【内向く世界】(02) 保護主義の誘惑…企業と社会、共生探る

20161208 06
「北米自由貿易協定(NAFTA)が壊れる」――。アメリカの政治コンサルタントである『スコウクロフトグループ』のトム・ギャラガー氏は、アメリカ大統領選の開票結果を見て恐れた。ドナルド・トランプ氏が予想を覆して善戦し、次期大統領に導いた地域に根拠はある。“ラストベルト(錆びた工業地帯)”。自動車の街として知られるデトロイトを擁するミシガン州等、オールドエコノミーを象徴する中西部だ。この地域は、2つの不満を蓄積していた。1つは、「NAFTAで低賃金のメキシコに雇用を奪われた」という不満だ。もう1つが、世界的なハイテク企業が集まる西海岸との格差だ。サンフランシスコの世帯当たりの所得は昨年で9万2000ドルと、10年間で60%も増えたが、デトロイトは2万6000ドルと逆に7%減った。『Google』等の西海岸企業は、税率が低い海外に利益を移す問題も取り沙汰される。グローバル化の波に乗る西海岸を横目に、不満を強めた中西部の人々は、“NAFTA見直し”という反グローバル化を象徴するトランプ氏の公約に懸けた。

トランプ氏は、『環太平洋経済連携協定(TPP)』からの離脱を表明した。発効から23年近く経ち、経済に組み込まれたNAFTAまで見直せば、内向きはより鮮明になる。冷戦後のグローバル化は、新興国が世界経済を支える時代の立役者だった。先進国企業は安い賃金を求めて中国でものを作り、世界に売った。アジアでは、中国向けの中間製品の産業が育った。こうした成長の連鎖が危機にある。トランプ氏は、中国への高い関税や為替操作国への指定を表明してきた。選挙後、新興国株が低迷を続けているのは、企業収益の前提が崩れるシナリオを投資家が恐れているからだ。景気の長引く低迷で、人々の不満は世界に蔓延し、保護主義の機運を静かに高めてきた。世界の貿易の伸びは今年、経済成長率を下回り、成長の牽引役でなくなる。今、露呈しているのは、社会の不満を軽視して成長を追った資本主義の限界に違いない。救いは、社会との共存への模索が始まっていることだ。「試練に直面して、不満を抱いている人々の声を聞くべきだ」。アメリカの大手銀行『JPモルガンチェース』のジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)は選挙後、世界中の社員に訴えた。同社はデトロイトで不動産開発を指南する等、地域の再生を助けてきた。2008年のリーマンショックでウォール街批判の矢面に立ったダイモン氏は、社会を敵に回す経営の脆さに気付いている。アメリカの非営利組織が2007年以降、社会に貢献して成長する企業を、“ベネフィット(恩恵)”等を表す“B企業”と呼んで認証している。環境保護を社訓とする『パタゴニア』等、2000社近くを認証した。だが、その半分はヨーロッパ、アジア、アフリカ等、アメリカ以外の企業だ。社会に寄り添う企業は、不満の対象にはならない。新しい資本主義の芽は、反グローバルの嵐を突いて国境を越えている。 (編集委員 梶原誠)


⦿日本経済新聞 2016年11月26日付掲載⦿
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