モーリタニア、ぽっちゃり女性モテモテの裏で――「太ることは女になること」、肥満強制で死亡例も

西アフリカのモーリタニアでは、“太った女性は美しい”という考え方が根強い。そうした価値観は、女性に何を齎すのか? (取材・文・写真/カイロ支局長 本間圭一)

20171010 07
大きなお椀一杯に注がれた牛乳。首都・ヌアクショットの自宅で、中学生のマンスーラ・シェイバニさん(16)は、お椀を両手で抱え、がぶがぶと飲み始めた。4分の1ぐらい飲むと、「学校にはもっと太った子がいる。負けたくない」と真顔で話した。マンスーラさんは1日に約5リットルの牛乳を飲む。胃を大きくし、高カロリーの食品を沢山食べられるようにする為だ。食欲を増進させる薬も1日1錠飲んでいる。身長160㎝・体重65㎏だが、「まだまだ足りない」とこぼした。この食生活を指導するのが、母親のテケイバさん(42)だ。自身も7歳から牛乳を毎日沢山飲んできたという母は、「モーリタニアの男は太った女が好き。太ることは女になること」と娘を見つめた。モーリタニアは元々、サハラ砂漠の遊牧民の国だった。農耕が困難な過酷な生活環境で、太った娘は豊かな家の象徴となった。痩せた娘は貧しい家の出身と見られ、「嫁に出せない」とも言われた。いつしか、太った女性が好まれるようになり、モーリタニア人男性の7割が太った女性を好むという調査結果もある。社会慣習に詳しいヌアクショット大学のシジ・ムフタール教授は、「若い女性の太り具合は、一家の社会的・経済的なレベルを示し、結婚の前提条件となった」と指摘した。結果として、娘を無理やり太らせる“ルブル”という習慣が広まった。ラクダ等の乳を大量に飲ませ、飲めなくなると足先を2本の短い木で挟んで罰を与え、更に飲ませる。

2011年の調査によると、モーリタニア人女性の6割が、10歳までに太るよう、無理な生活を強いられた経験があるという。街を歩くと実際、ふくよかな女性が圧倒的に多いという印象だ。記者が街角で男性10人に聞いたところ、5人が「痩せた女性より太った女性が好み」と答えた。ところが、ムハンマド・マデン医師は、ルブルの悪影響として心臓病・糖尿病・関節痛を挙げた。『世界保健機関(WHO)』が定めた体格指数で見ると、モーリタニアは女性が“肥満”の前の“太り過ぎ”に分類される。無理に体重を増やして少女が死亡したケースもある。同国の社会問題・子供・家族省は、メディア等を通じてルブルを撲滅する運動を展開している。健康被害を訴えたことで、ルブルは昔よりは減っており、テケイバさんの友人のアイシャトゥ・アジウさん(38)も「今は娘に牛乳を沢山は飲ませない」と話した。だが、地方を中心に娘を無理に太らせる習慣は根強く残っている。女性の美しさに対する考え方は古今東西で異なるが、美を極めることに弊害が伴う点は共通している。アラブ首長国連邦(UAE)のザハラットアルハリジ誌等によると、中東では細い腰回り・大きなお尻・濃い眉毛・黒色のアイシャドーが女性の美しさの象徴で、ふくよかさや豪華さが異性にモテる秘訣という。ペルシャ湾岸諸国の一部では、お尻の形を良くする為、硬い物の上に座る習慣も残るという。WHOによると、女性の肥満度で見ると、中東の国々の多くは“太り過ぎ”に分類されている。太ることをあまり気にしないことが一因と言われる。トルコでは女性の目元の整形手術が盛んだが、失敗例が相次ぐ。一方、欧米や日本では“痩せているほうが美しい”という意識が強く、ダイエットに関心がある女性は9割と言われる。だが、拒食症になったり、死亡したりするケースもある。フランスでは今年、“痩せ過ぎモデル”を規制する法律が施行された。美の追求は、悲劇の歴史でもある。近代ヨーロッパではウエストを細く見せるコルセットが広まったが、骨が変形したり、血流が悪くなったりする症状が相次いだ。中国では伝統的に小さい足が美人の条件とされ、足の発育を止める“纏足”が行われた時代もあった。一方、世界には「美しいも皮一重」(欧米)、「笑顔は美形の2倍の財産」(アラブ圏)等、容姿の美しさ以上に人柄が大切と説く格言も多い。


⦿読売新聞 2017年9月14日付掲載⦿

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北朝鮮のミサイル発射基地を先制攻撃! 自民党、弾道ミサイル防衛能力強化で緊急提言

北朝鮮が新型弾道ミサイルの発射実験を繰り返す中で、自民党は『弾道ミサイル防衛の迅速かつ抜本的な強化に関する提言』を作成し、安倍首相に提出した。我が国のBMD能力の強化の為の新規装備の導入や、敵基地反撃能力の保有等により、北朝鮮の弾道ミサイルの“飽和攻撃”を防げるのか? 同提言内容を検証する。 (フジテレビ解説委員 能勢伸之)

