部活動か、クラブチームか――。サッカーでは、この2つのカテゴリーがよく比較される。Jリーグが全クラブに育成組織の保有を義務付けている為、部活動ではなく、クラブの下部組織を選択する選手も多い。一種の地域移行の先行事例とも言える。育成年代の指導に長く携わる『アルビレックス新潟シンガポール』の吉永一明監督(54)は、高校、Jクラブ下部組織の両方で監督を務めた。其々のメリットや、部活動が地域移行されることについての考えを聞いた。 (聞き手/西部本社報道部運動グループ 丹下友紀子)
――山梨学院大学付属高校(※現在の山梨学院高校)では、保健体育科の教諭、サッカー部の顧問、寮の責任者で24時間、生徒と一緒でした。「学校活動の一環の部活は、人間教育が謳われます。山梨学院大付高には多い時に、120人程の選手が在籍しました。人が増えれば考える量も増えます。生徒を預かる立場として、寮生活では、夜に何かがあっては嫌だという思いが消えず、熟睡した感覚がありませんでした。激務というよりはナーバスになり、眠りが浅く、ピッチの上で一瞬記憶が飛んでいるようなこともありました」
――2013年には苛め問題が起き、活動停止処分も受けました。その際には監視体制を強化するのではなく、選手の自立を促しました。「先輩、後輩の力関係は、僕が行く前から問題でした。そういう人間関係をなくす為に監督として構えるのではなく、彼らの中に飛び込み、同じ目線で話を聞く関係を築いてきたつもりでした。しかし、問題が起きたということは、やってきたことが上手く伝えきれていなかったということです。一人の人間として接することを、より大事にしました」
――Jクラブのユースチームと部活動の違いは?「Jクラブには皆、トップチーム昇格を目的に来ており、目標は同じです。(サッカーを)やっていく中で力の差が出て、(選手によっては)大学進学等方向性が変わります。違いがあってもいい、ということを大事にしていました。また、福岡でユースの監督をやった時は、何かあれば学校から電話がかかってきたり、学校へ行ったりと連携を深めました。学校にいるかいないかの違いで、情報共有はしていました。ユースの選手は、学校、家、クラブと3つの場所を動いています。そこにいる大人が同じ目線で選手を見守ることが重要です」
――高校、ユース、其々の良さや課題は?「Jクラブでは少人数にエリート教育が施される為、手厚い指導が受けられます。しかし、やり方次第では選手の自立を妨げ、選手が狭い世界で育つ危険性があります。クラブ以外の世界を知る機会を与え、育てないといけません。高校は大人数で切磋琢磨する環境があり、サッカー以外のことも教えてもらえます。関わる大人の数が多く、沢山の学びを得られます。反対に、埋もれてしまう可能性もあります。システムとして、例えば今年は高校の部活でプレーするが、プロの試合に出られるレベルまで成長すれば、翌年はJクラブのユースに入り、トップチームの試合に出るというように、選手側がプレーする場所を選べる仕組みができればいいですね。そうなれば、指導者も努力するようになります。それくらいの改革が必要です」
――部活動の地域移行については、どう思いますか?「物理的に地域へではなく、地域と共に子供達を育てるということが大事です。子供の頃にどれだけの大人と関わるかは、その子の将来に大きな影響を与えます。地域移行は指導を丸投げしてしまうイメージもありますが、子供達を一緒にサポートして大人にしていくことが目的としてあるべきです」
――地域移行では、教員と同じ教育的効果を求めることが難しくなります。「地域の指導者は教員ではありませんので、どこまで介入できるかという問題は出てきます。学校側の人間も活動には必要です。日本にはクラブチームがどの地域にもあります。その指導者が上手く関われれば、指導者の働く場所が増えます。若い指導者も増えています。彼らの活動する場所が確保できるという可能性も秘めている。どう募集し、採用するか、どこまで任せるかは選ぶ側の責任。難しい問題が出てくるかもしれませんね」
――シンガポールの部活動の現状は?「学校での部活動もありますが、体育の授業の一環のような雰囲気です。もっとやりたいと思う子はクラブに入ります。だが、“プロになりたい”という本気度は日本に比べると低い。シンガポールでは18歳から兵役義務があり、サッカーができない時期があります。一概に比較はできません」
――指導で大切にしてきたことは?「サッカーを介して何を学ぶか、それをどう将来に繋げていくのかを心がけていました。人を扱うので、大変で当たり前です。人として尊重し、理解しながら、こちらのことも理解してもらわないといけません。僕のところで成功せずとも、その後に活躍したり、他の場所で輝いてくれたりする姿を見てよかったなと感じます」

2022年6月15日付掲載
テーマ : 部活
ジャンル : 学校・教育