社内炎上、社員が見限る“口だけ謝罪”――記録を残さない『電通』の社長説明会、内部告発者を記者会見に登場させた『神戸製鋼』

2016年も、企業の不正や不祥事が繰り返された。多くの事例から浮かび上がるのは、悪い評判が広がるスピードが飛躍的に高まっている事実だ。不誠実な対応をした企業や、初動を誤った企業は、一夜にして“社会の敵”となる。そして、一歩間違えば、社員ですら「自浄能力が無い」と見切って離反してしまう。変化し続ける謝罪の流儀。貴方の会社は、いざという時に実践できるだろうか――。 (取材・文/本誌 広岡延隆・林英樹・河野祥平)

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法令違反は勿論、性差別的な表現から接客マナーまで、あらゆるテーマが炎上の火種になり得る。その全てのリスクを企業が事前に予見し、防ぎ切ることは難しい。だからこそ重要になるのは、有事の後の言動だ。真摯に再発防止に取り組む姿勢こそが、長い目で見れば最大の火消しになる。会社の発表やトップの発言がその場凌ぎかどうかを見極めるのは、何もメディアや世間だけではない。問題の本質を肌感覚で知る社員・従業員は、最も厳しい評価者と言える。企業内部のコミュニケーションをおざなりにした結果、炎上が広がったのが『電通』だ。「経営陣を見ていても、この会社が良い方向に向かうとは到底思えない。今こそ会社を変えなければならないのに…」。電通の30代男性社員は、曇った表情でこう話す。昨年12月、新入社員の高橋まつりさん(当時24)が過労自殺した。その後に労災と認定され、母親の高橋幸美さんらが記者会見を開いたのは今年10月7日。「労災認定については、内容を把握していない」。電通は、広報部門がそうコメントしただけだった。入退館ゲートで自動集計されたデータに基づく残業時間では、月130時間を超えることがある等、高橋さんは激務を熟していた。しかも電通は、自殺直前の昨年8月に労働基準法違反で是正勧告を受けたばかり。弥が上でも社員の関心は高まっていたが、経営陣がメッセージを発信することは無かった。その後、事態は悪化の一途を辿ることになる。東京労働局等が電通本社への任意の立ち入り調査に踏み切った10月14日。「極めて厳粛に受け止めている」。調査に合わせ、石井直社長は漸く社員に緊急メッセージを送った。

同時に、人事部門も動いた。22時に会社を一斉消灯し、残業時間の上限を短縮するといった再発防止策を通達したが、社内では、こうした慌ただしい動きは好意的に受け止められなかった。ある社員は、こう吐き捨てる。「メッセージからは、高橋さんが亡くなったことへのお詫びや反省が感じられなかった。タイミングを見ても、社会からの批判が高まっていることを気にして、形だけの対策を打っただけだ」。先月7日には、厚生労働省が電通本社と3支社に労働基準法違反容疑で強制捜査に入った。その最中、本社に隣接する電通ホールで、1時間に亘って熱弁を振るう石井社長の姿があった。「捜査に全面的に協力する」「人が唯一にして最大の財産」「厳しい局面だが、チーム力を結集して、共に新しい電通を作っていこう」。ホールの席は本社社員で埋め尽くされ、石井社長のメッセージは関西・中部の両支社にも同時中継された。漸く社員が求める説明会が開かれた訳だが、社内の不満は収まらなかった。外回りが中心の営業担当や、子会社・海外法人の社員の多くは、このメッセージを受け取ることができなかったからだ。電通は、説明会に関する動画・音声・テキスト等を、社員が閲覧できるイントラネットに掲載しなかった。説明会に出席できなかった営業担当社員が管理部門に内容を確認したところ、「周囲の出席者に聞いてもらうしかないですね」と冷たく突き返されたという。説明会の記録を残さないのは、外部への流出を恐れたからに他ならない。「捜索が入って急に騒ぎ出すのは悲しいこと。自浄能力の無い会社だ」。説明会後にNHKの取材に対し、こう感想を述べた若手社員はその後、処分を受けることになったという。「マスコミ等に内部情報を伝えないように」。社内では緘口令が敷かれているが、「リークされるような実態があることが問題なのに…」と多くの社員がこうした状況を冷めた目で見ており、次々と内部情報をメディアに流す状況に陥っている。前出の社員は、こう言う。「社長のメッセージを本当に全社員に伝えるつもりだったら、その為の手段を尽くす筈。結局は、その場限りのポーズなのでしょう。広報戦略を企業に助言している会社がこの体たらくとは…本当に情けない」。高橋さんの自殺が社会問題になる直前に発覚したデジタル広告費の過大請求問題では、お詫びリリースを発表し、直後に記者会見も開いた。中本祥一副社長は、「広告主等、関係各位に大変なご迷惑をおかけした」と謝罪。素早い反応を見せたが、労働基準法違反の問題では広告主が関わる話ではないからか、対応は後手に回った。

