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【Global Economy】(15) イタリアの銀行を蝕む政治家…不良債権放置、根深い悪弊

イタリアで、銀行の経営不安が再燃している。国民投票を受けてマッテオ・レンツィ首相が辞任し、政策運営が混迷している為だ。ポピュリズム(大衆迎合主義)の広がりは、実体経済に悪影響を及ぼし始めている。 (本紙経済部デスク 中沢謙介)

20161212 08
「昨日と今日で、イタリアは経済も銀行も、何ら状況は変わっていない」(『ユーロ圏財務大臣会合』のユルン・デイセルブルーム議長)――。国民投票から一夜明けた今月5日。定例会合でブリュッセルに集まった『ヨーロッパ連合(EU)』の財務大臣は、「レンツィ氏辞任がイタリアの銀行危機に繋がる」との観測に対する“火消し”に追われた。この日、イタリアの銀行株は、最大手の『ウニクレディト』が3%超、3位の『モンテデイパスキディシエナ』が4%超下落する等、大きく値下がりした。イタリアの銀行が抱える不良債権は約3600億ユーロ(約43兆円)で、ユーロ圏全体の約3割を占める。イタリアの銀行の融資全体に占める比率も18%に達する。銀行の貸し出しに占める不良債権の割合が高いと、更なる不良債権の拡大を恐れて融資をし難くなり、景気の悪化に繋がる。ただ、不良債権の増加は2008年のリーマンシ ョック以降続いており、今に始まった問題ではない。背景には、イタリア社会に古くから根差す問題がある。それは、政治と銀行の靠れ合いだ。モンテパスキが本店を置くイタリア中部のシエナ。教師のアルベルタ・カンビさん(54)は、10年前に同行の株を初めて手にした日を振り返った。「モンテパスキのことを、誰もが“ビッグダディー”と呼んでいた。皆が就職を夢見る場所で、祖父も両親もそこで働いた。株を買った時は、銀行の一部になった気がして誇らしかった」。モンテパスキの従業員によると、親が同行で働いていれば、子供の入社も保証された時代があった。シエナでは、約5万4000人の市民の内、1万人が同行関連の仕事をしているという。

銀行業は、12世紀頃からイタリアで発展したとされる。交易の中心だったべネチア、フィレンツェ、ジェノバ等で、机の上で貨幣の交換をする両替商が活発に商いを営んだ。英語で銀行を表す“bank”の語源は、イタリア語の“banco(机)”との説もある。こうした歴史的な経緯もあり、イタリアでは地域社会で銀行の存在感が大きい。公営の銀行が多く、地元と強く結び付いてきた。イタリアでは、1990年代に金融自由化の一環として、多くの銀行が民営化された。ただ、外資系銀行に買収されるのを防ぐ為、暫定的な措置として、非営利の“財団”が銀行の株式を保有することになった。しかし、“財団”は現在に至るまで、株主として銀行経営に深く関わってきた。金融危機の際に増資に応じて、銀行経営の安定に貢献した面がある一方、不良債権処理を遅らせる原因の1つとなってきた。『国際通貨基金(IMF)』が2014年に発表した報告書によると、次のような構図が浮かび上がる。起点となるのは、銀行が拠点を置く地元の政治家だ。政治家は先ず、財団の役員に息のかかった人材を送り込む。モンテパスキの場合、2010年時点で財団役員のほぼ半数を地元の政治家が事実上、任命していた。財団は株主として銀行に役員を送り、経営に関与する。そこには、財団を仕切る政治家の意向が働く。一方、銀行は財団に配当を支払い、財団はそれを原資に、地元の自治体や団体に助成金を交付する形で、銀行の利益を還元した。どこに幾ら出すか、この判断に大きな影響を与えるのもまた、財団運営に深く関与する政治家だ。“財団”を通じて、政治家と銀行が靠れ合う構図だ。銀行は新たな融資を実行したり、不良債権を処理したりする際、政治の介入を受け易い。銀行が預金者から集めたお金を成長分野に回す一方、競争力の無い企業に退場を迫れば、世の中のお金が有効に使われて、経済の発展に繋がる。だが、政治の影がそれを阻んできた。財団による銀行出資を制限する等の改革に本腰を入れたのは、昨年になってからだ。『三菱UFJリサーチ&コンサルティング』の土田陽介氏は、「融資先との地縁や血縁を優先する銀行の経営体質を齎したガバナンス(企業統治)の弱きが、不良債権問題をエスカレートさせた」と指摘する。

20161212 09
■EU、厳しい救済ルール
イタリアの銀行の経営不安が収まらない背景には、EUが今年1月に導入した銀行救済ルールが使い難いという問題もある。これは、公的資金で銀行を支援する場合、銀行の株主や、銀行がお金を借りる為に発行した債券を持つ個人らも、原則として負担を負う規定。『ベイルイン』と呼ばれる。銀行救済で、国の財政が過度に悪化するのを防ぐ狙いがある。新ルール導入に先立つ昨年11月、イタリアは経営不振の『エトルリア銀行』等地方銀行4行を救済する際、ベイルインを適用した。ロイター通信によると、約1万2500人が計4億3000万ユーロ(約500億円)を失った。イタリア中部のペルージャでレストランを経営するファブリッツィオ・コッチャーリさん(50)もその1人。10歳の息子の学費として、エトルリア銀行が発行した債券に投じた6万6000ユーロ(約800万円)が消え去った。「政府は、公的資金で債権者を守るべきだった。EUのルールに縛られるべきではない」と憤る。モンテパスキ等の不良債権処理を進めるには、政府がベイルインルールに沿って公的資金を注入するか、民間から資金を募るか、2つの選択肢がある。政治が安定していれば、民間の投資家は増資に応じる可能性があった。しかし、レンツィ首相辞任に伴う政局の混乱を警戒し、出資に及び腰だ。現地の報道によると、イタリア政府は公的資金を注入する検討に入った。だが、銀行債の保有者らの負担を巡り、調整は難航しそうだ。『第一生命経済研究所』の田中理氏は、「EUが銀行救済ルールの適用を除外する等、柔軟な対応を取れるかがカギ」とみる。イタリア経済は長い低迷が続く。銀行の不良債権処理の遅れに加え、政治が不安定で経済の構造改革が進まないことも、その要因だ。イタリアでは、1980年以降の36年間に首相を務めたのは、再登板を含め、延べ22人に上る。専修大学の伊藤武教授は、「今回の国民投票も、否決されたのは憲法改正の是非というよりも、“反レンツィ”という政治的な理由が大きい。世代間の激烈な権力闘争が背景にある」と指摘する。IMFは7月に出したリポートで、「イタリアがリーマンショック以前の経済規模に復帰するのは、2020年代半ばになる可能性がある」とした。不安定な政情は長引くとみられる。イタリア経済の先行きは見通せない。 (エルサレム支局 上地洋実)


⦿読売新聞 2016年12月9日付掲載⦿

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テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

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