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今年4月5日午前6時42分頃、北朝鮮は日本海沿岸の咸鏡南道・新浦近辺から弾道ミサイル1発を発射。水平距離60㎞、到達高度約189㎞、方位角93度であった(※『聯合ニュース』)。アメリカ太平洋軍は当初、『KN-15』(=『北極星2』)と判断していたが、発射翌6日、国防総省は判断をスカッドERに修正した。同月16日にも新浦近辺から1発の弾道ミサイルが発射されたが、発射後、4~5秒で爆発した。直後の国防総省の評価は、MRBM(準中距離弾道ミサイル)というものだった。その前日(15日)、北朝鮮は金日成主席の生誕105周年のパレードを実施。ICBM計画を示唆する走行展示も行われた。従来、『KN-08』や『KN-14』といったICBMを剥き出しで搭載していた8軸16輪の『WS51200』改造車両に搭載されたICBM級弾道ミサイル用とみられる起倒式大型キャニスター。牽引式トレーラーに搭載された別の大型キャニスター。そして、嘗てムスダン中距離弾道ミサイルを搭載していた『MZKT79161』(※旧ソビエト連邦のSS-20弾道ミサイル用移動式発射機『MAZ-547』を民間用に改修した車両)改修の大型12輪移動式発射機に火星12の弾道ミサイルを落載したもの等、複数のICBM/IRBM弾道ミサイル計画を走行展示したのと並行して、KN-15同様、車体前端部から前垂れを垂らした装軌式の移動発射機に、スカッド式のケージに載せた弾道ミサイルが走行展示された。このミサイルの後部からはケーブルが垂れ下がって、移動発射機に繋がっていた。スカッドならば、発射前にデータ入力用に使用されるケーブルそっくり。そして、弾頭近辺には小型の動翼4枚が付いていた。機動性を高めた新型スカッド/ノドンということであろうか。

アメリカの研究機関『ISIS』やオーストラリアの外交専門誌『ディプロマット』4月17日付は、この新型ミサイルをスカッド、又はノドンをベースにした対艦弾道ミサイル計画と評価した。これに対して、アメリカの研究機関『38NORTH』は5月1日付の分析で、『KN-17』について「飛翔の恐らく最後の数秒間で操舵する小型のフィンが再突入体に付いたスカッド派生型」との見方を示し、対艦弾道ミサイルだとしても、弾道ミサイル防衛能力のあるイージス艦が随伴する空母を沈めることは無理で、寧ろ0.5トンの高性能爆薬を装填し、その機動性でパトリオットの防御を躱して、兵舎や弾薬集積所、それに在韓アメリカ軍の指揮所が狙われることが「真の問題」として、「軌道再突入体(MaRV)に対するパトリオットシステムの試験をすべき」と提案。「機動性を持たせた地上攻撃用弾道ミサイルとしての脅威を考慮すべき」との解釈を示した。北朝鮮は、国連安保理事会で北朝鮮の問題を扱う閣僚会議を開いた数時間後の4月29日午前5時半頃、北朝鮮西部の航空基地がある平安南道北倉付近から北東方向に向けて弾道ミサイル1発を発射した。防衛省は「北東方向に水平距離約50㎞飛翔、北朝鮮内陸部に落下」と発表し、韓国の聯合ニュースは「高度71㎞に到達、飛翔時間は数分、空中爆発した」と報じた。何を発射したのか? 『AP通信』等は、「アメリカ当局筋がKN-17という見方を示した」と報じていた。KN-17の射程は本稿執筆時において筆者には不明だが、38NORTHは「北朝鮮は、日本の上空を飛ばないようにする為に、単なるスカッドを高角度の軌道を取る必要はないが、MaRVの為には、着弾地域は、北朝鮮自身が非常に詳しく観察できる場所であることを望むだろう」と記述していて、スカッドERやノドン並みの射程を示唆しているのかもしれない。北朝鮮は度重なる失敗をものともせず、対艦弾道ミサイル、又はMaRVの開発に勤しむのか? どちらにせよ、日本のミサイル防衛にとって看過できない事態かもしれない。日本の弾道ミサイル防衛は、BMD(弾道ミサイル防衛)能力を持つこんごう型イージス艦4隻、それにアメリカ海軍のBMD能力を持つイージス艦が最初の防壁となり、次に航空自衛隊の地上配備型迎撃システム『PAC-3』や在日アメリカ陸軍の『PAC-3MSE』が2番目の防壁となるだろう。北朝鮮が対艦弾道ミサイルを実用化する為には、どうやって標的となる艦船の位置を掌握するのか。極超音速、又は超音速で飛翔する弾道ミサイルをどのように誘導するのか等、技術上の疑問・課題は山積していそうだが、技術的完成度が低い段階でも、北朝鮮は実戦配備に踏み切る可能性は否定できないのではないか。精度に関して完成度が低くても、“まぐれ当たり”のリスクを考慮しなければならないなら、日米韓のイージス艦やその他の艦艇の動きを制約しかねない。

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【アホでマヌケな韓国人】第2部(01) オリンピックという衰退産業に縋る韓国

