【Global Economy】(49) 人口減、日本の成長シナリオ…現状打破には技術革新

人口減が進み、最早、経済成長は期待できないのか? 成長を諦める悲観論は危うい。厳しい現実を直視した上で、成長シナリオの実現に力を注ぐべきだ。 (本紙編集委員 黒川茂樹)

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「日本は急速な高齢化と労働力の競少に直面し、改革をより急ぐ必要がある」――。『国際通貨基金(IMF)』は、先月31日に公表した審査報告書で強調した。「現状維持で良い」という風潮に警鐘を鳴らすものだ。社会を支える15歳から64歳までの生産年齢人口は、1997年までは8700万人台だったが、2016年は約7600万人と1000万人以上減った。今後も年1%近いペースで減少する(※グラフ①)。人口全体でみると、ピーク時からの減少は100万人ほどだが、少子高齢化が進んだ為、生産年齢人口の落ち込みが著しい。一方、日本経済の規模を示す名自国内総生産(GDP)額でみると、2016年度は537兆円と、ピークだった1997年度(533兆円)を上回り、史上最高の水準になった。立正大学の吉川洋教授は、「人口減少ペシミズム(悲観主義)が行き過ぎている」と主張する。働き手が少し減っても、生産性を高め、1人あたりの労働者が作り出すモノやサービスが増えれば、成長率はプラスにできる。カギを握るのは、成長力を高めるイノベーション(技術革新)だ。現在、日本経済の実力を示す潜在成長率は、年0.8%程度だ。生産性の伸びを2%に高めることができれば、人口減による押し下げ要因が1%程度あっても、実質1%のプラス成長ができる(※グラフ②)。政府は、実質2%以上の成長で“名目GDP600兆円”の実現を目指すが、人口減による負の圧力が働く中では楽観的過ぎる。2015年度・2016年度の実質成長率は、共に1.2%だ。

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成長は何故必要なのか? 『世界銀行』で長く主任エコノミストを務めたブランコ・ミラノビッチ氏は、話題作『大不平等』(みすず書房)で、「経済成長は、世界の貧困と不平等を削減するための最も強力なツールだ」と断言する。「豊かな国の豊かな人たちが『これ以上の経済成長無しでもやっていける』と考えているが、それなら不況から抜け出そうとしないで祝福すればいいのではないか?」と手厳しい。欧米各国は、若者層と富裕層の格差拡大が問題になるからこそ、成長を重視する。フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、5月の就任演説で、「フランスの活力と繁栄に貢献する全てを実行する。文化と教育、更にイノべーションが私の行動の核心だ」と力説した。若者層の失業率は20%を超え、競争力強化に繋がる雇用市場改革に挑戦する。日本企業が海外市場で攻勢をかけるのは理に適う。M&Aの助言会社『レコフ』によると、日本企業による海外企業のM&Aは2016年、件数は前年より13%増え、金額は約10.5兆円になった(※グラフ③)。国連の予測をみると、日本の人口は2050年、今より15%減って1億人強になる一方、世界全体は約76億人から約98億人に増える。経済成長で所得が伸び、アジアやアフリカの購買力は高まるだろう。但し、市場の変化は激しく、成長に結び付けるのは簡単ではない。『東芝』はイギリスの原子力発電子会社のせいで苦境に陥り、『日本郵政』はオーストラリアの物流会社の買収で巨額損失を出した。日本企業は、高値掴みし、買ってからは現地任せで、海外子会社を掌握できていないケースが多い。50件以上のM&A全てを成功きせてきた『日本電産』の永守重信会長兼社長によると、買収の際には①先ず高く買わない②買収した会社の経営改革をしっかり進める③相乗効果を発揮させる――の3条件を満たす必要があるという。

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止まらぬ『シャープ』の人材流出…中堅社員が“鴻海体制”を見限る

