【「佳く生きる」為の処方箋】(30) 大学病院に長居は無用

「患者さんとの付き合いは短ければ短いほどいい」――。極端な言い方かもしれませんが、外科医としてはこれが本音です。完璧な手術をして患者さんが元気になれば、もう外科医の出番はありません。まさに、一期一会こそが理想的。そのくらい納得のいく手術をしておけば、その後の診療は自分が担当しなくとも、安心して他の医師に委ねられます。若い頃は、手術の腕が足りない分を外来診療等のケアで補っていましたが、50歳を過ぎた頃からでしょうか。「手術一本で勝負する」という気持ちに変わりました。自分自身へのプレッシャーは更に強くなりますが、「それが外科医の本道だ」と考えたのです。勿論、そうはいっても、現実には外来診療もやっています。手術をして退院していった患者さんの場合は状態が安定していますから、「普段は自宅近くのかかりつけ医に診てもらい、半年から1年に1回、私が診察する」という形が典型的です。そうやって、長年に亘ってお付き合いしている患者さんが大勢います。福島県の医療法人で理事長をしている、ある患者さんもその1人。12年前に冠動脈バイパス術を受け、その後は半年に1度上京して診察を受けています。ずっと良い状態を維持していますから、地元の医療機関だけでも十分なくらいですが、「先生に会うと元気になります」と通院を続けておられる。毎回、心電図やレントゲン等の簡単な検査をし、安心して福島に帰って行かれます。扨て、前回は「大学病院で受診する際は“急がば回れ”で、先ずは地域の診療所等で受診し、そこから大学病院に紹介してもらうのが得策だ」とお話ししました。これは、大学病院での治療を一先ず終えた後も同様です。

患者さんは地域のかかりつけ医のところに戻り、そこで定期的に診察や薬の処方をしてもらうことになります。心臓手術の場合は術後、元の体調に戻るまでに2ヵ月ほどかかりますから、この間に大学病院の医師は地域の医師と連絡を取り合い、バトンタッチしていくのです。そして再度、「大学病院での治療が必要」と判断されたら、かかりつけ医から大学病院に紹介される。或いは、前述の患者さんのように半年に1回程度、大学病院に通い続ける。地域の医療機関と大学病院との2段構えで、患者さんを診ていく訳です。これは、高度な専門医療は大学病院で、風邪等の日常的な医療は地域の診療所や中小病院で…という役割分担なのですが、今年4月の診療報酬改定により、この分担が更に強化されることになりました。例えば、これまで薬は大学病院でも60日分を処方していましたが、原則として30日処方になります。長期処方が可能なほど安定している患者さんなら、地域の医療機関で診てもらうほうが患者さんの利便性に適うからです。それに、長期処方は飲み間違いや飲み残しにも繋がりますから、その防止にもなります。また、入院期間をできるだけ短くしたり、“逆紹介”といって、大学病院での治療が終わった患者さんを地域の診療所や中小病院に紹介したりすることも、これまで以上に積極的に行われるようになっています。要は、「大学病院は長居をするところではない」ということ。「病状が安定した患者さんは、大学病院ならではの高度な医療を必要としている次の患者さんたちに、“診療機会”というバトンを渡してほしい」ということなのです。完璧な手術をして、患者さんに早く元気になってもらい、最短ルートで卒業して頂く。これは、外科医としての腕の見せ所であり、同時に、大学病院とのベストな付き合い方でもあるのです。


天野篤(あまの・あつし) 心臓外科医・『順天堂医院』院長。1955年、埼玉県生まれ。日本大学医学部卒。『亀田総合病院』『新東京病院』等を経て、2002年に順天堂大学医学部心臓血管外科教授に就任。2012年2月18日に天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀。2016年4月より現職。著書に『一途一心、命をつなぐ』(飛鳥新社)・『この道を生きる、心臓外科ひとすじ』(NHK出版新書)等。


キャプチャ  2016年12月8日号掲載
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