【中外時評】 空文化する“一国二制度”――揺らぐ香港の立法と司法

香港高等法院(高裁)は先月15日、今年9月の立法会(議会)選挙で初当選した“本土派”の若手議員2人について、「議員資格を取り消す」との判決を下した。2人は上訴しており、事態は尚も確定していないが、「中国大陸と香港に異なるルールを適用する」という“一国二制度”の空文化が鮮明になってきたと言える。議員資格を失ったのは、『青年新政』という政党から立候補して当選した游蕙禎氏(25)と梁頌恒氏(30)。同党は、中国からの自立を訴える青年たちが集まって、昨年に設立した。香港を自分たちの“本土”と見做し、中国大陸を支配する共産党政権の影響力を嫌う、所謂“本土派”の代表的な政党だ。10月12日に立法会で就任の宣誓をした際、両氏は中国の蔑称とされる“支那”に聞こえる言葉を口にしたり、「香港は中国の一部ではない」という英語の横断幕を掲げたりした。これが「規定に沿っていなかった」として、立法会は宣誓を無効とした。宣誓が無効だと、議員資格は失われる。そこで、両氏は改めて「宣誓したい」と求め、立法会の議長も再宣誓を認める方針だった。議会の権威が高ければ、議会内部の問題として議会自ら処理して一件落着…となるところだろう。ところが、香港では異なる展開を辿った。「(両氏は)香港の憲法に当たる香港基本法第104条に違反したので、議員資格が無い」。そう主張して裁判所に提訴したのは、他でもない香港政府だった。軈て、遥か北京から中国共産党政権まで口を挟んだ。国会に当たる『全国人民代表大会(全人代)』の常務委員会が、「游・梁両氏は既に議員資格を失っているとする第104条の“解釈”を採択した」と発表したのである。自由主義が根付いた国々では、議会からも政府からも独立した裁判所が法律を解釈する最終的な権限を持つ。“司法の独立”という考え方の柱となる原則だ。対して中国共産党政権は、そういった“司法の独立”を認めていない。その為、「法律を解釈する最終的な権限については、立法機関である全人代、或いは全人代常務委が持っている」と法律そのものに明記する場合が少なくない。

香港基本法にもそうした規定があり、今回も全人代常務委は「その規定に基づいて解釈を明らかにした」と主張している。香港政府の訴えを審理していた香港高等法院は、謂わば頭越しに解釈を示された訳で、面子は丸潰れになった。結果として、全人代常務委の“解釈”を裏書きした判決の中で「(全人代の)解釈があろうと無かろうと結論は変わらない」と表明したのも、空しく響く。「これで“一国二制度”と言えるのか?」――。反発の声が香港で上がったのは当然だろう。1997年に香港がイギリスから“返還”された際、「50年後まで香港の基本的な仕組みを変えず、大陸と異なるルールを維持する」と中国共産党政権は約束した。“司法の独立”は、そうした香港ならではの仕組みの柱の1つと見做されてきた。だが、返還から軈て20周年という時期に、中国共産党政権は骨抜きにする姿勢を明確にしたと言えよう。「初めから“一国二制度”には無理がある」。そんな冷めた声が出ているのは台湾だ。“一国二制度”は元々、台湾との統一を進める為の足場として中国共産党政権が打ち出し、後に香港やマカオにも適用したアイデアだ。中国共産党政権にとって、香港で“一国二制度”を上手く機能させることは、台湾との統一を進める為にも必要だった。今回、中国共産党政権は、香港の立法機関の権威も司法の独立も蔑ろにした。台湾統一に不利なことを敢えてしたのである。それほどに強烈な危機感を、香港に対して抱いたと言える。その一端は、全人代常務委が“解釈”を採択した後に記者会見した、全人代常務委副秘書長兼基本法委員会・李飛主任の発言に窺えた。「立法会というプラットフォームを利用して、香港独立活動を推進した」。こう述べて游・梁両氏を厳しく批判しただけでなく、75年前に香港を占領した旧日本軍に擬えて、「ファシストだ」と決め付けたのである。傍目には支離滅裂の議論だが、恐らく李主任の頭の中では筋が通っているのだろう。こんな風に引き合いに出される旧日本軍こそいい面の皮だが、中国共産党政権の幹部たちの考え方が伝わってきて興味深い。嘗て、李主任が日本に留学していた経歴を踏まえると、些か情けなくもあるのだが。 (論説副委員長 飯野克彦)


⦿日本経済新聞 2016年12月11日付掲載⦿
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