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経営再建を進める『シャープ』だが、経営危機の深刻化して以降、続いている人材流出が、鴻海グループに入ってからも止まる兆しがない。「どこか良い転職先はないでしょうか?」――今春、関西のある有名大学の教授は、シャープのリクルーターとして研究室を訪れた卒業生の言葉に驚いた。在学中の後輩をスカウトするのが役目の筈のリクルーターが、転職先を求めていたのだ。深刻なのは、若手だけでなく、現場を支える中堅層がシャープを見放していること。業界関係者によると、あるマーケティング関連の部署では、十数名のメンバーの半数余りが、この1年の間にシャープを去ったという。その殆どが経験豊富な40代社員で、彼らの抜けた穴を急遽、他の部署から人を回して充当しているものの、戦力の低下は否めない。同部署の50代社員は、「自分は年齢的に先が見えているから、このまま残って逃げ切る」と自嘲したという。シャープは先月から人事報酬制度を改定し、成果に応じた賞与の支給や等級・給与を見直す等、社員のモチベーション向上に躍起になっている。だが、先月20日に開催された株主総会で選任された取締役は、鴻海出身者が3名から5名に増え、より鴻海色が強まっている。人材流出は今後も続きそうだ。


キャプチャ  2017年7月号掲載

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『三井住友銀行』のサラ金事業拡大へ…重債務者“量産”への策謀

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『三井住友フィナンシャルグループ』が、傘下の消費者金融会社『プロミス』を分割させる計画を水面下で進めている。プロミスが持つ債権を“過払い金請求”される可能性の有無で分類し、請求される可能性のないものについて、新会社に移行した上で、三井住友銀行傘下の管理会社に移すという手法が検討されているという。焦点は、新たに銀行直轄の新会社に契約先が変わる利用者への対応だ。新会社に変わる利用者については、所謂“サラ金総量規制”の枠から外れて、年収の3分の1を超える貸し出しが可能になる。プロミスであれば、消費者金融業者である為、上限があったが、銀行直轄になることで、この枠が取り払われるからだ。三井住友銀行は、3大メガバンクの中でもカードローン事業に注力している。昨年度の貸し出し残高は約7800億円で、共に4000億円台の『三菱東京UFJ銀行』や『みずほ銀行』を上回っている。プロミスを分割すれば、これを更に伸ばすことができる。銀行のカードローン事業については、新たなサラ金問題として社会問題になっているが、三井住友銀行は“抜け道”のような手法を使って、事業拡大を狙っているようだ。「金融庁はカードローンの拡大に目を光らせている」(金融庁担当記者)といい、今後、目をつけられそうだ。


キャプチャ  2017年7月号掲載

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防衛装備品納入で1位に返り咲くも…ケチがつく落日の『三菱重工』

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『三菱重工業』は防衛装備品契約額で1位に返り咲いたが、「水増しされた結果」(防衛産業関係者)と早速ケチがついている。防衛装備庁の2016年度実績によれば、三菱重工の契約額は4532億円。前年度が1998億円だったので、2000億円以上増加したが、「大きかったのは地対空誘導弾ペトリオット。これだけで1867億円の契約額を稼いだ」(同)。この迎撃ミサイルは、より高性能なものへと改良することが計画されている真っ最中。改良関連予算は、「実は今年度以降に発注されるものだったのが、急遽、第3次補正予算で昨年度に予算化された。これを今年3月末、年度が終わる寸前に三菱重工が随意契約で受注した」(メーカー幹部)のだ。北朝鮮の脅威が高まる中で予算化が前倒しされたというのが建前になっているが、「目下、三菱重工の経営難が際立ってきたタイミングとも重なる。それだけに、『政府が“ミルク補給”してあげたのではないか?』と勘繰る向きも出てきている」(同)。実際、1位に返り咲いたとはいえ、「三菱重工の防衛ビジネスは絶好調とは言えないのが現実。独壇場だったイージス艦では、ライバルのジャパンマリンユナイテッドに受注負けしている」(三菱重工社員)。この為、苦境に喘ぐ会社の救世主には、到底なれそうもない。


