【変見自在】 クリントンの罪

20年前になる。「三菱自動車工業イリノイ工場で、女性従業員が集団セクハラされていた」とアメリカ政府が告発した。告発の発表は、ワシントンD.C.、ニューヨーク、シカゴの3ヵ所で行われた。オスカーのノミネート発表だってニューヨークとロスだけなのに。アメリカ政府の意気込みは天を衝いていた。D.C.での記者会見には、もろ日本人ヅラのポール・イガサキが立った。日本は女性蔑視社会。それをアメリカに持ち込み、男の従業員に女たちを弄ばせた。「乳房を揉み、股間を弄らせた」「是正勧告も無視し、抗議する女は解雇した」。よって、「アメリカ政府は三菱に集団訴訟を起こす」とポールは昂然と言った。アメリカのど真ん中で、日本企業がアメリカ人女性を性奴隷にしていた――。衝撃がアメリカ社会を貫く。米紙が先ず興奮した。「日本女の仕事はお茶汲みだけ」と『ニューヨークタイムズ』がやる。『ワシントンポスト』も『タイム』も倣って、「日本での男性従業員の研修はナマ板ショーだった」とか書き立てた。テレビが騒ぎ、連邦議会も便乗し、パトリシア・シュローダー議員ら女性議員が集まって、三菱の不買を叫んだ。今や公然と日本人への人種蔑視発言が飛び交う中、黒人のジェシー・ジャクソン師も出て、吃驚したことに日本を酷く詰った。猫も杓子も日本批判。今度のアメリカ大統領選で、アメリカ社会が演じたトランプ批判と実によく似ていた。今、思い起こしてみると、あの頃のアメリカ社会にあった閉塞感も、今回と似ていたように思う。その前年にはO・J・シンプソン裁判があった。O・Jが、離婚した白人の前妻であるニコルと彼女の男友だちを刺殺した。現場に彼の手袋があり、彼の自宅庭にもう一方の血塗れの手袋があった。彼は真っ黒だったが、判決は無罪。黒人の社会環境に思いを致すポリティカルコレクトネスが、幅を利かせ過ぎていた。

「言いたいことも我慢しろ」「白人はいつも寛恕で生きろ」「黒人が白人2人を殺しても許そうじゃないか」――。ただ、その割にあの頃の給料は、一向に白人らしくなくなった。黒人との差が殆ど無くなった。でも、大学入学も就職口も80%を占める白人は60%くらいに抑えられ、残りは黒人やヒスパニック等マイノリティー優先枠だった。所謂“アファーマティブアクション”があった。「そんなのは止めちまえ」という声が出始めたのもこの頃だった。実際、「就職難は酷かった」と、セクハラ騒動の矢面にいた三菱自工の大井上会長が言っていた。「ライン工を募集したら、応募者のかなりが学卒だった。大学教授の肩書の人までいた」。まさか、ラインに教授を立たせる訳にもいかない。それなりのポストで対応して感謝された。経済史の学者であるマーク・レビンソンは、「先の戦争前まで低迷していたアメリカ経済は戦後、急速に回復し、1973年まで記録的な高度成長を続けた」と言う。「もう日米戦争しかない」と言ったフランクリン・ルーズベルトの予測は正しかった。しかし、上り詰めれば後は下る。1990年代半ばは下り出して20年目。給料は下がる。おまけに、ポリコレで言いたいことも言えない。そういう閉塞感を、ビル・クリントンは敏感に察していた。自身は中国マネーで豊かだし、モニカ・ルインスキーもいた。しかし、彼は市民にも少し目を配っていた。で、捌け口に三菱自工を選んだ。日本は虐めても問題ないが、人種差別にならないよう、日本人ヅラを告発者に据える配慮は、差別語を連発してもあった。“日本人の内部告発”にしかならない。日本人ヅラのポールは、日本人と日系人の名誉を守る『日系アメリカ人市民同盟(JACL)』の代表だった。彼は、地位と引き換えに祖国を売った。斯くて、O・J・シンプソンの時に言いたいことも言えなかったアメリカ市民は、心の丈を日本人にぶっつけた。少し溜飲は下がったが、給料もその後20年間下がり続けた。それを放置したクリントンは、結果的に妻の花道を閉ざした。


高山正之(たかやま・まさゆき) ジャーナリスト・コラムニスト・元産経新聞記者・元帝京大学教授。1942年、東京都生まれ。東京都立大学法経学部法学科卒業後、産経新聞社に入社。警視庁クラブ・羽田クラブ詰・夕刊フジ記者を経て、産経新聞社会部次長(デスク)。1985~1987年までテヘラン支局長。1992~1996年までロサンゼルス支局長。産経新聞社を定年退職後、2001~2007年3月まで帝京大学教授を務める。『高山正之が米国・支那・韓国・朝日を斬る 日本人をますます元気にする本』(テーミス)・『アジアの解放、本当は日本軍のお陰だった!』(ワック)等著書多数。


キャプチャ  2016年12月8日号掲載
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