20171004 12
2017年2月の時点で、平昌冬季オリンピックの李煕範組織委員長は、「新設競技場6ヵ所の工程率も96%を超えた。ソフト面で大会運営は、テストイベントを経て補完している」と述べ、『国際オリンピック委員会(IOC)』のパール・シュミット委員は「上手くいくだろう。重要なのはオリンピックのレガシー(遺産)を残すことだ」と評価した。いずれもオリンピック関係者の言葉で、割り引いて聞く必要はあるが、関係者は概ね明るい希望を抱いているようだ。現実に昨年末、平昌で『詩人祭り』というイベントが開かれ、人員誘導や施設の使い勝手の確認が行われている。決定直後にはオリンピック返上や施設の工事遅れ等様々に噂されたが、凡そ作業は順調なようである。しかし、引っかかるのはシュミット委員の“遺産”発言である。これらは具体的にオリンピック後の競技場や施設等、有形無形の資産を活用しようという意味である。嘗て、1964年の東京オリンピックでは国際競技場が作られ、代々木という東京のど真ん中に巨大な施設を残した。しかし、その稼働率はドーム型球場やアリーナ型大会場と比べても、決して良いものとは言えない。では、平昌はどうなのだろうか? アイスアリーナ、スピードスケートリンク、ホッケーセンター、カーリングセンターが半径500m以内に集まっている。つまり、4つもの国際規格スケートリンクが集中しているのである。オリンピックセンターとしては確かに使い勝手が良く、観客の移動にも便利だ。しかし、オリンピック終了後、人口僅か22万の都市に、この種の大規模施設が有効活用できるのだろうか?

組織委は、大会後の利用方法を検討している。『江陵アイスアリーナ』は市民体育施設に、『江陵カーリングセンター』は市民総合体育館に改修される予定だ。こうした体育館の運営費を維持をするには、大きな費用を徴取し難いアマスポーツよりも、プロスポーツや音楽コンサート等、エンターテインメント興行による活用が不可欠な筈だ。しかし、韓国では経済の悪化が深刻で、これら興行ビジネスは低迷したままである。野球、サッカー、バスケットボール、バレーボールの4大人気競技の内、その頂点にあるサッカーですら、各会場での集客が過去最低を記録更新し、身近な興行ビジネスである筈のボクシングや格闘技に至っては、業界自体が崩壊寸前なのである。リンクや屋内型のスポーツ施設は、スケート等のウィンタースポーツの場として、市民の生活に利用価値はあるだろうが、市民スポーツの場合、利用が人口に比例する為、小さな自治体では大きな利益の循環は見込めない。更に、ホッケーセンターの利用方法は未定なままだ。スピードスケートリンクに至っては、冷凍倉庫転用が検討される始末なのである。同様の問題を、鎮川選手村も抱えている。鎮川は、約160万㎡の敷地に、訓練施設21ヵ所、宿舎8棟が建ち並ぶ嘗てない大規模な選手村だ。これをどのように使っていくのだろうか? 『韓国観光公社』は国際的観光地として再開発し、大規模リゾート施設を目指すというが、ソウルから車で2時間もかかるこの場所で、山間部リゾートが成功する保証はひとつも無い。観光団体は「オリンピックの成功には観光立国化が心須である」として、オリンピックを契機に観光客増として年間2000万人の訪問客を目標としている。ところが、昨年のデータでこそ1700万人で過去最高だったが、その前年は1100万人で前年より下降。世界有数のビーチリゾートがあるわけでもない韓国に、日本よりも多い2000万人の観光客が安定して訪れるようにするというのは、かなりハードルの高い目標だ。開催地の江原道を世界的な観光に生まれ変わらせるべく、オリンピック特区(平昌・江陵・旌善)を中心に『2018平昌観光ロード十選』の旅行コースを選定し、伝統文化観光資源化事業、オリンピック広報館、アルペンシアスキージャンプセンター等をコースに含めたキャンペーンを行ってはいる。しかし、抑々、オリンピックで他国まで行って観戦する客は少ない。2012年のロンドンオリンピックでの海外渡航客は凡そ120万人程度で、オリンピック開催中は寧ろ一般観光客が混雑を避け、却って客数が減少したぐらいだ。昨年のリオデジャネイロオリンピックは僅か40万人程度の渡航しか生まれず、外国人向け商売をあてにした事業者は大赤字になった。開催期間は羽田・平昌間の直行便が計画されているというが、日本からオリンピックの生観戦に100万人単位で渡航者が増えるとは、とても思えない。

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昭和最大の都市伝説…“ダルマ女”はアジアの見世物小屋からストーリーが始まった

アジアを旅行していた観光客がふと立ち寄った見世物小屋。舞台の上には、手足を切断された女が日本語で「助けて…」と哀願してきた。“アジアの見世物小屋”というところが妙に説得力があるのだが…。 (取材・文/フリーライター兼編集者 室橋裕和)

20171003 01
「両手両足を切断された日本人の女の子が、インドでサーカスの見せ物にされているらしい」。そんな噂話が、アジアを旅するバックパッカーたちの間で語られていた時期がある。「観客で賑わうサーカス小屋。空中ブランコや象の曲芸等、華やかなショーの舞台は、ある時、暗転する。そして、恐ろしげな音楽の中、首を鎖で繋がれて引きずりだされてきたのは、手足を失った、まるで芋虫のような達磨のような全裸の女。よく見れば、それは日本人だった」。安宿のロビーや大部屋で、旅行者たちは固睡を飲んでそんな話に耳を傾けた。旅行者の口から口へ語り継がれ、広まっていった一種のフォークロア(都市伝説)だと言われる。物語の舞台やシチュエーションは様々だ。インドではなく中東だったり、サーカスではなく祭りの時に立つ見世物小屋だったりする。「さらし者になっているのではなく、場末の売春宿でひっそりと客を取っていた」という話も流れる。しかし、いずれにせよ異国の地で地獄を見てきた彼女は、同胞である日本人の姿を客の中に認めて、苦悶の表情でこう絞り出すのだ。「にほん…たいし…かん…」。この呻き声を聞いたバックパッカーは恐怖に駆られ、その場を逃げるように後にしてしまう。それから、ダルマ女がどうなったのかはわからない――。これがストーリーの締め括りだ。