キャプチャ  2017年7月号掲載

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【堅調景気の実相】(下) けん引役・米中、減速懸念

20170809 05
世界経済は堅調に推移している。『国際通貨基金(IMF)』は、今年の成長率が3.5%と、昨年の3.2%から高まると見込む。先進国が底堅く、新興国は3年ぶりの高い伸びになる。日本経済も外需に支えられ、輸出は1~3月まで3四半期続けて前期を上回っている。だが、牽引役の米中の成長の基盤には不安を抱える。1~6月に8年ぶりに前年を下回ったアメリカの新車販売。アメリカの銀行大手『ウェルズファーゴ』は、4~6月期の自動車ローンの新規実行額が前年同期比45%減。ティム・スローンCEOは、「今年後半も下がり続けそうだ」と慎重にみる。需要一服の他、低所得層での焦げつき増が、融資の厳格化を通じ、消費を抑える。4~6月期のアメリカの実質成長率は、前期比年率2.6%。悪天候に祟られた1~3月期の1.2%からは持ち直したが、賃金の伸びが鈍い。昨年末には回復の目安とされる3%を窺ったが、年明け以降は2%台半ばに逆戻りした。“完全雇用”の下でも、内需の歯車が力強く回らない。「家賃の上昇や医療費の増加が、可処分所得を圧迫している」。アメリカの運用会社『TCW』のタッド・リベレ氏は、アメリカの消費の先行き不安を強調する。中国も波乱含みだ。4~6月期の実質国内総生産(GDP)は前年同期比6.9%増と高い伸びを保ったが、5年に1度の秋の共産党大会を意識したインフラ投資が支えた面もある。

6月下旬。雲南省昆明で2本の地下鉄を新設する槌音が響いていた。2020年の完成を目指す両線の総工費は約480億元(約8000億円)。官民パートナーシップ(PPP)と呼ぶ民間資本を活用した投資だ。PPPの事業総額は、計画段階を含め、3月末で14兆6000億元に達し、1年で7割増えた。投資マネーが企業を潤し、賃金増を通じて個人消費を下支えする。「ブームは党大会以降も続くのだろうか?」。ある鉄鋼メーカーの幹部は気を揉む。投資の過熱や無駄な工事も指摘され、「年末以降に景気の流れが変わる」との懸念がある。海運市況を示し、世界景気に先行するとされるバルチック海運指数は、3月の高値から3割下落した。『日本郵船』の内藤忠顕社長は、「想定より少し悪い」と語る。中国が輸入する鉄鉱石価格の下落が一因だ。「中国景気の冷え込みによる市況の腰折れ懸念は拭えない」(海運ブローカー)という。主要国が金融政策の正常化へ動いていることも、不安要素になり得る。6月末以降、ユーロ圏、イギリスの中央銀行総裁が緩和縮小に触れ、カナダは約7年ぶりの利上げを決めた。アメリカの『連邦準備理事会(FRB)』は、「利上げは急がない」としつつも、資産圧縮は秋にも始める意向だ。“カネ余り”の下で株高を謳歌するウォール街の関係者も、各国中銀の動きから目が離せない。正常化の試みは世界経済が安定してきた証しだが、拙速な動きは景気を冷やしかねない。金融緩和という“痛み止め”無しの安定成長に向け、政策の備えは心許無い。アメリカのドナルド・トランプ政権は医療保険制度の見直しに手間取り、10月までに必要な債務上限引き上げの目途は立たない。米中の包括経済対話は物別れに終わった。世界経済をリードすべき両国が、貿易摩擦で世界経済を撹乱するリスクさえ浮かぶ。日本経済はなお、海外頼みの構図が続く。安定成長の陰に隠れた火種への警戒は怠れない。 (取材・文/本紙景気動向研究班)


⦿日本経済新聞 2017年8月2日付掲載⦿

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【堅調景気の実相】(中) 値上げ値下げ、せめぎ合い

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『ヤマトホールディングス』は、当日配送に割増料金を設ける検討を進めている。配達員の負担を軽くすると共に、「価値に対して運賃を支払ってもらう」(山内雅喜社長)狙いだ。働き方改革は、無償が当たり前だったサービスの対価を浮かび上がらせる。戦後3番目の景気回復は、“人手不足の賃上げ”を齎し、消費の現場では値上げと値下げが鬩ぎ合っている。長崎ちゃんぽんが主力の『リンガーハット』で、国産野菜を多く使うメニューが人気を集めている。昨年8月に東日本の店舗で3%弱の値上げをしたが、今年3~5月の既存店売上高は4.9%増えた。消費者は、健康志向等、旬のキーワードを巡る商品にお金をかける“メリハリ消費”を強めている。『明治ホールディングス』のヨーグルト『R-1』は、免疫力の強化が期待できる菌を含む。「習慣的に買う消費者のおかげで値引きされない」(塩崎浩一郎取締役)という。景気回復で働く人は増えた。総務省が発表した6月の完全失業率は2.8%と、日本経済はほぼ“完全雇用”の状態にある。相続税や贈与税の算定基準となる今年分の路線価は、標準宅地で前年を0.4%上回り、2年連続のプラス。日経平均株価は2万円前後で推移する。雇用の安定と資産価格の上昇は、消費者心理を前向きにする。価格が高くても、価値を認めれば消費をする環境は整っている。内閣府が国内総生産(GDP)と同じ手法で計算した足元の実質消費は、2014年4月の消費増税前の水準をほぼ回復した。

