【迷走する所得税改革】(02) パート減税、妥協の産物

20161208 07
「税の話は、『なるほど、そういうことか』と納得してもらえないとダメ」――。先月初旬、政権幹部は、“夫婦控除”の先送りが固まったことを受けて漏らした。代替案として政府・与党内で検討が進むのが、パート主婦への減税枠拡大案。配偶者控除が無くなる“年収103万円の壁”を超えて、女性に働いてもらう狙いだ。政権内には「配偶者控除の廃止案に比べると、専業主婦や増税世帯の反発が少ない」との読みもあり、財務省は首相官邸から代替案を検討するよう指示を受けた。今年初め、財務省では、共働き世帯にも控除を適用する新制度を作ると共に、中低所得者により減税の恩恵が大きい税額控除も合わせて導入する“抜本改革案”を軸に検討が進んだ。頓挫した背景の1つに、“税の理念”を重視した反対論が与党、更に財務省内にも台頭してきたことがある。収入が少ない高齢者や子供を養う世帯主には、所得控除額が38万円の扶養控除が存在する。年収103万円以下の専業主婦世帯に適用される配偶者控除と同じ控除額だ。「収入の少ない専業主婦の配偶者控除を廃止する一方で、扶養控除を残すのは、公平性の観点から受け入れ難い」。税法学者には、こうした考えが根強く、廃止を唱える経済学者との意見対立は、古くて新しいテーマだ。

女性の就労を促す働き方改革に“ゼロ回答”の選択肢は無く、さりとて配偶者控除には簡単に手を付けられない。こんな隘路を通せそうな妥協案が、パート主婦への減税枠の拡大という訳だ。配偶者控除を巡る歴史的対立は根が深い。「廃止しないと不公平だ」。夫との共働きで、東京都内の大企業に勤める女性は漏らす。一方で、専業主婦からすれば「子供や高齢者と同様に控除があるのは当然」に思える。1987年、専業主婦の“内助の功”を重んじる狙いで、配偶者控除に上乗せをする措置ができた。1995年には、専業主婦には最大76万円の控除があった。「あまりに不平等」と2004年に上乗せは廃止されたが、「専業主婦を優遇し過ぎ」との意識が、フルタイムで働く女性の間には強く残る。約720万の専業主婦世帯を敵に回しかねないだけに、菅義偉官房長官も配偶者控除見直しには慎重。公明党への配慮も滲む。「“新税は悪税”とも言われる。議論の争点に出ただけで進歩」。政権幹部には幕引きムードさえ漂う。「与党の税制調査会に任せて、議論を止めたらいいじゃないか」。9月末の政府の税制調査会。委員を務める『A・T・カーニー』日本法人会長の梅沢高明氏の発言に、財務省会議室は静まり返った。配偶者控除改革の“廃止”も含めて検討してきた政府税調内には、政治の意向で議論がいきなりトーンダウンし、改革の“青写真”を描けない虚脱感も広がる。働き方に中立的な税制に移行するには、所得税の抜本改革は避けて通れない。誰でも受けられる基礎控除の拡充や、会社員だけに適用する給与所得控除や、年金受給者への公的年金等控除の縮小等、重い課題は山積している。配偶者控除の小手先直しで凌ごうとすれば、日本の所得税は更に社会や雇用の実態から乖離していく。


⦿日本経済新聞 2016年11月9日付掲載⦿
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