全ての話に共通しているのは、“実際に見た者は誰もいない”という点。「他の旅行者から聞いたんだけど…」「タイで流れている噂なんだが…」と前置きした話が、旅人たちの間で伝わってきた。こうした怪しげな噂が流れるだけの素地が、嘗てのアジアにはあった。街角では、手足の無い路上生活者を目にすることは日常的だった。病気だったかもしれない。事故の被害者もいただろう。そして、「より同情を引けるから…」と、幼いうちに我が子の手や足を切断し、不具にしてしまう路上生活者も実在していたという。また、売買春は今以上に横行し、女性は人権も無く、性奴隷のように扱われていた時代も、そう昔のことではない。凄惨な売春窟を目の当たりにした旅行者も多い。そして、“海外”というものがまだまだ遠く、日本人は外国に対する恐れを持って旅していたのだ。それがアジアであれば、人権意識の低さ・モラルの低さ・治安の悪さといった偏見であったかもしれない。「ダルマ女は、こうした様々な要素が現地を旅する旅行者たちの心の中でミックスされ、自然発生的に現れた都市伝説ではないか?」と言われている。こうした噂話は、インターネットの普及と共に、いつの間にか消えてしまった。少子化・草食化の影響で日本人バックパッカーの数が減ったこともあり、語り部そのものが少なくなった。しかし、アジアの闇は未だ深い。今でもどこかに、囚われのダルマ女が苦しみの声を上げている可能性は、決してゼロではないのだ。


キャプチャ  消された日本発掘号掲載

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プエルトリコへのアメリカの嘆かわしい救助対応――関心薄いメディアの異常性、ヒラリー・クリントンに促された海軍の情けなさ

20170929 02
アメリカ自治領プエルトリコが、1度ならず2度までハリケーンに直撃され、前例の無い壊滅的被害を受けている。先週、1928年以来最大の勢力でプエルトリコを襲ったハリケーン『マリア』は、時速155マイル(※約250㎞)の暴風を伴って上陸、豪雨を齎した。340万のプエルトリコ住人は、数ヵ月続く可能性がある停電に見舞われ、水や通信手段を奪われた。道路は冠水し、病院や家は破壊され、今や公衆衛生上の危機に瀕している。被害の規模に比べて、これまでのアメリカ政府の反応は恐ろしく不適切だ。マリアと、その前にテキサス州を襲った『ハービー』という2つのハリケーンのアメリカ本土来襲時に比べた救助対応の遅れについて、ドナルド・トランプ大統領はわかり切ったことを並べて釈明している。アメリカの自治領であっても州ではないプエルトリコについて、「大海に囲まれている島だ」とトランプ大統領は言った。だから、「必需品や人員を送る際に輸送上の問題が加わる。今まで、必要な援助物資の殆どは空輸されている」と。確かに、救助活動は拡大しつつある。破産状態にあるプエルトリコの救助費負担を免除したトランプ大統領は、現地を視察する計画だ。だが、アメリカ本土のフロリダやテキサス等、被害がより限定的な地域に比べ、プエルトリコの惨事に対するアメリカのメディアや政府の関心が遥かに薄いのも事実だ。

2016年の大統領選でトランプ氏のライバルだったヒラリー・クリントン元国務長官に促されて、海軍の病院船が今週派遣された。マリアがプエルトリコを直撃するという事前警告があったことを考えれば、抑々、より大規模な備えをすべきだったのだ。今回の危機で、アメリカの旅客・貨物輸送等に関する不可解で保護主義的な商船法(『ジョーンズ法』)の廃止を求める議論も復活した。ジョーンズ法は「アメリカの内航船は全てアメリカ建造でアメリカ船籍でなければならない」という法律で、元々、第1次世界大戦の直後、軍事需要に応えられるアメリカ商船を十分確保する為に可決された。この法律はプエルトリコ住民に人為的コストを押し付け、貿易を歪め、プエルトリコが貧窮する要因になった。『国際通貨基金(IMF)』によると、アメリカからプエルトリコへの輸入品の価格は、同法が適用されない近隣の島々と比べて、少なくとも2倍に上る。燃料・エネルギー費も比較すると高い。ジョーンズ法の一時的適用免除の要求は当初、アメリカに退けられた。プエルトリコの知事は、「緊急に承認されるよう期待している」と語っていた。プエルトリコがこの災害から完全に立ち直れるのかははっきりしない。だが、ジョーンズ法から免除されれば、様々な場所からの緊急物資が直ちに届き、今後の経済刺激に繋がるかもしれない。プエルトリコを苦しめる経済・財政危機は、この20年間でアメリカへの脱出者を着々と生み出してきた。若し、復興の取り組みの優先順位を上げられず、官僚主義的な障害が取り除かれなければ、マリアは住民流出を深刻化するだけだ。この悲劇は一部、プエルトリコの置かれた特異な立場が齎した結果と見做さざるを得ない。プエルトリコは定期的に、州としてアメリカに加わるかを巡って投票し、結論が出ないままできた。州として加われば、議会に議員を送り、その窮状について切迫感を高めることができるだろう。そうなれば、結果として、必要な資源がもっと早く動員されていたかもしれない。それと同時に、プエルトリコの人たちに対して、「この秋のハリケーンで同胞のアメリカ人を支援したのと同様の切迫感を持って援助できない」という言い訳等はできないのだ。