ただ、『連合』によると、今年の賃上げ率は4年ぶりに2%を下回った。全人口の27%を占める高齢者には賃上げの恩恵が届き難い上に、物価の低迷で年金受取額が3年ぶりに引き下げられた。生活に身近な商品には、支出を切り詰める動きが残る。“値上げの春”――。今春、人材確保に向けた賃上げと原材料の値上がりを受け、ティッシュ・バター・はがき等、身の回り品で値上げが相次いだ。しかし、店頭の顧客は、単純な値上げは中々受け入れない。節約志向を映すのがインターネット通販だ。『スタートトゥデイ』が運営する衣料品販売サイト『ゾゾタウン』では、「低価格帯ショップの出店が増えている」(柳沢孝旨副社長)。飲料や洗剤等の身の回り品もインターネットで買う人が増えた。今や、インターネットを使った支出総額の内、13%が出前を除く飲食料品だ。消費回復の壁は、20年デフレで根付いた“デフレ思考”だ。値動きの大きい生鮮食品を除く6月の消費者物価指数は、前年比0.4%の上昇に留まった。『BNPパリバ証券』の分析では、各品目の支出割合を加味すると、全体の42%は今の景気回復期を通しても年平均の変化率がプラスマイナス0.5%の範囲にある。政府は今年の経済財政白書で、「物価はデフレ状況にはない」とした。523品目の消費者物価を見ると、6月時点で全体の半数強にあたる279品目が値上がりし、急激な物価下落が起きる状況ではない。しかし、足元では上昇品目の数はじわじわと減少している。日本経済の需要と供給の関係を示す“需給ギャップ”は需要超過に転じ、物価に上昇圧力が働く条件は整いつつある。働き方改革を転機に、企業が収益力を高める努力を続け、価値の高い商品とサービスを生み出すことが、20年デフレの処方箋となる。 (取材・文/本紙景気動向研究班)


⦿日本経済新聞 2017年8月1日付掲載⦿

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【堅調景気の実相】(上) 人手不足、経済動かす

景気の回復が続いている。企業は海外需要を取り込んで収益を伸ばし、国内の設備投資にも前向きに動く。人口減での景気回復は賃上げの波を生み、物価も一方的な下落は収まった。だが、賃上げで消費が活発になり、デフレから抜け出す“好循環”には道半ば。人手不足を転機に、企業が生産性を上げ、持続的な賃上げに繋げれば、息の長い景気回復になる。

