「仕事に集中させて」「お前はどっちの味方なんだ!」――電通事件のもう1つの見方、過労死の原因に間接部門?

20161206 07
JR東京駅から幹線道路を千葉方面へ下り、隅田川を渡って路地に入ると、何の変哲もない中層マンションが見えてくる。都会の真ん中にも関わらず、繁華街からは距離があり、夜になると都心とは思えない寂しさが漂う。先月下旬の平日の夜、その11階建ての集合住宅は、何事も無かったかのように街の雑踏に溶け込んでいた。国内最大の広告会社『電通』の新入社員だった高橋まつりさん(当時24)が、この場所で自ら命を絶ったのは、昨年12月25日のことだった。今年9月には、三田労働基準監督署が高橋さんの自殺を“過労死”と認定。以降、波紋は社会的広がりを見せ、先月7日には、厚生労働省が港区汐留にある電通本社ビルを労働基準法違反の疑いで強制捜査する事態に発展した(左画像)。この電通過労死自殺事件、今のところは「“1日2時間・週間10時間睡眠”が象徴する、常軌を逸した長時間労働とパワーハラスメントこそが高橋さんを追い詰めた」とされている。だが、今回の件については別の見方をする専門家が少なくない。「非定型業務が多い広告代理店とはいえ、入社約9ヵ月の新人が、純粋な業務だけで一睡もできない状況に陥るのか。ここまで残業が膨らんだのは、本業と関係ない雑務が相当あったからでは?」。こう指摘するのは、労働問題の第一人者である千葉商科大学国際教養学部専任講師の常見陽平氏だ。常見氏がそう考えるのは、現在起きている過労死事件の少なからぬ比率を、“本業以外の任務に誘発されたケース”が占めているからに他ならない。常見氏の見方に同意する法律事務所『アルシエン』の竹花元弁護士が、過去の判例を並べる。「2002年、大手製造業の工場で30歳の社員が脳血管疾患を発症した件では、“各種の懇親会や親睦と慰安の為の行事”等が要因。同年、大手通信会社で58歳の社員が虚血性心疾患で死亡したのは、泊まりがけの研修中…。判例が比較的古いのは、この10年で“サブ的業務による過労死”を労基署が労災認定し始め、法廷で争う必要が無くなった為で、近年も同様の事件は増加傾向にあると考えられる」(竹花氏)。

では何故、余計な雑務が増え続けるのか? 直接部門の社員の多くは、こう口を揃える。「責任の一端は間接部門にある」──。大手コンサルティング会社『アビームコンサルティング』(東京都千代田区・岩澤俊典社長)の執行役員経営改革セクター長である安部慶喜氏が、直接部門の社員の気持ちを代弁する。「彼らの多くは『間接部門の要請によるサブ的業務が、労働時間の増加に繋がっている』と感じており、『総務や人事が、自分たちの存在意義を示す為に、優先順位の低い仕事を作り出し、本来なら見直すべき旧態依然としたルールを頑なに続けているのではないか?』との疑念を抱いている」(安部氏)。もう少し、直接部門の言い分に耳を傾けてみよう。「『一体感を高めたい』という意図はわかるが、もっと他にやり方がある筈だ」。都内に本社を置く中堅製造業の営業部門に勤めるA氏(36)が、数ある間接部門発の雑務の中で最も疑問を感じるのは、創業以来続く年1回の運動会と年2回の社員総会である。とりわけ運動会は、近年、怪我防止の為に、競技中心からマスゲーム等の“お遊戯会”色が強まって以来、ダンス等に3ヵ月近い練習期間が必要になった。参加は事実上強制で、終了後は数日以内に「イベントを通じ、自分がどれだけ成長したか」を記す感想文と、満足度調査のアンケートを提出せねばならない。「『運動会の準備で過労死する』とまでは言わない。でも、電通の女性も忘年会の準備に追われていたというし、小さな雑務の積み重ねが現場の少なからぬ負担になるのは事実。『準備期間や感想文提出に費やす時間を営業に使えれば、もっと成果を上げられるのに…』と思うと、悔しい気持ちにもなる。『総務に意見すべきだ』と上司に訴えても、中々動いてくれない」(A氏)。大手物流業の東北支社の販売部に籍を置くB氏(34)が不可解に思う間接発のサブ的業務は、Eラーニングだ。『矢野経済研究所』によれば、企業向けEラーニング市場規模は現在、約587億円。企画する人事と、受講する社員双方の負担を減らす仕組みとして2000年代以降、堅調に普及しているが、B氏は「楽なのは人事だけでは?」と首を傾げる。「業務時間内に設定された座学研修と異なり、Eラーニングは仕事の合間を縫って自習するシステム。だが、少なくともうちの会社では、業績不振もあって、真剣な社員ほど業務時間内に暇な時間など作れない。となると、Eラーニングは本業を片付けた後、残業して取り組まざるを得ない」(B氏)。座学研修に比べると準備が簡単な為か、人事は“安全運転活動”・“ISMS”とEラーニングのバリエーションを増やしてくる。「社員教育の必要性は十分認識している。それでも現場の実情を顧みない仕組みが、直接部門への十分な説明も無いまま間接主導で導入されていく状況は、怖いと思う」。B氏はこう話す。

