「先進各国はイギリスのEU離脱に警鐘を鳴らせ」――アデア・ターナー氏(イギリス金融サービス機構元長官)インタビュー

20161214 07
熱烈にヨーロッパを愛する1人として、今回の国民投票の結果には血の気が引く思いがした。これで、イギリスが『ヨーロッパ連合(EU)』から離脱することは、ほぼ確実になってしまった。しかし、私は何年も前から、「イギリスへの大規模な移民流入が、ポピュリズム(大衆迎合主義)による危険な反応を引き出すのではないか?」と恐れてきた。国際的エリートは、イギリスのEU離脱決定から極めて重要な教訓を学び、それに基づいて行動する必要がある。資本とものと人の流れのグローバル化は、一般に吹聴され、信じられているように、“全ての人にとって善”などではない。グローバル化が齎す悪影響に取り組むことを我々が怠れば、イギリスのEU離脱決定と同じようなことは今後も起こるし、もっと悪い事態を招くかもしれない。1990年代前半には、移民によるイギリスの人口の純増はほぼゼロだった。1990年代後半になると純増し始め、2004年に旧共産国8ヵ国がEUに加盟すると、移民人口は急拡大した。これら新規加盟国からの労働力の流入については、7年間は制限することが認められ、フランスやドイツはそうした措置を取ったが、イギリスは直ちに労働市場を開放した。2015年のイギリスの移民純増数は33万3000人で、総人口は約50万人増えた。信頼できる予測によれば、現在、6400万人のイギリスの人口は、21世紀半ばには8000万人を超える可能性がある。移民の受け入れに利点が多くあることは間違いない。ロンドンが素晴らしい都市である理由の1つは、多様な文化が混じり合う国際都市だからだ。しかし、『イギリス貴族院経済委員会』が、私が委員を務めていた2008年に既に指摘していたように、大量の移民は多くの人々に重大な不利益を齎してきた。経済学者は、移民が賃金に及ぼす影響が正確にどの程度なのかについて、激しく議論を重ねてきた。しかし、どこの国であろうと、労働力供給が突然増加しながら、少なくとも一部の“地元”労働者に悪影響が一切及ばない等ということはあり得ない。

人口の急増(※特定の地域に集中することが多い)も、公共投資を適切に計画し、予算を十分に増額しておかないと、教育や医療等といった重要な公的サービスは逼迫し、対応し切れなくなる。だがイギリスでは、そのような投資はなされてこなかった。ヨーロッパでも、オランダと並んで人口密度の高い地域であるイングランドで、これ以上人口が増えると、人々に愛されてきた田園地帯に望ましくない圧力がかかることが懸念されている。地方では、新たなインフラ開発に対して激しい反対運動が起きており、その必然的な結果として、計画の遅延やコストの拡大、場合によってはいつまでも恨みが残ったりしている。こうしたことから、イギリスでは、移民の増加が政治的な反動を引き起こすことは不可避だった。反動の一部は、意図的に誇張された主張に煽られた“外国人嫌い”が表面化したものだった。例えば、離脱派の活動家は、「元々人口が多い上に更に人口が急増しているトルコが、イギリスの同意無しに間もなくEUに加盟する」といった主張を展開した。だが、この主張には何の根拠も無かった。それでも、こうした嘘が効果を発揮するのは、芯の部分に一片の真実があるからだ。その真実を認めようとしなければ、ポピュリズムによる反動は更に強まるだけである。実際、主流の政治家や経済学者たちは、移民に対する懸念の拡大を目の前に突き付けられても尚、「そのような懸念は“隠れ人種差別”の表れに過ぎない」と軽視したり、「移民による悪影響は存在すらしない」と、問題そのものを否定することに終始していた。何れにせよ、多くの人々が明らかに“誤った認識”を植え付けられることになった。それでも、移民急増により現実に苦しんでいる人が存在する以上、移民が齎す利点をいくら説いても、そうした人々の怒りを買うばかりだ。イギリスの残留派の選挙活動が、イギリス国民が抱える移民への懸念を払拭できなかったことは、広く言えば、国際的エリートが「一般に、資本とものと人の自由な移動は、全ての人にとっての善である」という主張を、人々に納得させられるだけの力を持ち合わせていないことの表れとも言える。実際、グローバル化は全ての人にとっての善ではない。そのことは、経済学的にきちんと説明がつく。経済理論によれば、これら3つの移動の自由は其々、世界の市場規模を拡大し得る。ただ、理論的にどうしても勝ち組と負け組を生み出す為、勝ち組が負け組に補償をしない限り、自由化とグローバル化を全ての人の為のものとすることはできない。しかし、世界を見渡しても、そのような補償がなされた事例は極めて稀だ。

20161214 08
アメリカでは、移民よりも恐らく、貿易のほうが将来的に問題となりそうだ。中南米では全体に少子化が進み、人口が安定してくる為、この地域からの大規模な移民流入の時代は、遠からず終わりを迎えるからだ。アメリカ大統領選における共和党候補のドナルド・トランプ氏は、この点で矛盾している。メキシコからの移民が純減に転じようとしている今、「メキシコとの国境に壁を築く」という荒唐無稽な計画で支持を得てきたからだ。しかし、「アメリカの多くの労働者は、自由貿易の推進によって悪影響を被ってきたし、状況は今後、更に悪化しかねない」というトランプ氏の議論は一理あるだけに、人々の共感を生んだ。アメリカの政治システムが、この現実に対処できる有効な政策を打ち出さない限り、自由貿易の拒絶を訴えるポピュリズムは、移民への敵意と結び付いて、更に力を増すだろう。ヨーロッパでは、アメリカとは対照的に、移民が将来的に一層大きな問題となる。EU域内からの移民よりも、寧ろ域外からの移民が問題だ。国連によると、アフリカの人口は現在の12億人から、2100年までに43億人に膨れ上がる可能性がある。アフリカ経済が発展して、急速に雇用機会が拡大しない限り、大量の移民が継続的に地中海を渡って来ることは避けられない。従って、ヨーロッパは全体として、2つの大きな課題に直面することになる。1つは、アフリカ及び中東の経済発展を支援すること。もう1つは、必ず起こる大量の移民流入と、それに伴って、一部のヨーロッパ市民に及ぶ深刻な皺寄せに、可能な限り対処することだ。これらの課題に取り組むには、ヨーロッパ各国の協調した対応が欠かせない。その点で、今やイギリスがヨーロッパ共通の対応策を形作る為に果たせる役割が遥かに小さくなってしまったことが、残念でならない。この悲しむべき結果に何か肯定的な面があるとしたら、グローバル化が齎す欠点を告げる警鐘が聞こえたことだろう。この欠点を認識し、それに対処しない限り、離脱票を膨らませた反動的な動きは、今後も拡大を続ける筈だ。 (聞き手/本誌編集部)


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