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半導体製造装置の『東京エレクトロン』は今月1日、社員の役割や責任に応じて給与を払う人事制度を取り入れた。日本で働く約7000人の給与総額は、制度変更で年約20億円増え、若手や中堅を中心に給与が上がる。人材への投資を支えるのは、好調な業績だ。スマートフォンの高機能化等を受けた世界的な半導体市況の回復を受け、2018年3月期は2期連続の最高益を見込む。今夏のボーナス支給額は平均173万円と、前年から47%増えた。世界経済の回復が景気の追い風になっている。『日本銀行』の統計で見た1~6月の実質輸出は、前の期に比べて3.9%増。東日本大震災からの回復期を上回る伸び率だ。企業の設備投資にあたる5月の資本財出荷は、1~3月平均より6.1%増えた。4~6月の実質経済成長率は、「6四半期続けてプラス成長になる」との見方が多い。外需に支えられた景気回復が進む中、人手不足は急速に進んでいる。働く世代の中心となる20~64歳の人口は、5年前に比べると474万人も減った。好況下の働き手不足は、賃上げの波を生む。スーパーマーケット大手の『ライフコーポレーション』は、今年3~5月の連結営業収益が前年同期より3.8%増えたのに、営業利益は24%減った。増収減益の一因は、低価格戦略で事業を伸ばす中で、必要なパートの募集費用が上がったことだ。日本企業はデフレ期に、比較的安い賃金で働く非正規社員を増やしてきた。非正規の賃上げは、“賃金デフレ”からの脱却を後押しする。先月は、正社員の有効求人倍率が2004年に調べ始めてから初めて1倍台に乗り、賃上げは正社員にも広がる。『スナイデル』ブランドを展開するアパレル大手の『マッシュホールディングス』(東京都千代田区)は今年度、25歳以下の販売員の昇給率を、従来の10%程度から25%に引き上げた。「25歳までの経験は将来のキャリアに繋がる」と語る近藤広幸社長は、質の高い人材の定着を狙う。パートを除く販売員への先月の新規求人倍率は2.51倍。0.99倍だった5年前に比べると、新規採用は難しい。

電炉大手の『大和工業』は、今期に25%の最終減益を見込むが、月額平均1500円のベースアップを実施。『日本商工会議所』によると、今年度に定期昇給やベアをした中小企業の内、82.8%が「人材確保・定着が目的」と答えている。働く人が受け取る報酬の総額にあたる名目総雇用者所得は、この5年間で6%増えた。昨年の就業者数が平均で6465万人と、2012年に比べて185万人増え、賃金を貰う人が多くなった。賃金の総額は、日本経済がデフレに入る前の1997年末よりは7%も少ないが、リーマンショック前の水準は超えた。賃金が上がって消費が増えると、物価が上がり、収益を伸ばす企業が更に賃金を増やす――。人手不足の賃上げで、経済の好循環への歯車は回り始めた。次の一歩で壁となるのが、高齢化と人口減だ。2012年に比べて185万人増えた就業者の内、174万人は65歳以上の高齢者だ。賃上げの恩恵を受け易い25~44歳は94万人減った。働く人は増えたが、賃金の少ない層が多く、全体での賃金水準は回復の途上にある。『日本経済研究センター』が民間エコノミスト40人に聞いた“今後1年以内に景気後退になる確率”は27.6%と、高くはない。景気回復が続く間に、賃金を総額として押し上げる一段上の成長段階に移れるかどうか。焦点は、人手不足を契機としたビジネスモデルの転換だ。ファッションビルの『ルミネ』は、テナントの人手不足に配慮して、4月から全店の8割にあたる12店で閉店時間を30分早めた。営業時間の短縮は減収のリスクがあったが、4~6月の売り上げは約2%増。新井良亮会長は、「各店舗が短時間で接客する等の工夫をしたことが、良い結果に繋がった」と自信を見せる。24時間営業を止めたファミリーレストランの『ロイヤルホスト』も、4月以降、既存店売上高が前年を上回る。ランチタイムに店員を増やし、健康に拘ったメニューで高齢者や家族連れの来店頻度と客単価を上げた。『三菱UFJモルガンスタンレー証券』の宮崎浩氏は、「過剰なサービスを減らしても収益は落ちない為、社員の時間あたり賃金は増える。0%台後半の賃金上昇率は3%台まで上げられる可能性がある」と見る。過剰サービスの見直しや省力化投資等、人手不足の対応策は目先の賃上げを阻むが、低生産性からの脱却は稼ぐ力の向上に繋がる。深刻な人手不足の下で、生産性の向上策が漸く進み始めた。こうした努力を尽くした末に賃上げを加速させられるかが、景気回復の先行きを左右する。 (取材・文/本紙景気動向研究班)


⦿日本経済新聞 2017年7月31日付掲載⦿

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【男たちの貧困】(11) アラフォーでコンビニバイト時代が人生の最高月収…実母に見放された貧乏芸人、月収25万円が一生の夢