20161206 08
直接部門の中には、「間接部門のせいで残業が増えるばかりか、作業効率まで悪化している」と感じている社員も少なくない。精密機器メーカーに勤務するC氏(29)は、総務肝煎りのコスト削減策が億劫で仕方がない。昼休みになるや否や、管理部門の社員の指示で、オフィスの中が問答無用で消灯されてしまうのだ。「一時的な消灯でコストが幾ら浮くのか知らないが、現場の社員は今、昼休みだからといって外でのんびり休んでいる暇など無い。机で弁当を食べながら業務を続行する社員も多く、暗くなれば当然、手元の書類や機器が見難くなり、効率は落ちる」(C氏)。そんな現実を理解していながら、機械的に消灯を指示する間接部門の社員たちを見ていると、「『お前はどっちの味方なんだ!』と言いたくなる」(C氏)。C氏を始めとする直接部門の気持ちを更に逆撫でしているのが、止まることを知らない総務発の大量連絡CCメールだ。「インフルエンザに注意して下さい」「パソコンの電源は小まめに消しましょう」──。「必要な連絡もあるが、緊急性の低い上意下達も多い。消灯の件もあって、直接部門では『経営層にアピールする為のスタンドプレーだ』という見方が専ら」(C氏)だ。更に、間接部門主導で進められる“実情に合わないシステムの導入”も、直接部門には評判が悪い。「システム部は事前に相談してほしかった」。都内の大手証券会社の営業部で働くD氏(42)はこう話す。不満の対象は、今年4月に導入された最新の交通費精算システムだ。出発駅と到着駅を入力すると、運賃が自動計算され、経理に情報が送られる仕組み。一見、経費精算の負荷が軽くなりそうだが、強制的に最安値の運賃で計算されてしまう。「会社が特定されるから言い難いが、例えば、地下鉄で都営から都営に乗り換えたほうが運賃は安いけど、時間的には都営から東京メトロを選択したほうが早い経路は彼方此方にある。営業部隊は時間を節約したいから後者を選ぶが、会社は前者の運賃しか払わない」(D氏)。

