【オトナの形を語ろう】(05) 時間というものは、残酷で容赦がない相手である

今週は、時間というものについて少し話そう。最初に断っておくが、私が話す時間というものは、男性雑誌で豪勢なページを割いて宣伝している高級時計が表す時間のことではない。そんなもの、1000円で時計を売っていた時代の、ただ時間を刻むもので充分で、高級時計など何の意味もありはしない。何千万円もする時計が刻むものと、パチモン(※大阪で言う“贋物”)の時計と全く同じで、「どんな道具(時計)で見つめようが、時間というものは残酷で、容赦がない相手であるということを、君たちがいつ気が付くか」ということが大事なのだよ。「時間ほど厄介なものはない」と、先ず認識をすることだ。時間は、君たちがどう過ごそうが、容赦なく過ぎて行く。「オイ、チョット止まってくれ!」と叫んでも、時間は止まってくれやしない。それが時間の持つ絶対の能力であり、魅力でもあるんだ。そして、時間だけがあらゆる人に平等に与えられたものでもあるんだ。今でこそ、麻雀というと遊びが自動卓に変わったが、モーパイという、親指の腹で牌を触れただけで、それが何の牌であるかを確認できることが、麻雀をマスターする上で1つの必要な能力と言われていた時、私も部屋の中の電気を消して、「これがサンピン」とか「これがイーソウ」とか、「チーワンとチューワンの微妙な差がわかり難いナ」とか、1人で夜中にやっていた。それがマスターできるようになった時、リーチをかけてもモーパイしても、顔色が変わらなくなった。「あぁ、これでレベルが1つ上がったナ」と思ったんだ。

では今、こうして作家の端くれで仕事をしていて、あのモーパイを覚える為に毎夜、枕元に麻雀牌を置いて、闇の中で牌に触れていたことが無駄であったかを考えると、「ああいう時間の過ごし方があったから、俺は未だやっていけているんだ…」という実感があるんだ。どう考えても役に立たないことであるように見えて、若しあの時、女の尻を追いかけることばかりを考えていたら、「どうしても倒したい」と思う麻雀の相手に舐められ続けていただろう。若い時の時間の使い方は(別に若かろうが年を喰っていようが同じことだが)、時間というものは、そこに生きている人間の考え方ひとつで、どんな風にでも形を変えてしまうということだ。例えば、つまらない女に当たってしまって、「もう縁を切ろう」と決めて、女と話し合いを始めたとしよう。女がクドクドと喋りながら時計を気にし始めた時、「俺は今、何をしているんだ?」と疑問を持たなきゃおかしいんであって、男と女の付き合い等というものは、女がどれだけセックスの時に尽くしてくれようが、自分がどれだけ手前の欲情の為に女に何をさせようが、所詮、男と女の寝床の話は、フィフティーフィフティーと考えなきゃダメなんだよ。ただ、お互いが好き合う・惚れ合うということが前提だが。そうじゃなくて、自分だけが惚れて、女がついて来たのだったら、それは全面的に男が女の話を受け入れてやらなくてはならないのが、世の中のしきたりだからな。

今、言いたいのは、「男と女の痴話喧嘩や別れ話なんぞに、一々時間を使うんじゃない」と言っているんだ。男と女の別離に、上手く別れられることなんぞある訳がないんだから。「俺たち、別れてもいつまでもイイ友だちでいようね」。そんなのはガキが言うことだから。時間というものが如何に残酷で容赦がないかは、今、生きている連中の大半がわかっちゃいないんだよ。大切なのは、「時間にとって何が一番肝心か?」ということだ。それは今、この文章を読んでいる今が、一番大切なんだ。「今が大切だから、好きな音楽に耽る」という輩がいれば、それはそれで構わないんだ。そういう連中の行き着く所は見えているし、悲惨なことが待っているだけだから。「ゲームばっかりに夢中になっているんじゃねぇよ」と私が言うのは、1日に3時間ゲームをしている奴は、24年間――つまり、24年後に飲まず、食わず、寝ることも糞にも行かず、3年間、幻だけを見ていたことになるってことだ。3年という時間があったらどれだけのことができるか、少しは考えてみろ。


伊集院静(いじゅういん・しずか) 本名は西山忠来。作家・作詞家・在日コリアン2世。1950年、山口県生まれ。立教大学文学部日本文学科卒業後、『電通』に入社。CMディレクター等を経て、1981年に作家デビュー。『愚者よ、お前がいなくなって淋しくてたまらない』(集英社)・『大人の男の遊び方』(双葉社)・『無頼のススメ』(新潮新書)等著書多数。


キャプチャ  2016年12月19日号掲載

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