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「自分は先輩や色んな人から世話になってきたのに、この歳になっても後輩に奢ってやれないのが、何より辛いですね」――。そう悔しそうな顔で口にしたのが、ピン芸人として活動するムートン伊藤さん(39)だ。函館生まれのムートンさんが東京に出てくるきっかけとなったのが、母親の浮気だという。貧しい家庭で育った訳ではないのだが、18歳の時に、母親が実家の預金の他、ムートンさんが大学に進学する為に積み立てていたお金の全てを持ち逃げして、家を出ていってしまう。後からわかったことだが、レストラン経営をしている父親の店の売り上げも誤魔化して、浮気相手に貢いでいたのだという。おかげで、大学への進学も諦めざる得なくなったムートンさんは、東京に出てアルバイトをしながら芸人を目指すことになった。「上京して直ぐの18歳で養成所に入ったんですが、19歳から22歳まで一時辞めていた時期があって、単なるコンビニのアルバイト生活なのに、その時が人生で一番稼いでいました」。以降の約18年間で、翌月まで貯金ができたことが一度も無いと自嘲気味に語る。「今はピンで活動していますが、20代でコンビを組んでいた時、毎回何十人かライブで集客できるくらいに人気があった時期があるんです。でも、その時も芸人としての月の収入は僅か3000円でした。芸で稼ぐのは無理かと思っていたんですが、去年、地上波のレギュラーが決まって、12万~15万円ほど貰えるようになったんです。この間の3ヵ月間、芸人になって初めてアルバイトをしないで生活できたんです」。

ただ、それが終わると月収は直ぐに半分になり、更に今年になってまた半分の3万円まで落ちてしまったという。今はまた、時間があればアルバイトの生活だ。現在は新宿のバーで働いているというムートンさんだが、実は加勢大周を従兄弟に持つ。「丁度、僕が芸能界に入った時、彼の人気がピークだったんです。とても面倒見がいい男なので、大物の芸能マネージャーさんを紹介してくれたりしたのですが、如何せん“畑”が全然違うので、芸人としての仕事が増えることは残念ながらありませんでした。寧ろ、彼が薬物で逮捕された時、被害を被ったことがある制作サイドの人に、オーディションで『加勢関係はもういらねぇ』と言われたことはありましたね」。アルバイトも合わせた月収は、平均で12万円ほど。当然、節約しなければならない。「それこそ野菜とか、食パンしか食べないで過ごす日が何日もありますよ。ただ、10代の時はずっと実家のレストランの手伝いをしていたから、安い食材でもそれなりに味付けして食べられる料理を作る技術には長けています。それと、何かあるとご飯をご馳走してくれる制作のスタッフさんが何人かいるので、金が無い時は殆ど絶食状態で、じっとその誘いを待っています。で、ご馳走してもらえる時に目一杯食べる。『貧乏な癖に太っているな』と思われますが、お金が無いと炭水化物に頼ったり、ドカ喰いしたりするから、実は却って太り易いんです」。そんなムートンさんの夢は勿論、芸人としてブレイクすることだが、ことお金に関して言うと、「月に25万円稼げる身になりたい」と非常に謙虚だ。「人生で最も稼いだ月が、コンビニのアルバイトに専念していた時で22万円くらい。だから、残りの人生で何とかその金額を越えたいんです」。実母に見捨てられ、貧困と向き合う日々だが、ムートンさんに悲壮感はあまり感じられない。「芸人さんの中には裏で根暗な人も多いけど、どんな時も明るいのが僕の取柄なので。尊敬する鶴瓶さんのように、歳を取ってもイジられるようなキャラクターで活動していきたいです」。今日もブレイクする日を夢見て、舞台に立つ。 (取材・文/編集プロダクション『QBQ』 渡辺則明)


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【Global Economy】(48) 竹森俊平の世界潮流:移民受け入れ、戦略練って

移民の受け入れは、経済や社会に様々な影響を及ぼす。欧米各国は移民増加への対応に頭を悩ますが、少子高齢化が進む日本にとっても今後、議論を深める必要が出てきそうだ。国際経済学者である慶應義塾大学の竹森俊平教授が解説する。