⦿フィナンシャルタイムズ 2017年9月28日付掲載⦿

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南アフリカの政治スキャンダル、企業に広がる余波――「深刻な判断の過ちを犯した」、大統領と繋がるグプタ家の謎

20170929 01
南アフリカで、監査を担う国際会計事務所『KPMG』とコンサルティング会社『マッキンゼー』が、インド系富豪のグプタ家に関連した政治スキャンダルの影響で、一段の打撃を受けている。このスキャンダルを巡っては、既にイギリスのPR会社『ベルポッティンガー』が破綻に追い込まれている。KPMGは19日、南アで更に2社の監査契約を失い、他の契約の見直しにも直面した。顧客は同社との距離を置こうとしている。マッキンゼーは、南アの最大野党『民主同盟(DA)』から、グプタ家関連企業に対する経営コンサルティング業務を巡って不正行為と談合の汚職疑惑を受けている。グプタ家は、「ジェイコブ・ズマ大統領との繋がりを使って国営企業の契約を不正受注した」と非難されている。DAは19日、グプタ家の関係者が所有する『トリリアンキャピタル』との業務を巡り、マッキンゼーに対する申し立てを行った。グプタ家は、国営電力会社『エスコム』との大型契約の受注で圧力をかけたとされている。

マッキンゼーは、トリリアンに対する支払いや、支払いの承認を否定。更に、「(トリリアンに対して)エスコムが行った支払いを承認するよう依頼されたことは一度も無い。正式な取り調べや捜査には全面的に協力する」としている。KPMGは、KPMG南アフリカがグプタ家関連企業の監査で「危険信号を見落としていた」と認め、南ア拠点の幹部8人が退陣した。グプタ家とズマ大統領は疑惑を否定している。KPMGインターナショナルのジョン・ビーマイヤー会長は19日、「KPMG南アフリカで起きた不祥事に対して」謝罪した。「KPMGインターナショナルは、独立した弁護士の支援を受けて調査に着手した。調査により、南アフリカ歳入庁(Sars)向けに作成した報告書に多くの欠陥があり、長期間に亘ってグプタ家の業務継続の決断に多くの過ちがあったことが判明した。KPMG南アフリカは、こうした関与について深刻な判断の過ちを犯した」と同氏は言う。KPMGが18年間、監査を手掛ける金融サービス会社『サスフィン』は、「KPMGに関して最近、広く報道されている懸念を考慮して」新たな監査機関を探すと表明した。南アの投資会社『フリサニ』も、2年間監査を担当したKPMGを外したことを認めた。KPMGは既に、資産運用会社『シグニア』を顧客として失っている他、イギリスの『バークレイズアフリカグループ』、南ア大手銀行の『ネッドバンク』、不動産投資信託の『ハイプロップ』もKPMGとの関係を見直している。南アの投資銀行で資産運用会社の『インベステック』は、20年来のKPMGとの関係解消の是非を議論する為、「20日に監査委員会を開催する」と明らかにした。 (Madison Marriage・Joseph Cotterill)


⦿フィナンシャルタイムズ 2017年9月20日付掲載⦿

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中国発通貨危機の不気味な予兆――反習近平派が“経済政変”で反撃、権力闘争の舞台は経済に

20170927 03
中国の人民元を巡る危機説が再び高まりつつある。成長率が反転上昇する等、中国経済のリスクは低下しているようにみえるが、通貨安定の要となる外貨準備の更なる毀損、資本流出が底流で加速しているからだ。資本市場では、中国の金融機関向けに、上乗せ金利『チャイナプレミアム』も出現した。中国国内の習近平国家主席への対抗勢力がアメリカのファンドと組んで、人民元下落を仕掛けようとする動きもある。中国が新たな通貨危機の震源地になるシナリオを真剣に検討する時が来ている。先月14・15日に北京で開催された『全国金融工作会議』は、終始、異様な空気に包まれていた。共産党大会に合わせて5年に1度開かれる重要な会議だが、過去4回は首相が議長を務め、講話を行うという首相主導の会議。共産党総書記は出席しないケースもあったが、今回は習主席が中央に陣取って発言を繰り返し、金融安定の重要講話も行ったからだ。李克強首相は完全に隅に追いやられた。「金融の安定は、国家の安全にとって極めて重要なものである」。会議に出席した金融関係者を更に驚かせたのが、習主席の講話で飛び出したこの件だ。金融を国家の安全と結び付けたことが、只ならぬ異変を感じさせたからだ。会議での習主席のパフォーマンスや講話内容は、実はこの数ヵ月、金融市場で蠢いている策謀に対する警戒と対抗と言ってよい。策謀とは、共産党内部で“経済政変(クーデター)”と呼ばれるようになった動きだ。人民元や株式市場を暴落させ、経済混乱を巻き起こすことで、習政権の足元を揺るがし、今秋の党大会で習主席に対峙する勢力を強めようという狙い。言うまでもなく、習政権が懸命に追い落としをかける江沢民派や、石油・電力・通信等の巨大国有企業、人民解放軍の一部等が“策謀”に関わっているとされる。