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電通は今月2日、『労働環境改善の取り組みについて』とのリリースを公表した。“入社1~5年目”・“契約社員”等、社員の属性に応じたチームを発足。再発防止に向けた提言や、役員との意見交換を進めていることを明らかにした。遅ればせながら社員と向き合う姿勢を見せたが、社内の冷めた雰囲気を覆すのは容易なことではない。経営陣の今後の本気度が問われている。社員がトップや企業の姿勢に失望すれば、仕事に対するモチベーションが下がるだけでなく、“外圧”を目的にメディア等に内部情報を漏らすようになる。企業の実情を知った世間が更に批判の声を上げ、加速度的に炎上が広がり、対応が追いつかなくなる…。そうした悪循環は、今年“炎上”した『ピーシーデポコーポレーション』でも起きていた。“トウゼンカード”と呼ばれる事実上のノルマを社員に課す制度や、社内情報の漏洩を牽制するかのようなメール等の存在を明らかにする関係者が次々と登場した。不祥事や事故で悪化した企業イメージを回復するのに、被害者・社会・ステークホルダーへの説明責任は極めて大切だ。これに加えて、根本原因を解決して再発を防止するには、社内の信頼を取り戻さなければならない。組織の実態を最もよく知る社員には、小手先の取り繕いは通用しない。そう考え、思い切った記者会見を開いたのが『神戸製鋼所』だ。同社は今年6月9日、グループ会社である『神鋼鋼線ステンレス』(大阪府泉佐野市)が、家電等に使う発条用鋼線の強度試験データを改竄していたとして、東京都内で緊急の記者会見を開いた。記者会見には、神戸製鋼の副社長で、神鋼鋼線ステンレスの親会社である『神鋼鋼線工業』の社長と共に、ある人物が同席していた。データ改竄の可能性に気付き、その事実を内部告発した神鋼鋼線ステンレスの工場長、その人だ。

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「生産会議で奇妙な言葉が使われており、『何かおかしなことが起きている』と思った」。工場長が言う“奇妙な言葉”とは、“強度のトクサイ(特別採用)”。トクサイとは、顧客企業に規格外の製品を安く提供する取引のことを指すが、安全性に関わる強度不足の場合には出荷が認められない。その点に違和感を抱いたのが、内部告発のきっかけとなった。内部告発は、表沙汰にしたくない不正や不祥事が明らかになる為、対応に後ろ向きな企業は少なくない。だが、神戸製鋼は内部告発を受理し、調査の結果、不正の事実を突き止めただけではなく、それを発表する記者会見の場に告発者も同席させた。『エイレックス』の江良俊郎社長は、「不祥事は、隠さないことが最もダメージの少ない対処法になる。言うは易しだが、それを決断できる企業は殆ど無い」と指摘する。記者会見の場でも、告発者の工場長は当然、質問を受けることになる。企業側にとって好ましくない話が出る恐れもあったが、神戸製鋼は問題解決に取り組む真摯な姿勢を示すことを重視した。判明した不正は、『日本工業規格(JIS)』の基準に満たない製品の試験データ改竄という安全性に関わる問題。だが、事態の深刻さほどに大きく報道されなかった背景に、記者会見で告発者が包み隠さず事実関係を説明した点があった。神戸製鋼の姿勢は、社内への影響も想定したもの。再発防止に正面から取り組む姿勢を見せれば、社員が声を上げ易くなるからだ。『トーマツ』等が今年、上場企業402社を対象に調査したところ、社内に通報窓口を設置している企業は9割を超えた。一方、82%の企業が、不正関連の年間通報・相談件数は“0~5件”と回答。内部告発の制度が十分に機能していない実態が浮かび上がる。背景には、「不正を告発したら自分が不利益を被るのではないか?」という社員の企業に対する根強い不信感がある。

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「内部告発から会社との裁判で和解するまで、足かけ10年近くかかった。もう、私のような思いをする人は出てほしくない」。『オリンパス』に勤める濱田正晴氏は、こう振り返る。濱田氏は2007年、上司の不正を告発した後、会社から配置転換を命じられた。最高裁判所まで争った末に、“人事権の乱用”との認定を得て勝訴。だが、処遇は改善されず、再び訴えを起こした。今年2月、オリンパス側が1100万円を支払う等の内容で和解した。告発者への報復人事は、稀なケースではない。内部告発のルールである『公益通報者保護制度』は現状、告発者を守るには十分とは言えないからだ。公益通報は、所属する企業が設置した窓口への内部告発と、行政機関やマスコミへの外部告発とに分かれる。外部告発は、「その情報が真実である」と考えられる“真実相当性”等を要件として規定している。外部告発のハードルを高く設定することで、内部告発を活性化させる狙いだったが、実際はそうなっていない。問題は、報復人事に関する罰則規定が無い点にある。だが今後、大きく変わる。消費者庁は、制度改正に向けた検討会を設置。外部通報の要件緩和が検討されている。窓口となる行政機関は、消費者庁に一本化する。厚生労働省が告発を1年以上放置していた事実が判明する等、所管する業界との関係性から、行政機関が不正調査に消極的になる可能性が指摘されていたからだ。内部告発の活性化も図る。報復人事があった企業名を公表する等の罰則を盛り込む方向で、議論が進んでいる。更に大きな変化が、告発者の対象拡大だ。これまでは現役の社員・公務員に限っていた告発者を、退職者や役員にまで広げることが検討されている。消費者庁が設置した検討会ワーキンググループのメンバーである弁護士の光前幸一氏は、「現行の内部通報は、『企業は適切に対応するだろう』という“性善説”に則った制度で、あまり機能していなかった。今後、企業は意識を変えざるを得ないだろう」と話す。不正や不祥事の隠蔽が一層難しくなる中、社員との情報共有を進め、風通しの良い社内風土を作り上げる。一見すると遠回りのようだが、それこそが炎上を鎮める最短ルートになる。


キャプチャ  2016年12月12日号掲載

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