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「巨額の債務も、所得が上昇すれば負担が減る」という理屈に立ち、国内総生産(GDP)の2倍近い公債残高の負担を、経済成長を加速して軽減する――。この発想が安倍内閣の経済政策の中心にあった。それで2%程度の実質経済成長を継続することが目標にされた。しかし、現状では実現は覚束無い。長期的な経済成長率は、その国の総供給能力に依存する。2016年通商白書に従い、一国の総供給能力の成長率を示す“潜在成長率”をみると、2006年以降、約5年間の平均で、アメリカは1.9%、ドイツが1.1%だったが、日本は僅か0.4%。日本の場合、労働力が0.3%のマイナス要因になっている。少子高齢化で日本の労働人口が減少し、成長率を押し下げ、それで2%成長が遠ざかったのだ。人口動態では、日本は2025年に団塊の世代が全て後期高齢者になる転換点を迎える。年金や医療等、社会保障費の一部は財政が負担するから、財政状況は悪化する。更に、「2015年から2025年の間に要介護者が100万人以上増える」という予測もあり、人手不足は一層深刻になる。現在は女性就業率の上昇で不足を緩和しているが、それにも限界がある。そうなれば、労働力を増やす方法として移民を考慮せざるを得ない。欧米では“移民”は普通に使われる言葉で、ここでも使う。日本政府の公式発言では、この言葉が避けられている。移民は永住者のイメージがある。「外国人は短期で帰国するべきだ」という考えなのか?

ヨーロッパの移民大国であるドイツでは、1961年に当時の西ドイツとトルコ政府との間で雇用協定が締結されてから、移民流入が増加した。この協定では、トルコ人労働者は短期で帰国する前提だったが、実際には滞在が長期に及ぶケースが多く、それを追認して1964年に協定が改定され、長期滞在が認められた。国内産業界からの要請があったのだ。外国人労働力をドイツの生産システムに適応させるには、職業訓練が必要だ。その為に費用がかかる。漸く戦力になった人材を短期で帰らせ、新しい人材を一から教え直すのはあまりに非効率――。これが産業界の主張だった。日本の場合も今後、介護の現場等で外国人の就労が増えた時に、漸く戦力になった人材を短期で帰国させるには抵抗が生じるだろう。既に日本政府は、高学歴者や投資家等の“高度人材”に対して、国内永住権の承認を短期化する努力をしている。日本経済の将来は、産業技術の高度化でしか開かれない。だから、海外から優秀な技術者を獲得する為の措置は不可欠だ。だが、人口動態からして、医療や介護も確実に成長産業だ。長期滞在を認める措置を、この分野に広げる必要性が生じるかもしれない。若し日本で移民が増えた場合、社会保障政策(※年金や医療)をどう適用するかという、どの国も頭を悩ませている問題が生じる。移民は、社会保障制度にとってマイナス面とプラス面がある。先ずマイナス面だ。国民間の互助制度である社会保障が機能するには、社会の“同質性”の意識が必要だ。福祉国家として知られる北欧諸国では、最近まで移民が少なかった。アメリカは移民国家だ。だから、医療の国民皆保険すら存在しない。先週、与党の共和党は、バラク・オバマ政権時代に成立した皆保険への第一歩、医療保険制度『オバマケア』を廃止し、代替する法案を上院通過させることができなかった。制度の行方は依然、不透明だ。白人層の一部は、自分の税金が黒人等の医療費の補助に回るのを嫌う。これが問題の根源だ。一方のプラス面だが、移民は社会保障会計を含めた財政の助けとなり得る。国民と政府の間の支払い・受け取りを差し引きした勘定を考えよう。社会人前の若年層は、税負担は少ないのに、政府は彼らに教育等のサービスを提供するから、政府の“支払い”だ。退職後の高齢層にも、政府は年金・医療保険等を提供し、やはり政府の“支払い”になる。これに対し、税金を一番負担し、教育・医療・年金を然程必要としない勤労者・成年層の場合、政府の“受け取り”になる。

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【労基署ショックが日本を襲う】第2部(07) 『ヤマト運輸』の超高等戦術…5年をかけずに間に合わせる決意表明

セールスドライバーの反乱から始まった『ヤマトホールディングス』のピンチ。だが、巧みな情報戦術により、すんでのところでブラック企業落ちを免れた。ヤマトが防衛できた原因とは?