その中で極めて特異的なのは、アメリカ系投資ファンドの影がちらつくことだ。バラク・オバマ政権時代には、ウォール街との協調路線で、中国企業のグローバル市場への展開、資本調達、M&Aを進めた習政権だったが、ドナルド・トランプ政権との間には隙間風が吹き、アメリカ金融界の対中姿勢も冷却化した。アメリカ側には、「金融協力が中国の国力や軍事力を高め、我が国の国益にとってマイナスになった」との見方が強まっている。「中国の伸張を抑え、アメリカの力を中国に知らしめる必要がある」というのが、ある種のコンセンサスだ。アメリカ滞在中の中国の富豪・郭文貴が、習政権の腐敗を次々に暴露しているのは、言うまでもなく江派の差し金だが、それを後押ししているのは、郭の滞在を認め、保護策も講じているトランプ政権。江派とトランプ政権の一部には、ある種の協調・連携が生まれているとみるべきだ。問題は何故、習対抗勢力とアメリカが金融に目を付けたかだ。2014年以降、目減りが続き、資本流出が騒がれた中国の外貨準備は、ここ半年は3兆300億ドル水準で安定している。依然として世界最大の外貨準備高で、習政権も中国経済の安定性の宣伝材料にしているが、実際はアメリカ国債等流動性資産は3分の1以下で、3分の2は固定投資に向けられ、その過半は不良資産化している模様。日本の外貨準備は、財務省による円高阻止のドル買い介入で構築されたもので、大半が流動性の高いアメリカ国債に投資されている。中国の外貨準備は、企業が受け取った輸出代金を強制両替させたり、外資の直接投資の持ち込み外貨が銀行に集められたものが出所で、日本の外貨準備とは性格が異なる。しかも、中国国有企業によるM&Aや、『ブラックストーン』等投資ファンドへの出資にも支出されており、流動化が困難なものや巨額の含み損を抱えた案件が多くを占める。更に、中国政府が保有するアメリカ国債も、実際には「国有企業の資金調達の担保として差し出されているものが相当量ある」と、中国の金融関係者は指摘する。要は、中国の外貨準備は空洞化しているのだ。別の角度でみると、企業の内部留保にあたる国家の純資産は、日本が3兆ドルを超え、国内総生産(GDP)の60%超に達しているが、中国は1兆8000億ドル程度とGDPの16%に過ぎない。中国経済は、その巨大さが見かけの安定感を醸し出しているが、外貨や資本移動が関わる分野では、意外なほどに安定性やリスク耐性が脆弱。習政権への対抗勢力や、国家に空売りを仕掛けて暴利を得ようとするアメリカの投資ファンドが目を付けたのは、そこなのだ。「王健林は巧みに中国から足抜けし、海外資産を守った」。中国最大の不動産グループ『大連万達集団』の創業者である王について、中国の金融関係者はこう語る。「習政権は万達の債務が過大で、市場のリスクを高める」と批判。それを受け、万達は国内のホテル77軒とテーマパーク13ヵ所を、総額637億元(約1兆600億円)で同業2社に売却した。

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存在価値ゼロの国連人権理事会――北朝鮮も実質“お咎め無し”、世界に残虐行為が蔓延する元凶

20170927 01
「政治犯収容所では、計画的な飢餓・強制労働・処刑・拷問・レイプが組織的に行われている」「50年間に数十万人の政治犯が収容所で死亡した。筆舌に尽くし難い残虐な行為が続いている」「公開処刑は1990年代に一般的に行われ、現在も続いている」――。いずれも、『国連人権理事会』が昨年3月に採択した、北朝鮮の人権に関する非難決議の文言だ。北朝鮮は、金正恩委員長の異母兄・金正男氏の暗殺事件で、その非人道的統治が再び注目されているが、国連は以前から、日本人拉致事件も含め、北朝鮮の人権侵害について最低限の事実を掴んでいた。人権理事会の北朝鮮非難決議採択は春の恒例行事で、昨年の決議は12年連続12回目だった。それにも拘わらず、北朝鮮が国連の非難を歯牙にもかけないのは、具体的措置が取られないことをわかっているからだ。悪いことに、人権理事会自体に「世界の人権状況を本気で改善したい」という意図が殆ど見られない。世界最悪の人権侵害国家はどこか? 仮に国連に判断を委ねれば、答えはイスラエルだ。人権理事会は、過去10年余りで70回近く、イスラエル非難決議を採択している。内戦下で人権侵害が極限まで悪化しているシリアと北朝鮮がこれに続くが、非難決議の数は其々、イスラエルの4分の1から5分の1程度でしかない。イスラエルの人権侵害状況について、国際人権団体『ヒューマンライツウォッチ(HRW)』は昨年の報告で、「イスラエル当局は、パレスチナ人の平和的な抗議行動を恣意的に弾圧している」とした上で、「2015年に、イスラエルは少なくともパレスチナ人120人を殺害し、1万1953人を負傷させた。パレスチナ側は17人のイスラエル民間人、3人の兵士を殺害した」と指摘した。

