【真珠湾攻撃・75年後の和解】(下) 奇襲…仲間の死を乗り越えて

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75年後の朝も、ハワイの空は高く晴れ渡っていた。今月7日午前6時(日本時間昨日同1時)前、日の出と共に太陽が海を照らすと、海面に白亜の建物が浮かび上がった。真珠湾攻撃で海中に沈んだ戦艦『アリゾナ』の上に立つ『戦艦アリゾナ記念館』だ。元アメリカ海軍兵のルー・コンター(95・右画像)は、この日の追悼式典の会場からそう遠くない記念館を真っ直ぐに見据え、呟いた。「安倍首相の真珠湾訪問、悪くはない」。カリフォルニア州グラスバレー。コンターの自宅の1室の壁には、黒焦げた大きな鉄片が額に入れて飾られている。「戦艦アリゾナの一部だ」――。コンターは指を差して言った。75年前、アリゾナは旧日本海軍の真珠湾攻撃で沈み、乗組員1100人以上が犠牲となった。コンターは、その生き残りの1人だ。「日本人に恨みは無い。ただ、あの時から壊滅させるべき敵になった」。あの日、1941年12月7日午前8時前。アリゾナの甲板にいた20歳のコンター(操舵員)は、頭上を飛ぶ日本の爆撃機の爆音に武者震いした。「来たな」。日本の攻撃に備え、厳しい訓練を重ねてきた。甲板後部の安全を確認し、反撃準備にかかろうとした際、爆発音と共に、水面から10m以上の火柱が上がった。艦内から火達磨の人間が1人、また1人と飛び出してきた。「皮膚が焼け爛れ、溶け落ちた。信じられなかった」。夢中で艦内から引っ張り出したり、安全な場所に運んだりできた仲間は、「記憶では18人」。それが限界だった。船が沈み始めていた。アリゾナは丸2日間炎上し、沈没した。甲板の操舵員34人中、生存者はコンター1人のみ。「日本は強いのか…」。そう自問していた時、上官は「ルール違反の卑怯な奇襲だった」と言った。「酷い。日本を必ず打ち負かす」。仲間の死を胸に刻み、決意した。1942年に戦闘機の操縦訓練も受け、ニューギニア等の南方に転戦。2度撃墜されたが生き延びた。本州上陸に向けた訓練を本格化させていた1945年8月、日本が降伏。「日本に戦いを止めさせることができて、ホッとしたね」。

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戦後も海軍で勤務し、1967年に退役した後は静かに余生を過ごす。日本に対する蟠りは「自然に無くなっていった」と言う。だが、経済発展を遂げ、アメリカと変わらない豊かな日本を見ると、「(戦争を終わらせたアメリカは)もっと感謝されていいのでは?」と複雑な気分になる。アリゾナの乗員で生存者は現在、コンターを含めて僅か5人。自宅には、アリゾナ関連の写真・模型・書物が年々増えてきた。「仲間の無念を語り伝えるのは自分しかいない」という自負がある。だからこそ、思う。「憎しみは薄れても、日本が敵だった記憶は忘れない」。アリゾナの近くに停泊していた戦艦『ウェストバージニア』の乗組員だったジム・ダウニング(103・コロラド州コロラドスプリングズ在住)も、多くの仲間の悲惨な最期に衝撃を受けた。攻撃直後、病院の前で全身火傷の兵士ら100人以上が息絶えようとしていた。「『最期の言葉を家族に伝えよう』と声をかけ、メモを取った。死に際なのに皆、家族を心配させないように『元気だと伝えて』と言うんだ」。ダウニングは、彼らの言葉をそのまま遺族に伝えた。戦後もアメリカ海軍で佐世保基地に勤務する等、日本や日本人と触れる機会を重ね、「日米其々、戦争への考え方・歴史がある。悪いのは日本人ではなく、戦争に導いた指導者たちだ」と思うようになった。真珠湾を攻撃した日本の操縦士たちと、ハワイで会う機会もあった。その時、「いつまでも敵同士ではない」と実感した。「色々あったからこそ、日米はどの国同士よりも強い絆で結ばれている」。2人は、75年の節目の追悼式典に臨んだ。50年の節目以降、ほぼ毎年、12月7日はハワイを訪れて式典に出席し、アリゾナ記念館で犠牲者に祈りを捧げてきた。車椅子のダウニングは家族に付き添われながら、終始笑頭でアメリカ兵仲間らと接していた。安倍晋三の真珠湾訪問決定に「感激した」と言う。「日米が示す和解は、世界中の国の参考となる偉大な教訓だと思う」。コンターは背筋を伸ばし、矍鑠としていた。軍服がぴったりと体に合っていた。「今年もまた、その時が来ただけだ。来年も来る。体が動く限り、この日は真珠湾に必ずいる」。きっぱりとそう言った。そして続けた。「平和に繋がる和解の努力も、できるだけ見届けたい」 《敬称略》

               ◇

ロサンゼルス支局 田原徳容が担当しました。


⦿読売新聞 2016年12月9日付掲載⦿
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