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宅配業界のガリバーこと『ヤマト運輸』を中核子会社に持つヤマトホールディングスは、用意周到だった。全ての発端は昨年8月、横浜北労基署から是正勧告を受けたことだ。勧告を受けたのは神奈川県平川町支店。同支店に勤務する元セールスドライバー2人が、「自分の労働実態が違法なのではないか?」と労基署へ駆け込んで申告したのだ。元ドライバーの1人の“36協定”(※労使で締結)では、所定労働時間(※1日8時間)を超えて働ける労働時間の上限を、月95時間且つ年間521時間とされていた(※2016年2月時点)。ところが、実際の残業時間は年間900時間前後あったとされている。この件自体は今年3月に調停が成立しているが、これがきっかけとなってヤマトHDは、全社的に未払い残業代190億円を支払う羽目になった。最初は様子見を決め込んでいたヤマトHDだったが、経営陣は労働問題が火を噴くことの恐怖を承知していたのだろう。3月から4月にかけて、「遅きに失したところはあったが、経営陣が『働き方改革をしっかりやる』と腹を括ってからの情報戦術は、見事であるとしか言いようがない」(あるメーカーの人事担当)。実際、矢継ぎ早に重要な意思決定をアナウンスしていった。ヤマトHDが並行して進めたのは、以下の3つである。第1に、労働組合を巻き込んで、労使協調で足並みを揃えたこと。第2に、大口顧客である『Amazon.com』を“仮想敵国”として設定し、(後に値上げを呑んでもらう為に)消費者の同情を集めたこと。そして最後の第3に、働き方改革の3点セット(※①27年ぶりとなる宅配便基本運賃の値上げ、②宅配便の総量コントロール方針を決定=社員の総業務量の減少、③社員9200人の増員)を表明し、社員を大事にする方針を鮮明にしたことである。

組合・消費者・社員…。関係者の其々に配慮した超高等戦術を駆使したと言っていい。ともすれば、ヤマトHDはブラック企業へ転落していたかもしれなかった。本はと言えば未払い残業代のトラブルである。しかも、「労基署から複数回是正勧告を受けていたのだから、“真っ黒”と批判を受けても反論し難い筈。しかし、巧みな情報戦術と、少なくとも3桁億円の持ち出しを決めたことで、世間の納得感を得られた」(厚生労働省幹部)。実際、2018年3月期は社員給料が前年同期に比べて約160億円増える。その上、労務管理システム等のIT投資に約90億円を投じることも決めている。労基署対策としては十分過ぎるくらいの人事部の防戦だ。この決断ができたのは、ヤマトHDに確かな自信と財務余力があったからに他ならない。2015年度の宅配便市場シェアでは、ヤマト運輸が47%、『佐川急便』が32%、『日本郵便』が14%となっており、上位3社で9割強を占める寡占市場だ。3社の中でも圧倒的首位に立つヤマト運輸が値上げに踏み切れば、競合も追随することは目に見えていた筈だ。結局、競合他社が値上げに追随する方針を示し初めており、国内市場における競争条件がヤマトHD(ヤマト運輸)に不利に働く訳ではない。尤も、これで一件落着なのかと言えば、そう簡単な話でもない。政府の働き方改革では、自動車の運転業務(※運送業界)には5年の猶予期間を経た後に、“年960時間以内の規制を適用”等の上限規制が課されることになった。「簡単ではないが、5年をかけずに間に合わせたい」と、ヤマト運輸人事戦略部の渡邊一樹部長は意気込みを見せる。また、ある労働基準監督官は、「ヤマト運輸らのドライバーが朝から晩まで走り回っている状態は解消されていない。これが無くならないと、労働条件が完壁に改善されたとは言えない」と言う。別の監督官は、「業界首位に君臨し続ける企業には、競合に抜きん出る“何か”がある。監督官がそこに目を付けることもある」と言う。その“何か”が、過重労働の下に成り立っている何か――人繰りやコスト削減だったならば、監督官は容赦なく飛んでくる。只でさえ、大企業への臨検は増える傾向にある(※左上画像)。実際、5割超の企業が勧告・送検を受けている。いつの時代も、人事部にとって労基署がプレッシャーを与える存在であることに変わりはない。


キャプチャ  2017年5月27日号掲載

テーマ : 働き方
ジャンル : 就職・お仕事

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