一方、HRWは北朝鮮について、「国家が行う暴力の深刻さと規模・悪質さは、現代世界で比類がない」とずばり断定する。人権理事会決議を引用しながら、過去の「数十万人の死亡」に加え、今も北朝鮮国内の収容所に「8万~12万人が拘束されている」とも指摘。これはイスラエルの比ではない。HRWのシリア報告では、「2015年10月までに25万人が殺された」「政府の拘束下による残虐な拷問で、数千人が死亡」等、身の毛がよだつ描写が並ぶ。国際人権団体が例外なく北朝鮮とシリアの人権侵害を強く糾弾するのに、国連人権理事会がイスラエル=パレスチナ問題に固執するのは、理事会自体の仕組みに問題があるからだ。前身の『国連人権委員会』は、1946年に創設。1993年には、『国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)』が常設機関として設置された。だが、人権委会合は年1回、6週間だけジュネーブで開催されるのみ。人権監視と言っても、年に1度、非難決議を出すだけで、実効性はゼロだった。この反省から、同委員会は2006年に理事会に衣替えした。だが、実際の違いと言えば、開催期間が年間で合計10週間以上に延びたことと、理事国が53から47に減らされた程度。理事国(※任期3年で連続3選禁止)は地域毎に、国連加盟国数に応じて割り振られる為、アフリカとアジアが各13と最大多数を占める。その顔ぶれがまた凄まじい。アジアの現理事国に例を取れば、サウジアラビア・アラブ首長国連邦・イラクの中東3ヵ国は其々、拘束者に対する拷問・恣意的弾圧・報道&表現の自由の抑圧で、世界中の人権団体から非難を浴びる。特にサウジアラビアは女性の行動制限が著しく、車の運転は厳禁で、保護者の許可無しには結婚も旅行もできない。一昨年春以降は、イエメンでの軍事行動が「無差別な一般市民殺害」「クラスター弾等残虐な武器使用」(※いずれもHRW年次報告)との新たな非難を集めている。中国は、「表現・集会・宗教の自由等広範な基本的人権を、組織的に抑圧している国」(同前)だ。アメリカに拠点を置く非政府組織(NGO)『フリーダムハウス』の自由度指標では、ほぼ全項目で下から20番目辺り。中東各国と同様に、最近では人権活動家(※特に弁護士)を狙って弾圧を行う点で、各人権団体から「理事国になること自体が間違い」と批判を集める。ロシアは、昨年の選挙で落選するまで、東欧から理事国に名を連ねた。アフリカからは悪名高いエジプト。アラブ圏の計6ヵ国の理事国にとって、人権理事会はイスラエルを凹ませる為の新たな国際舞台でしかない。ユダヤ教聖職者として人権問題に取り組むエドワード・レッティング氏は、「ここまで理事会が偏っていては、理事会の信用を損なうどころか、“人権”という概念そのものまで信頼性を失ってしまう」と述べ、国際政治の道具と堕した人権理事会を批判する。

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【東京五輪後の地方経済を読み解く】(16) デトロイトの中心部は『GM』だらけになっていた!

20170925 01
「この街が危険だって!? ニューヨークのほうがよっぽど危険だよ!」――白人のタクシー運転手が、日本人が聞き取り易い発音の英語を喋りながら笑う。日本企業も多いことから、日本語のアナウンスも流れる空港からデトロイトのダウンタウンまでは、タクシー(※『Uber』を利用)で30分だ。ダウンタウンを走ると、大きなビルが多いものの、外を歩く人が少ないことに気付く。日本では「デトロイトはスラム化し、危険な街と化した」と言われているが、危険どころか、殆ど外には人がおらず、ゴーストタウンに近いのだ。これでは、人が少な過ぎて安全かもしれないと思うほどだ。2013年、『ゼネラルモーターズ(GM)』や『フォード』等が本拠地を構えた“モータウン(自動車の街)”ことデトロイト市が、連邦破産法第9章を申請し、破綻した。負債総額は180億ドル(1兆8000億円)で、アメリカの自治体の破綻としては過去最大規模となった。1920年代からアメリカの主要な自動車メーカーが本拠地を構え、世界最大の自動車の街として栄えてきたデトロイトだが、2007年の住宅バブル崩壊で財産税収(固定資産税)が急落し、2008年のリーマンショックをきっかけにした世界的な金融危機で、住民税収(所得税)も大きく落ち込む一方で、市職員や退職者の年金/社会保険料は高騰。破綻を余儀なくされたのだ。債務削減の為に、警察や消防の予算をカットし、犯罪が急増。総犯罪件数は全米平均の約2.5倍、殺人9倍、暴力犯罪約7倍、レイプ約3.5倍…。まさに最悪のスラム都市となった。それから3年が経ち、現在のダウンタウンの中心部は地価上昇も始まっているという。一体、デトロイトに何が起きているのか? 現地を取材してみた。