不服がある場合はその都度、“変更理由”を記入した申請書を提出し、審査の上、認められれば差額は補填される。が、実際にそこまでする時間は無いし、100円・200円の為に態々申請を繰り返す社員もいない。「システム部にしてみれば実績になるし、経理部にとってもコスト削減という成果に繋がる。間接部門同士が手を組んで“絵図を描いた”としか思えないですよ」(D氏)。同じ経費問題で言えば、こんな話も聞こえてきた。社員数凡そ300人。都内の中堅情報サービス会社に勤めるシステムエンジニアのE氏(42)は最近、経費の申請に膨大な時間を費やしている。2年前、税務調査が入ったことを機に、「会議費を申請する場合は社内会議並みの議事録を提出する」というルールができたからだ。議事録のフォーマットまで作られ、会議中に誰がどのような発言をどのようにしたのかを事細かく書き込む必要がある。申請書の最後には、“費用対効果”を申請する欄まであるという。「経理部にしてみれば『次に税務調査に入られても明確な証拠となる』という発想だろうが、2時間の打ち合わせを兼ねた食事でも、議事録作成にかかる時間は1時間近く必要。只でさえ仕事に追われているのに、経理部長は『議事録を早く出せ』と怒る。議事録作りで顧客の納期に遅れたら元も子もないのに」(E氏)。最早、笑うしかない状況のようだ。直接部門から湧き上がる様々な不満。尤も、その影響が直接部門の意欲低下“ぐらい”で済んでいる間は、未だマシかもしれない。企業によっては、間接部門が、経営速度や利益率の向上を阻む決定的なボトルネックになっている事例もあるからだ。「間接のせいで危うく得意先を失うところだった」。某財閥系大手部品メーカーでF国を担当する支社長(55)は、こう不満を漏らす。事の発端は今年4月、現地最大の得意先が新製品の試作品向け部品を求めてきた時のこと。得意先は、この新製品開発の最終局面で手間取っており、大至急との要請だった。が、先方の求める部品を作るには生産設備の更新が必要で、カネがかかる。投資額は支社長が決裁できる範囲内だったが、同社には「億単位の投資をする際は、代表権のある役員への口頭での説明が必要」との慣例があった。こうして、急遽帰国した支社長。そこに立ちはだかったのが、「代表権を持つ役員への面会は、管理部門担当役員が仕切る」という伝統的ルールだ。支社長が本社で面会の理由を説明すると、管理部門担当役員はプレゼンテーション内容を修正すると共に、関連資料を10ページから20ページに増量するよう指示を出した。更に、直ぐにでも許可を得たい状況にも関わらず、数日後、出直すように指示。「そのほうが、重要な会議の終わった後でトップの機嫌がよいから」という理由だ。「後で社長らに確認したところ、最初に伺った日も皆、終日に亘って各役員室にいたし、特に機嫌が悪くもなかった。こんなことをしているから、『日本企業は世界で勝てない』と言われてしまう」。支社長は、こう溜め息を漏らす。

20161206 09
大手電機メーカーでG国を担当する支社長(58)は、本国のシステム部門から明らかに不要不急なシステム更新を促され、その負担に苦しんだ経験を持つ。「丁度、現地の市場環境が良好で、グループ内の支社別売上高ランキングが前年の圏外から急上昇した時期。『システム部門として、最近話題のG国支社もこんなにグリップしてます』ということを社内でアピールしたかったのでしょう」(支社長)。「全社セキュリティー委員会で決まったことだから」と有無を言わせぬシステム更新の結果、年間のシステム経費が前年比で数十倍に跳ね上がった。その結果、宣伝等拡販戦略に影響が及び、翌年のグローバル順位は大きく後退してしまったという。「間接部門にも親しくしている友人はいるし、1人ひとりの人柄は決して悪くないこともわかっている。でも、組織として彼らと付き合うほど、つい思ってしまうよね。『おのれ間接部門…』って」(同)。間接部門問題は今に始まった話ではなく、多くの日本企業がそのコントロールに頭を悩ませてきた。但し、嘗ての間接部門によるマイナスの影響は、飽く迄も人件費増加や低い生産性によるコストアップに止まっており、「現在のように、直接部門から見て“内なる敵”とでも言わざるを得ない存在に変わり始めたのは、最近の現象」(『アビームコンサルティング』の安部氏)だ。この、間接部門が“モンスター”化した原因についても、直接部門の社員の見解は、「バブル期以降に蔓延した成果主義の副作用」でほぼ一致している。成果主義は、前年と同レベルの仕事を続けていては認められず、間接部門には不利な制度と言える。「存在意義を守る為には、新しい仕事を作り、今ある仕組みは旧態依然なものでも守り抜こう」と考える人がいても当然だ。今後、企業経営へのAI(人工知能)の導入が加速し、間接機能の代替化が進めば、そんな傾向が更に強まってもおかしくない。 (取材・文/本誌特別取材班)


キャプチャ  2016年12月5日号掲載

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