。トランプ氏はオバマ氏のように、アジアを特別に重視する政策は取らず、新たな軍事力をアジアに集中投入することはないだろう。中国に対する戦略的圧力は弱まる。同時にトランプ氏は、アメリカ自身の利益の為に、同盟国との関係は引き続き重視する意向だ。日本に駐留アメリカ軍経費の負担増を求めたとしても、日本が応じれば同盟関係が弱体化するとは考え難い。中国が最も重視する国際的な枠組みは、『主要20ヵ国・地域(G20)』だ。トランプ氏がロシアのウラジーミル・プーチン大統領との関係の改善に動けば、中露が参加しない『先進7ヵ国(G7)』の影響力は益々低下するだろう。 (聞き手/中国総局 五十嵐文)

■“特別な関係”悪化に懸念  トーマス・レインズ氏(『イギリス王立国際問題研究所』研究員)
トランプ氏は、イギリスの『ヨーロッパ連合(EU)』離脱に理解を示している為、イギリス国内にはアメリカとの経済関係強化を期待する声もある。しかし、トランプ氏は自由貿易協定に懐疑的であり、そう上手くいくとは限らない。「前国務長官のヒラリー・クリントン氏であれば、離脱交渉でイギリスに歩み寄るよう、EU側に圧力をかける」とみられていた。トランプ氏に、それは期待できないだろう。イギリスとアメリカの“特別な関係”は、半世紀以上に亘り、イギリスの外交政策の基盤となってきた。トランプ氏の大統領就任で変化する恐れがある。英米は、リベラルで民主的な価値観を共有する同盟国として、国際舞台で連携してきた。今後は、そのような連携が難しくなるかもしれない。ヨーロッパ諸国に、『北大西洋条約機構(NATO)』の経費について負担増を求めるトランプ氏の姿勢も懸念材料だ。イギリスはトランプ政権に対し、無条件にNATOへの責任を果たすよう働きかける必要がある。 (聞き手/欧州総局 角谷志保美)

■総じて“プラス”大きく  カンワル・シバル氏(元インド外務次官)
インド・日本・アメリカは、「アジア太平洋とインド洋の安全保障が密接に繋がっている」との共通認識を有してきた。しかしトランプ氏は、「アメリカが他国の防衛の為に背負い過ぎている重荷を減らしたい」と望んでいる。実際にアメリカが負担を減らせば、中国に更なる拡張の余地を与えることになり、インド洋周辺にも好ましくない結果を齎すことになるだろう。一方、「トランプ氏が大統領になれば、インドにとって総じてプラスの影響が大きい」と考えている。テロへの強硬姿勢を取るトランプ氏は、パキスタンの武装勢力によるテロという我々が抱える問題に、(オバマ政権の)現状よりずっと理解を示してくれるだろう。パキスタンにもっと圧力をかけられるかもしれない。経済面でも、アメリカが中国に圧力をかければ、中国の(拡大志向の)野望は抑えられることになり、我々にも好都合となる。トランプ氏は実業家としてインドに投資しており、経済パートナーとしてインドを重視し続けるのは間違いない。 (聞き手/ニューデリー支局 田尾茂樹)

■アメリカへ舵、急いだ思惑  リチャード・ヘイダリアン氏(デラサール大学准教授)
フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領は、心の底では「アメリカ軍のフィリピン関与が必要だ」と理解しており、「オバマ大統領は決してフィリピンから手を引かない」と踏んでいた。だが、トランプ氏は本気でフィリピンを捨てるかもしれない可能性がある。トランプ氏は、「日本や韓国等のアメリカ軍駐留(経費)で、何故アメリカが犠牲を払わなくてはいけないのか?」と疑問を投げかけている。(国力が大きい)日本への駐留を疑問視するなら、フィリピンのように、より(国力が)弱く、アメリカへの依存度が高い『東南アジア諸国連合(ASEAN)』の国々に、アメリカ軍が関与するのは割に合わないとなる。だから、ドゥテルテ氏はトランプ氏の当選を祝い、米比関係改善に向けて舵を切った。結果として、米比間の緊張は緩和されることになるだろう。オバマ氏よりトランプ氏のほうがやり難い相手だ。トランプ氏の(孤立主義的な)態度は、ASEANに「アメリカより中国のほうが頼りになるのでは?」との疑念を抱かせるだろう。 (聞き手/台北支局 向井ゆう子)


⦿読売新聞 2016年11月23日付掲載⦿

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