確かに、デトロイトの多くの廃嘘は解体され、空き地が目立つ。但し、ダウンタウンは開発された時期が古く、その中心部には築100年のビルが林立している。これらのビルは空きビルが多く、ゴーストタウンと化しているのだが、中心部にあるGMの本社周辺は高級ブティックや高級ホテルが立ち並ぶ等、活気がある。GMの本社から離れるにつれて人気が無くなり、5分も歩けば、ガイドブックには「夜は出歩かないように」と書かれたバスターミナルに辿り着く。つまり、デトロイトの中心部は、GMの本社と、その経済圏だけが残っている状態だ。GMの本社ビルの背後には、『全米自動車労働組合(UAW)』の関連施設と高級住宅街が並んでいる。大規模都市開発された高級な雰囲気のある光景は、スラム都市と言われた街とは思えないほどだ。「GMの労働者は、川の向こうのカナダからやって来る。又は、自動車で周辺の郊外都市――アナーバー、ディアボーン、サウスフィールドからやって来るんだ」と、前出の運転手は苦々しそうに話す。嘗てのデトロイトは、自動車産業の発展に伴い、人口は増大、ピーク時には180万人を超えていた。だが、1980年代以降のアメリカの自動車産業の衰退に合わせて人口も減少し、2009年6月にGMが連邦破産法第11章の適用を申請し、国有化(※2013年12月に財務省が保有するGMの全株式を売却し、国有化が終了)される頃には、70万人近くにまで減少してしまった。というのも、道路網の整備で、自動車産業のホワイトカラー層や、日本等からの駐在員が多く住む住宅エリアが、郊外に多数開発された。その数、22都市だ。中でも、ミシガン大学のあるアナーバー(※デトロイトから車で1時間。但し、アナーバーの街の歴史も古い)等は、高級住宅街として知られている。富裕層ほど、デトロイト市の高い税金(※住民税・財産税)を避けて、周辺部に住みたがる。一方で、残されたデトロイトの中心部に住むのは、サービス業等に従事する低賃金労働者や、郊外都市に移るに移れないブルーカラー層と二分化していたのだ(※現在のデトロイトでは黒人比率が高く、85%を占め、3分の1が貧困層とされている)。GM本社で働く選ばれた人々は、治安が良く、教育・医療の充実したカナダや周辺都市に住み、デトロイトにはお金を落とさないのだ(※GM本社の隣にカナダへ一直線のトンネルがある)。人口規模が急速に縮小するのに合わせて、ダウンタウン全体が縮小しているその悪循環の中で起きたのが、デトロイト市の破綻だったのだ。また、住民に対しては税金が高いが、企業に対しての優遇措置も半端ない。デトロイト市では、GMに市税を優遇するところか、大規模工業用地の収用・開発に積極的に協力した。

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【2017独総選挙・メルケルの選択】(下) 柔軟な政策、“1強”盤石

20170922 08
2005年11月から首相を務めるアンゲラ・メルケル氏の在任期間は11年9ヵ月。西ドイツ時代も含め、戦後のドイツでは、初代首相のコンラート・アテナウアーの14年1ヵ月に次ぐ歴代3位の長さだ。来月の連邦議会選挙で、メルケル氏を首相候補に擁する中道右派『キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)』が勝利し、首相に4選され、4年の任期を全うすれば、メルケル首相は、在任16年で最長記録を持つ“統一宰相”ヘルムート・コール氏にほぼ肩を並べる形となる。「若し、私が国民の信頼を得て、もう一度選ばれたなら、4年間を全うするとはっきりと言ってきた」。メルケル首相は今月20日、視聴者参加型のテレビ番組で、2021年まで首相を続ける意欲を示した。メルケル首相は東ドイツで育ち、1989年の『ベルリンの壁』崩壊後に物理学者から政界に飛び込み、約15年で女性で初めて首相の座に就いた。異色の経歴を持つメルケル首相が長期間政権を維持している要因を巡り、ドイツ国内でも様々な分析が試みられてきた。コラムニストのメリー・キヤク氏は有力紙『ツァイト』で、「今日まで汚職や嘘が浮上したことが無い。正しく、信頼できると思われている」と指摘し、“クリーンさ”を挙げる。メルケル首相を見い出した“恩師”のコール氏は、1998年の首相退任後、自党の不正献金疑惑が発覚し、東西統一やヨーロッパ共通通貨『ユーロ』導入といった首相時代の功績を汚した。

メルケル首相の前任のゲアハルト・シュレーダー氏(社会民主党)は、ロシアとの近過ぎる関係が“癒着”と批判されている。加えて、「保守的な党の立場を捨て去る」(公共放送『ARD』)メルケル首相の“しなやかさ”が要因との見方が強い。今年6月、メルケル首相は、CDU・CSU内には反対派も多い同性婚の合法化について、「(個人の)判断に従う」との考えを示し、合法化の流れを作った。選挙公約でも、2大政党の一角で、大連立を組む中道左派の社会民主党(SPD)が掲げた大型減税等の主要公約を“拝借”した。この結果、社会民主党の支持は伸び悩む。メルケル首相が2011年に原子力発電所の全廃を法制化する“脱原発”に大転換し、“お株”を奪われた環境政党『緑の党』も低迷。他党の持ち味を消す形となっている。CDU・CSU内にも、メルケル首相を脅かす存在はいない。現在63歳のメルケル首相は、自身名義の『ツイッター』は持っているものの、自ら書き込んでいないとされる。それでも若年層の心も掴む。6月公表の世論調査によると、選挙権を持つ最も若い世代(※18~21歳)の57%がメルケル首相を支持していた。若者には、「親しみ易いお婆ちゃん」(高級紙『フランクフルターアルゲマイネ』)と映っているという。ヨーロッパではドイツの“独り勝ち”状態が続く経済状況も、メルケル首相を後押しする。『ドイツ連邦銀行』は今月21日、「今年の経済成長率が当初予測の1.9%を上回る」との見通しを明らかにした。輸出や消費が堅調なのが主な要因で、失業率も3.9%(※今年5月)と低水準だ。政治学者のゲーロ・ノイゲバウアー氏は、「ミラクルが起きないとは言えないが、メルケルの時代は未だ続くだろう」と予測。「メルケル首相“1強”が当面続く」との見通しを示した。

               ◇

ベルリン支局 井口馨が担当しました。


⦿読売新聞 2017年8月25日付掲載⦿

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