【衝撃トランポノミクス】(下) 規制緩和、FRB懸念

20161208 03
「新たに規制を1つ作る毎に、古い規制を2つ削除するルールを定める」――。次期大統領に就任するドナルド・トランプ氏は今月21日、国民に向けたビデオ声明で、規制緩和を進める方針を強調した。実業家であるトランプ氏は、「厳しい規制が経済活動の足枷になる」と考える。規制緩和は、アメリカ上下両院の過半数を占め、“小さな政府”を目指す共和党の党是でもある。標的の1つが、銀行の業務を制限し、健全な経営を義務付ける『金融監督・規制改革法(ドッド・フランク法)』だ。トランプ氏は、「行き過ぎた金融規制で銀行が融資を躊躇い、経済成長が抑えられている」と批判してきた。トランプ氏の政権移行チームはウェブサイトで、同法を廃止する方針を掲げる。2010年の成立後、景気回復が極めて弱いことを挙げ、「労働者の為に機能していない」と一刀両断にする。トランプ氏に真っ向から反論するのが、アメリカの中央銀行で金融機関を監督する『連邦準備制度理事会(FRB)』のジャネット・ルイーズ・イエレン議長だ。同17日の議会。議会証言の為に出席したイエレン氏は、「金融規制の時計の針が巻き戻されるのは見たくない」と話した。ドッド・フランク法は、2008年のリーマンショックの反省に立ってバラク・オバマ政権が主導したもので、金融機関の監督を強化し、リスクが高い金融商品の取引を制限することが柱だ。

規制が緩かった時代、上手くいけば儲けも大きいが、巨額の損失を被るリスクを孕む『デリバティブ(金融派生商品)』等に大手金融機関が巨費を投じた。「(政府は大手を)大きくて潰せない」との甘えもあった。損失が相次いで表面化し、“100年に1度”とも言われる金融危機を招いた。法案の策定に関わったミシガン大学のマイケル・バー教授は、「金融システムを安全にし、金融機関の健全性は飛躍的に高まった。トランプ流に変更されれば極めて危険だ」と話す。トランプ氏は、FRBの金融政策にも矛先を向ける。選挙中、「オバマ政権に配慮して、低金利を維持している」と批判。イエレン議長を、4年の任期満了となる2018年に交代させる可能性も示唆した。FRBは独立した機関で、金融政策の決定に政府の介入は受けない。しかし大統領は、金融政策を決める投票権を持つ議長と理事を指名できる。任期満了で別の人と差し替えることは可能だ。1980年代、ロナルド・レーガン大統領は、当時のポール・アドルフ・ボルカー・ジュニア議長の高金利政策を封じ込めようと、次々と金融緩和派の理事を送り込んだ。アメリカの金融政策に詳しい『東短リサーチ』の加藤出氏は、「トランプ氏の大統領就任で、FRBの独立性が危うくなる可能性がある」と話す。FRBが景気の動向ではなく、政権の意向に配慮して金融政策を実施すれば、将来の景気の過熱や悪化を防げない事態も起こり得る。トランプ氏の“金融”に対する姿勢と並んで、市場での話題は通貨政策だ。外国為替市場では、トランプ氏の大統領選勝利後、経済政策への期待等から、円を含む各国の通貨を売ってドルを買う“ドル独歩高”となっている。アメリカにとってドルが高いと、アメリカ製品の輸出を伸ばし難く、逆に割安になる外国製品の輸入が増え易い。アメリカ国内の産業と雇用を守ることを最優先するトランプ氏が、ドル高を容認するのか否か――。トランプ氏の一挙手一投足に、世界の関心は尽きない。

               ◇

一言剛之・栗原健・滝沢孝祐/ニューヨーク支局 有光裕・アメリカ総局 山本貴徳・中国総局 鎌田秀男が担当しました。

20161208 04
■危険な“アメリカ第一主義”  ジョセフ・ナイ氏(ハーバード大学教授)
今年のアメリカ大統領選で激しい舌戦が繰り広げられた結果、アメリカは傷付き、“(文化・政治的な価値観が持つ)ソフトパワー”は大きく損なわれてしまった。この傷がどこまで深くなるのかは、次期大統領に決まったドナルド・トランプ氏が、選挙期間中に見せた激しい言動をいつまで続けるのかにもよるだろう。大統領就任後、物言いが穏やかになるのか。それを見極めるのは未だ早い。短期的に見れば、アメリカの国力低下はある程度は仕方がないかもしれない。しかし、長い目で見れば、アメリカの国力がこのまま低下するとは考え難い。近年、色々な場面で“アメリカの衰退”が盛んに言われているが、それは間違った主張だ。アメリカが持つ技術力や、大学等教育機関の質等を見ればいい。その水準は世界の中で依然として高く、“アメリカの世紀”は未だ終わってはいない。では、新大統領は世界にどのような影響を与えるのか。外交政策については、選挙後のトランプ氏の発言から基本姿勢を垣間見ることはできるものの、アメリカがどこへ向かうのかを予想するのは時期尚早だ。

例えば、トランプ氏はロシアとの関係改善を主張しているが、それが何を意味しているのかは未だよくわからない。それに、アメリカにとって現在のロシアは、深い関係を築く相手としては問題が多過ぎるだろう。トランプ氏の外交政策で大きな疑問符が付くのは、中東政策だ。彼は過激派組織『IS(イスラミックステート)』を壊滅させることを明言しているが、対ISでオバマ政権が既に行っている以上のことをするのは難しいだろう。シリアのバッシャール・アル=アサド政権に対する姿勢も、従来の方針を変更することはできないかもしれない。トランプ氏は、米欧諸国とイランとの核合意を「酷い内容だ」等と批判している。しかし、これを変えようにも、多国間で決めたことなので、今更手を加えることは難しい。兎に角、彼の中東政策については、「現段階では全てが不透明だ」と言える。その一方で、確実に大きな変化が起きるのは通商政策だ。“アメリカ第一主義”を掲げるこれまでのトランプ氏の発言を見れば、『環太平洋経済連携協定(TPP)』は最早死んだも同然だ。『北米自由貿易協定(NAFTA)』についても、どこまで協定の中身を変えようとしているのかは不明で、トランプ氏が主張するほど容易いことではないものの、何れも劇的な変化になることは間違いない。ただ、“アメリカ第一主義”を掲げてナショナリズムを強調することは、結果として他の国々を疎外することに繋がりかねず、危険ですらある。それは、中国を例にみればわかる。彼らは国内で支持を得る為に、政策でナショナリズムを前面に押し出し、結果として東アジアの他の国々の不安を高めてしまっている。このまま、トランプ氏が“アメリカ第一主義”を掲げてナショナリズムを煽れば、アメリカのソフトパワーは傷付く一方だ。 (聞き手/ニューヨーク支局長 吉池亮)


⦿読売新聞 2016年11月24日付掲載⦿

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