【迷走する所得税改革】(03) 就労調整の壁、社会保険料も

20161214 09
先月下旬、自民党税制調査会に呼び出された厚生労働省幹部に、議員からこんな質問が飛んだ。「保険料の壁のほうが、就労調整に大きな影響を及ぼしているのではないか?」。社会保険加入者から保険料を徴収する基準が先月に改定され、従業員501人以上の大企業で働くパート従業員は、年収106万円を超えると厚生年金や、医療を合わせた保険料を支払うことになった為だ。パートにとって、年106万円を超えないように労働時間を抑える上限ラインになる。税制では、103万円を超えても、141万円まで控除額が縮減しながら適用を受けられる配偶者特別控除がある。社会保険の場合は、基準のところに“崖”が待ち受ける。世帯主の収入が500万円の場合、妻が106万円を超えて働くと保険料を徴収され、世帯の手取り額は16万円も落ちてしまう。仮に、税制を手直しして、収入が年103万円以下の夫婦に適用する配偶者控除を見直しても、「106万の壁がある限り、就労時間が増えるかは疑問だ」(『第一生命経済研究所』の星野卓也氏)。その他の中小企業等でも、従来通り“130万円の壁”が残っている。

「多様な働き方に中立的な仕組みを作る必要がある」。9月9日、安倍晋三首相は宣言した。配偶者控除の見直し機運も高まったが、その1ヵ月後には保険料の106万円の壁が誕生した。原因は、2012年の『税と社会保障の一体改革』の時にある。消費増税と社会保障の充実を併せて進める為、財務省と厚労省が連携したが、新たな年収基準を巡っては「両省で深い議論はしなかった」(財務省幹部)。106万円に設定した厚労省に対し、「103万円の少し上にして、税の壁に隠れようとしたのではないか?」と訝しがる財務省。省庁の典型的な縦割りが生んだ不作為の結果だ。政府・与党は、パート主婦への減税枠を広げて、税制の103万の壁を事実上、150万等へ引き上げる検討を進めている。106万円と130万円を追い越しても、就労意欲が削がれる実情は大きく変わらず、働き方改革の実効性も上がらない。「130万円で就労調整する人の山があり、人手不足の要因だ」。東京都内のスーパーマーケット関係者は語る。慶應義塾大学の土居丈朗教授は、社会保険の手取り額が急減する部分を税で手当てする案を提案する。保険料は一度、支払ってもらった上で、手取り減少分を所得税の納税額から還付する仕組みだ。財源は、一部の高所得者への負担増で賄う。欧米でも、専業主婦らが労働市場に参入すると、世帯の手取り額が減ってしまうことが問題になっている。税と社会保険料負担を一体で捉え、一定の所得に達するまで税軽減等を行う“勤労税額控除”で、この課題に対処するのが先進国の流れだ。そうしないと、所得税改革の効果も減殺される。


⦿日本経済新聞 2016年11月11日付掲載⦿
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